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小さな体で大きな愛情を

 昨年坊ちゃん文学賞に投稿した作品を載せたいと思います。4000文字のショートショートですのでよろしければぜひ読んでください。お願いします。


 今僕は死んだはずの祖母と一緒に暮らしている。信じられないかもしれないけど本当なんだ。その生活が始まったのは祖母の葬式からだ。祖母との別れは突然だった。病院から倒れたと連絡があり駆けつけた時には息を引き取っていた。あまりにも突然の別れを受け入れきれず涙もでなかったが、通夜、葬式を行っていくうちに嫌でも祖母が亡くなったこと実感する。それを受け入れると涙が止まらなくなった。祖母は僕にとって父でもあり母でもある存在だったから。僕は小さい時に親が離婚し父に引き取られたが、仕事柄ほぼ家にいない。母も別の人と再婚した為一年に一度くらいしか合わなくなり、祖父も僕が生まれる前には亡くなったので唯一心許せるのが祖母だった。だから葬式中もずっと泣いていると

「泣きすぎだろ」

と耳を疑う言葉が聞こえその声のほうに目を向けると、同い年ぐらいの若くて綺麗な女性と目があった。顔が綺麗でも心は汚い人だなと思いながらもどこか見覚えがある顔だなと思う。再確認をするためにもう一度顔を見ようと視線を上げると既に僕の目の前に立って笑っていた。そして

「和樹、私が見えるのか」

突如目の前に現れしかも名前を言われ、怖くなり震えながら

「見えます」

と答えるとこっちにこいと言われる。首を横に振るが

「いいからこい」

と強く言われたため、仕方なくついていく。つれてこられたのは死んだ祖母の思い出の写真が飾ってある場所だ。そこで祖母の若い時の写真を指差しながら女性は言う。

「見てこれ私。静代」

意味が分からず聞き返す。

「どういうこと」

「だから、私が静代。お前のばあちゃんだよ」

突然そんなこと言われても信じられないと返すと。あーもうと頭をかきながら

「だったら和樹との思いで話すから」

といって話を始めた。最初は半信半疑で聞いていたが、その話の全てが合っていたため、目の前にいるのが祖母だと信じることにした。夢かと思い頬をつねるが痛かった。夢ではないようだ。色々と聞きたいが

「何で若い時の姿なんだよ」

最初に聞くことではないなと思ったがどうしても気になった。

「誰が死んでまで、ババアの姿でいるかね」

その答えに妙に納得し、冷静になったところで

「何でここにいるの。死んだんだよね」

と一番の疑問点を聞く。すると僕らでいう神という存在に期限付きで一人だけ見えるようにしていいと言われ、期限は四十九日までと説明された。あと僕と祖母との会話は周りには聞こえないし、黙って立っている様にしか見えないという都合の良い設定付きだ。


 葬式を済ませ家へ向かう道中に祖母が

「何真っすぐ帰ろうとしてるの、飲みに行くよ」と言ってきた。

「飲みに行くって、葬式があったその日に行くとういのはあまりにも不謹慎だろ」

「死んだ本人が言ってるんだから。良いに決まってるじゃないか」

とまた妙に納得できることを言われてしまう。でも一人で行ったことないしなと答えると。

「二人でだよ」

と振り向きながらウインクをされ思わず可愛いと思ってしまったが、死んだ祖母だとすぐに思い出し吐きそうになった。そんな僕を見てあきれながら

「馬鹿だね」

とつぶやき、続けて

「どうせ彼女いないんだろ。今日作りにいくよ」とその物言いに少しムッとするが事実だから何も言い返せず僕たちは町へでる。一件目は適当に居酒屋に入ってある程度酔うまで飲んで店を出た。酔わないととてもナンパなんかできないから。そして二件目のバーを探そうとすると祖母が

「和樹好みの女性がいるバーを探してくるから待っとけ」

と言われ祖母が探してきた店に入るとカウンターに同年代くらいの女性が座っており、確かに僕好みの女性だった。それに一気に緊張していると、ニヤニヤしながらこっちをみている祖母に気づく。そして満足げに

「な、和樹の好みだろ」と言われ好みがバレていることが恥ずかしかった。その後中々声をかけれないでいると、見兼ねた祖母が

「いいかい。ばあちゃんの言った通り復唱すれば大丈夫だから」

と言う。素直に従うのも癪だが、それしか突破口がないので従ってみる。そして

「これから、僕と踊ってくれませんか」

祖母が言ったことを何も考えず復唱をしたが会話の意味が分からな過ぎて話しかけられた女性も驚いている。その様子をみた祖母は腹を抱えながら笑っていたので後で殺すと思ったが、もう死んでいる事を思い出す。絶対変な奴だと思われたと諦めていると、女性が笑顔で答えてくれた。

「ダンス得意なんですか」

「いやダンスは得意ではなくて。その祖、いやそのお姉さんダンス得意そうだなと思って」

返答が返ってきてテンパる僕を見て女性はまた笑う。それは馬鹿にした笑いではなく優しい笑顔だった。

「今日は一人でこられたんですか」

と今度は向こうから話しかけられ、それから意外と会話が盛り上がったが、なんとなく連絡先がきけないままその日はお別れした。


 それからはなにをやるにしても祖母と一緒だった。そんな非現実的な生活に慣れてきた十日目その日の仕事で先輩がミスをするもその責任を全て僕に押し付けられた。それに対して言い返さない僕を見て祖母は

