- 運営しているクリエイター
記事一覧
「もう十分」という言葉
2021年のゴールデンウィーク。
「もう十分」という言葉が、心の中で繰り返されている。
朔也の母が望んでいた「自由死」という考えに否定しながらも、「もう十分生きたから」という思いは、私の中でわかりすぎるくらいの思いでもあった。年を取ると、そういう気持ちになってくるのだろうか。「もう十分」人生を歩んできたのだから。
でも死ぬのは怖い。先日の「語る会」で平野さんが仰っていたその気持ちもわか
JR上野駅公園口(柳美里)
不忍池の風景には、東京の喧騒を弔うような寂寥感がある。
『JR上野駅公園口』
読み終えた後も、息苦しく、やりきれない虚しさが残る。
ホームレス、貧困、孤独死、バブル崩壊、東日本大震災、動物遺棄など様々な社会問題。
死ぬことよりも、生きていくことの不安。
上野恩賜公園にまつわる歴史を織り交ぜ、現代と過去を行き来しながら主人公の生涯を浮き彫りにしていく。
鬱々とした梅雨の居心地の悪さや、凍てつく
『日蝕』美しい文を味わう
時代背景は中世の南仏。パリ大学で神学を学ぶ学生(私)が体験した出来事を記録するかたちで物語は展開される。その細部にまで表現にこだわった古典調の美しい文に引き込まれ、まるで自分自身が小説の中で、主人公であるニコラと同じ場面に遭遇し、そこで起こり得た出来事を証明するかのように旅をし、登場人物に出会い、一連の「事件」に立ち会うことができる。
錬金術、魔女狩り、黒死病といった、歴史的に興味深く謎に満ちた
未知であることの不安
『苦海浄土』(石牟礼道子著)読了。
読みはじめのきっかけは、環境倫理学の受講を通じてである。
詩的で叙情的な不知火海の描写が美しい。その分水俣病の悲惨さが際立つ。また、無知であることの悲劇は、今の世界にも反映している。
‘潮の満ち干とともに秋がすぎる。冬がすぎる。春がくる。そのような春の夜の夢に、菜の花の首にもやえる小舟かな、などという句をものして目がさめると、うつつの海の潮凪が、靄の中か