文字を持たなかった昭和 一(はじめに)

 自分の言葉で何かを伝える手段がなく、そんな発想すらあり得ず、戦前から戦後をひたすら生きたふつうの人たちのことを書きとめておきたい。いちばんは昭和一桁生まれの母や父、祖父母、そして周りにいた人たち。多くはわたしが聞いた、あるいは記憶する「地方の昭和の話」になると思う。周囲の大人たちが話していた地のことばも、記録として書いてみたい。

 昭和が、昭和後期の明治か大正――つまり歴史の一コマ――みたいに扱われ、ドラマの中でも、当時はそうじゃなかったと思うけど? と感じる場面がたびたびあり、自分が知っている昭和を(それが地域限定、時代限定だったとしても)残しておきたいと思ったからでもある。

 「生」は受け継がれてきたもの。両親や祖父母、そのずっと前の世代から譲り受けてこられたから、いまの自分がいる。そんなことも折に触れて書いてみたい。

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