「あんたの責任じゃないよ。何で言わないんだよ」と言う。

「仕方ないよ。あの先輩に逆らうと会社に居づらかなるし」

と面倒くさそうに返す僕の言葉を聞くなり、祖母は激高し口論になった。返ってくる祖母の言葉がどれも正論過ぎてそれが逆に苛立ちを覚え、祖母への言葉が強くなる。そしてそれ以上言うな、辞めろと自分で思いながらも次の言葉が出てしまった。

「ばあちゃんはもう死んでるからいいかもしれないけど俺はまだこの先も長いんだよ。だからほっとけて」

直ぐに言い過ぎたと思ったが、それでも言い返してくるだろうなと祖母のほうをみると、祖母は少し寂しげな表情をしながら

「そうかい。じゃあもう知らないよ」

とだけ言葉を残しどこかに飛び立っていった。謝るのは帰ってからでいいかと思い、祖母を止めず先輩の尻拭いをするためにデスクへ向かった。だが家に帰っても祖母はおらずそれどころか明日が四十九日に迫る今もまだ帰ってこない。流石に前日には戻ってくると思っていたがその気配がない。明日で本当の別れになると思うと僕はいてもたってもいられなくなり、先輩に有休の許可を取りにいく。だけど理由も聞くことなく無理と一方的に言われてしまう。その瞬間今まで我慢してきたことが溢れ出し、最後に会社辞めますとまでいって職場を後にした。それから祖母を探しにいくがヒントは全くなく、思いついた場所をひたすら回るがどこにもいない。気づけば日は沈みかかっていた。一生このまま会えないと思い泣きそうになった時に一つの場所を思い出す。小さい頃よく一人で泣いていた場所を。何故かそこに行けば祖母に会える気がして僕は走り出す。肺や足、脇腹が痛くなっても足を止めずに走り続けた。そんな中思い出したことがある。それは毎回泣き止んだタイミングで祖母が向かいに来てくれたこと。今考えれば僕が泣き止むまでずっと見守ってくれてたことが分かる。それが分かると同時に目的に着くと、そこに小さい頃一緒に暮らしていた時の姿で祖母は立っていた。

「ばあちゃん」

とその姿に泣き叫びながら駆け寄る。祖母はその声に反応して笑顔でこちらを振りむく。その笑顔を見て僕は祖母へ抱き着いた。幽霊に抱き着けるわけがないのだが、その時はなぜか感触があった。抱きついてわかったことがある。祖母の体は一回り小さいこと。この小さな体で誰よりも大きな愛情で僕をここまで育ててくれたこと。それを思い知るとより一層涙が止まらなくなった。

「ごめんひどい事いって」

「ばあちゃんこそ悪かった」

と小さな手で僕の頭を撫でながらそう答える。

「いや、全然本当、ありがとう。」

色々な感情が混ざりすぎて訳がわからなくなっていたが、しばらく泣き続け落ち着くと

「よし、仲直りに飲みに行こうか」

と祖母が言うので僕たちは再び町へ出た。一件目の居酒屋でいなくなってた間どこに行ってたのかと聞くと、死ぬ前に世界旅行に行ってきた、もう死んでるんだけどね。と冗談を交えながら答えるがすぐにそれが嘘だと気づく。その話が昔二人で見ていたテレビ番組でしていた話だったから。でもそういうことにしておこうと思った。一件目を出た後今日は、祖母と語りあかそうと思っていたが

「もうあんたと話すことはないよ」

と言うので、初日に行ったバーへ向かう。今度は祖母が下見はしなかったが、いく道中何故だかあの女性に会える気がしていた。店へ入ると本当にその女性がいる事に驚きつつもこんばんわと話しかけるとその女性も少し驚いた様子で言う。

「会える気がしたけど本当にあえるなんて」

その一言で完全に心を奪われた。その後無事に連絡先を交換するという夢みたいな事が実現でき長い一日が終わった。

 そして翌日を迎えた。昨日で全部話せたから後悔はないと思っていたがやっぱり寂しい。お坊さんがお経を読み始めると祖母がそろそろお迎えがくると僕に伝え、続けて

「新しい職探し頑張れよ」

と言ってきた。祖母は僕が探しに行くときに会社を辞めたことを知っていた。やはり世界旅行は嘘であり、あの後ずっと僕に気づかれないように見守ってたみたい。だけど喧嘩した手前意地を張り中々出てこれなかったみたいだ。それを聞くと僕達は似ていて親子だなと思った。そして

「探しに来てくれた時は嬉しかった。ありがとう、元気でね」

と意地っ張りな祖母が泣き笑いながらそれを言うということは、本当にこれが最後と思うと我慢していた涙が止まらなくなった。何とか笑顔を作り

「ありがとう」

とだけ返す。それ以上の言葉は僕らには必要なかった。そして祖母は光に包まれ成仏していった。それから二度と祖母が表れることはなく、あの日々はやっぱり夢だったのではと思っていたところに一件の連絡がはいる。あの女性からだ

「今度お食事にでもいきませんか」



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