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世界をリセットしたい

7歳の息子がひとこと、つぶやいた。

「世界をリセットしたいな」

大人びた描写に驚きつつ、「自分の都合でリセットできたらこの世はいくつあっても足りないよ」と軽く返した。

「ねぇ、大人になったら、どんどん広がっていくのかな。色んなことがわかっちゃうのかな」と息子が聞いてきた。なんとも抽象的な表現に「なにが?感染病とか?」と聞き返しても返事はない。表情が曇り始めて、泣き始めてしまった。

コロナのことが不安なのかな…。息子を抱きしめながら背中をさすってあげた。でも、泣き止む気配がない。別のところに問題がありそうだ。

「どうしたの?何か困った?」と聞いても「言いたくない」と息子。息子の大好きなパパになら話せる?と聞いても「話したくない。友達にも。誰にも」と泣きじゃくる。さてどうしたものか。息子は明らかに何かに悩んでいる。でも言葉に出来ずに、苦しんでいる。いじめ?トラブル?色んなことが頭を巡ったが、何しろヒントが少なすぎる。

「人に言いたくないことかもしれないけど、困った時は困ってるって助けを求められるようにならないと、この先もずっと苦しいよ?1人で泣いてても解決できないでしょ?」「…」息子が泣き止んで話してくれるのを、頭をなでながら待った。

「…怒らない?」やがて、話をすることを決心した息子。「大丈夫だよ」と答えながら(何をしたんだ?物でも壊した?友達の消しゴムでも盗んだか?)と頭の中はフル回転だった。

「いけないことをしちゃったの」と、泣きながら息子が話し始める。「道におしっこしちゃった」と。(へ?おしっこ??)一気に気が抜けた。どうやら、お友達と帰り道にふざけておしっこをしたらしい。それを近所の人に見られて注意されたのだ。

息子を抱きしめたまま「近所の人に注意されて、悪い事だとわかったんでしょ?だったら怒らないよ」と話したけど、まだ浮かない様子の息子。この話には続きがありそうだ。

「担任の先生に聞かれたときに、友達だけがやったってゆった。僕はやってないってゆった。怒られるのが嫌だから。」正直、こっちの方がショックだった。自分が怒られたくないから嘘をつくなんて。しかも泣いてる理由が、友達を裏切って申し訳ない、じゃなく、嘘がバレて怒られるのが恐い、だった。自分の身を守るためについた嘘に怯えていた涙だった。

とりあえず「話してくれてありがとう」とお礼を言った。とても勇気のいる告白だったろう。やってしまった事はしょうがないけど、その後の始末が悪い。正直に先生に話した方がよいと伝えた。ちゃんと話せるか不安そうだったので私からも先生に話すことにした。

他人からみれば大した話ではないかもしれない。数年経てば笑い話になるかもしれない。でも、彼の中では世界をリセットしたいくらい後悔していて、ここ数日、頭の中の大半を占めていたのだろう。

最後にもう一度「話してくれてありがとう」と伝えた。死ぬこと以外はやり直せるし、大体解決できるから。また困ったことがあったら話してね、と。彼が成長する瞬間を見られた気がした。




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