くまおの憂鬱 #同じテーマで小説を書こう
くまおは雨の日が嫌いだ。
外で遊ぶと泥だらけになるし、木の実は湿気って美味しくない。
ちょろちょろできた小川を覗いても魚はいないし、お手手ですくって水を飲んだって面白くない。
何より、みんな傘をさす。
くまおはおしゃれというものに興味がない。
だから、みんなのさしている傘がカエデの葉っぱだろうがサクラだろうが、はたまたドングリだろうが、そんなことはどうでも良い。
自分の使っている傘がなんの葉っぱなのかもわからないくまおが、みんなの傘の見分けなんてつくはずもない。
ただ、ひとつだけ見分けのつく傘がある。
くまおの雨嫌いの原因でもあるそれが、
「やーい、おまえの母ちゃんの傘、ブロッコリー!」
くまおは雨の日のたびにこうからかわれる。
もううんざりなのだ。
そもそも「やーい、おまえの母ちゃん」のあとには「でべそー!」と続くからリズミカルにからかうことができるのであって、傘がブロッコリーだなんて長々しくてつまらない。
でも、つまらなくても事実なのだからさすがのくまおも気にしてしまう。
おしゃれに興味のないくまおでも、お母さんの傘がみんなと違うことくらいわかっている。
あの変わり者のヤギのおばさんでさえ、傘はなんだか大きな葉っぱで、野菜なんかさしていない。
森じゅうを探したって、野菜を、しかもよりによってブロッコリーを傘にしているのなんて、くまおのお母さんだけだ。
「ねえ母ちゃん、なんで母ちゃんはブロッコリーを傘にしてるの?」
夜、布団に入ったくまおは、雨の日お決まりの質問をお母さんになげかけた。
「あんたまたそれを聞きたがるのかい?」
「だって、今日もうさきちたちにからかわれたんだ。もうぼくうんざりだよ」
「しかたないねえ。母ちゃんがブロッコリーを傘にしているのはね、父ちゃんとの出会いがこの傘だからなんだよ」
「どゆこと?」
「あれはまだ、母ちゃんが今よりずっと若かったころにね、花を摘んで束ねてそれをカゴに入れて売っていたんだけれど、ある日ひどい雨が降ってきてね。売り物の花の葉っぱをもいで傘にするわけにもいかないし、原っぱでは雨宿りできる木もない。ただ、ちょうどブロッコリーを持ってたの。ほら、お腹がすいたら食べられるし、花が咲けばそれだけでブーケになるでしょう。それで、ブロッコリーをさして雨が止むのを待っていたらそこに通りかかったのが父ちゃんでね。なんて言ったと思う?父ちゃん、母ちゃんのことを見て『はっ、おもしれー女』って……ってあら、くまおったら寝ちゃったわ」
くまおがブロッコリーのいきさつをきちんと聞けるのはもう少し大きくなってから。
きっとそのころには、くまおの傘がブロッコリーの葉っぱだということにも気づけるはず。
***
今回の小説は杉本しほさんの企画への参加です。
普段、企画ものって怖じ気づいてしまって見るだけになっているんですが、思いきって書いてみました。難しかったけど楽しい!
それにしてもこのテーマを思いつく発想力がすごい……。
しほさん!素敵な企画ありがとうございました!
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