フランツ・リストの名曲「ハンガリー狂詩曲」はハンガリーの民族音楽と無関係?!
こんにちは、ピアニストの金子三勇士です!ノートで連載しています気まぐれ音楽記事、今回のテーマは「ピアノの魔術師」と呼ばれる19世紀ロマン派を代表する作曲家・ピアニスト、フランツ・リストの作品集、ハンガリー狂詩曲についてです。
トム&ジェリーにも登場する名曲
世界中で愛されているトム&ジェリーの中に、ピアノ好きにはたまらない一作がある。アカデミー賞受賞作品「トムのピアノコンサート」だ。猫トムがピアノリサイタルを行い、なぜかピアノの中に住むネズミ、ジェリーといつもの面白おかしい掛け合いが繰り広げられて行く。ここでトムが演奏している作品、すなわちアニメーションの音楽に選ばれたのはリストのハンガリー狂詩曲第2番という、名曲中の名曲↓
この作品が世界中で広く知られるようになったのは、トム&ジェリーの影響もかなり大きいのではないかと考える。
ハンガリー狂詩曲は全部で何曲?
意外と知られていないが、ハンガリー狂詩曲は全部で19曲もある事。プラス1曲スペイン狂詩曲という作品も書かれていて、合わせて20曲と考える事もできる。
また、このハンガリー狂詩曲集は数回に分けて書かれているため、曲によってかなり作風が異なるのも一つ大きな特徴である。トム&ジェリーの第2番の他にも第6番、第12番や第15番(別名ラーコーツィ行進曲)第19番などが比較的よく演奏されている。
ハンガリー狂詩曲がハンガリーの民族音楽と無関係である理由
題名に「ハンガリー狂詩曲」英語では "Hungarian Rhapsody" と「ハンガリー」が入ることで、これがハンガリーの民族音楽であると勘違いされる事が多い。しかしこの作品集に反映されているメロディや踊りの音楽はハンガリーの民族音楽とは全く関係がない。ではこれらの音楽は一体どこから来たのでしょう?
ロマ音楽隊について
リストは当時、祖国ハンガリーの貴族が主催するパーティーやイベントに頻繁に参加していた。宮殿のボールルームなどで行われた豪華なお食事会やダンスパーティーではリスト自身がピアノを披露するシーンも珍しくなかった。
このような催しの際、ゲストを楽しませるために雇われた「音楽隊」が演奏をする機会が多く(今で言うライブBGMといったイメージでしょうか)その「音楽隊」はハンガリーに住む少数派民族「ロマ」の音楽家達で結成されていた。(別名ハンガリアン・ジプシー、但し現在一部では差別用語として認定されているため以後使いません)
ロマ音楽隊の演奏のほとんどが即興ではあるが、メロディーや曲の大まかな流れは作曲者や発案者が判明しているため民族音楽として認める事が出来ず、「民族音楽風」にすぎない。なぜなら、民族音楽の定義は:その国や地域の民族に根付いた【作者、作曲年月日や場所が不明の音楽】とあるからだ。
リストはハンガリーで聴いたこのロマ達が弾く音楽に感銘を受け、メロディやリズムを反映した作品集に「ハンガリー狂詩曲」と題名を付けた。
同時代の作曲家ブラームスが書いた「ハンガリー舞曲集」が生まれた背景も全く一緒のため、やはりハンガリーの民族音楽とは無関係である。
クラシックの作曲家として「本物」のハンガリーの民族音楽にスポットライトを当てたのは後の時代、20世紀のバルトークとコダーイがはじめてだが、これはまた別の記事で触れる事としよう…
上の理由によりリストのハンガリー狂詩曲集は民族音楽とは無関係だが、ハンガリーの土地やハンガリー人の心の中にしっかり根付いた事に違いはない。リストの前で演奏を披露してくれたロマ音楽隊、そしてそれをここまでのピアノ作品集にしてくれたリストには心から感謝したい!
(©︎Miyujik Official, 2020)
ハンガリー狂詩曲第2番を聴く
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