音漏れテロ

私の通勤スタイルは、駅までの道のり及び乗り換え時はイヤホンで英語のリスニング、車内は読書の2パターンだ。音楽は割と好きなので、音楽がかかっていると頭がそっちにもっていかれて集中できないため、読書や勉強中は基本無音がいいと思っている。そして電車の中での読書は、快適な温度と心地よい揺れのおかげか、かなり集中できるので貴重な時間だ。

しかし、車内読書愛好家にとって、気をつけなければならないことが3点ある。それは、1イヤホンからの音漏れ 2悪臭 3大声のおしゃべりである。

中でも、最も遭遇する危険性の高いのが1に挙げた「イヤホンからの音漏れ」だ。スマホが普及した最大の憂いごとだと思っている。(歩きスマホも嫌だけど)

多様性を重視する昨今、音楽のジャンルや趣味も多様化してきており、それに伴い音漏れ音(おともれおん)も様々になってきた。が、古今東西共通して言えるのは、「どんなにいい音楽だとしても、イヤホンからの音漏れは最悪」ということであろう。クラシックだったら、低く連続して響き渡るティンパニーの音や、高音の弦楽器のキンキンした嫌な部分だけをうまいことセレクトして漏れている。ロックの場合はドラムスの刻むビートと、それに不定期にとどろくシャウト。最近急増中なのが、アイドルの曲の浮かれて落ち着きのないリズムと耳障りな高い声(歌詞までは聞き取れない、単なる「音」としての声)。そしてアニソン?か何かの鼻にかかった高音ボイスが早口にまくしたて(てい)るハイテンションな漏れ、シンセサイザー的な楽器であろう、「モスキート音って聞こえたらこんなかんじ?」といった趣の「単なる高音」。

どれもこれも耳障りこのうえない。クラシックもロックも、アイドルもアニソンも、「音楽」としてはいいのかもしれないが(趣味は人それぞれ)、車内に流れているのは音楽ではなく「漏れ音」にしかすぎない。しかもそれを耳元でずっと流され続ける気分といったら、もはや受刑者の気分。「私何かわるいことしましたっけ?ああ、先週燃えるゴミの中にビニルの切れ端いれました。あれが悪かったんですか?ごめんなさい。」と、自省に自省を重ねたくなる。

しかし、私が一番嫌だと思う音漏れミュージックは、「ヒップホップ」だ。ヒップホップの漏れは本当にやばい。まずそもそも、ヒップホップは「漏れやすい」。ズン、ズン、ズッズン、ズン、ズン、ズズズズン。まるで不整脈患者の診察をしているような気分にさせる重低音。そして、ラップの声が語尾だけあるいは撥音部だけプスプス、ッスー、ッスーみたいに聞こえてくる。これを聞くと私は不安な気持ちになる。なぜだ?

昔どこかで、他人の携帯電話での話し声が深いなのは、携帯通話というのは、会話の「片側」しか聞こえない「不完全な」会話であり、人間の脳は「不完全な」会話を聞くと、その全容を明らかにしようと働くからだ、みたいなことを聞いたことがある。音漏れも同じような事情なんだろう。不完全な「漏れ音」を聞くことによって、そのイヤホンの内側に流れる音楽を、無意識のうちに推測してしまう。だから集中力が奪われ、あるいは自意識とは無関係に脳が働いてイライラする。

音漏れぐらいに動じない、強靭な精神力を身につけたいと思い続けて早15年(ぐらい)。どのような修行を積めばその境地にいけるのか皆目検討つかないまま、今日もそっと音漏れテロリストの隣から、席を立つのであった。(今日は席を移動したらその移動先にもテロリストがいたので、かなりげんなりした。)

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