見出し画像

しおひがり棟の軌跡⑦ 布を使う

建築の内装に布を使うことは、以前から試みていたことでもあった。

もちろんインテリアに布(ファブリック)を使うのは、何も変わったことではない。

カーテンやローマンシェード、ロールスクリーンなどのウィンドウトリートメント。

ソファや椅子の生地、ベッドリネンや、テーブルクロス。

タペストリーやじゅうたんなども布の種類に入るかもしれない。

僕が考えていたのは、壁や天井の仕上げに使ったり、パーテーションにつかうことだ。

パーテーションとしては、カーテンやロールスクリーンも使うことがある。

ドアの代わりに使ったり、入院病室のカーテンもその類になるだろう。

そういう使い方を、他にも出来るのではないかという試みである。

最初の試みは、co-ba kamaishi marudaiで、防寒のための小さい部屋を作ったことだ。

co-ba kamaishi marudaiの2階は32畳の広い部屋で、さらに天井を撤去してしまったため、暖房が大変だった。

当初は利用者も多くなく、1人か2人のために全部を暖房するのは、もったいない。


帆布で作った布テントブース。チャックを開けて出入りする

そこで、布で囲った小さい空間を作って、その中だけ暖房することにした。

大きさとしては3m×2mで、高さは1.9m。

2人がゆったり使える最小空間である。

この布テントブースの効果は思った以上に大きくて、小さいファンヒーターをつけると、すぐに暑いくらいになる。

しかし、翌年からは貸切り対応などの際に、いちいち解体しないといけないので、使わなくなってしまった。

次に考えたのが、同じ空間の天井の仕上げに使うことだ。

co-ba kamaishi marudaiの2階は天井が高いところが暖房空間として不利なのだが、それに加えて建物全体に断熱もない。

壁に断熱をするのは難しいが、野地板が見えている屋根面に断熱材を張ることは、比較的簡単にできそうだ。

ただ断熱材がむきだしでは格好が悪い。

さりとて、石膏ボードや合板を張るのは、手間がかかるし、材料代もかさむ。

そこで考えたのが布である。

手前が断熱材を貼る前。奥の右が断熱材を貼った状態。奥の左がその上に帆布を貼った状態。

すでに布テントブースで、布自体に一定の気密、断熱効果があるのは実証済みであり、断熱材を布で覆えば、すきま風なども防げると思われた。

使用したのは布テントブースと同じ、帆布である。

倉敷帆布というメーカーで、50m巻きがネット販売していたので、それを2巻購入した。

断熱材はホームセンターで売っている、グラスウール50㎜厚のもので、それを垂木間に充填して、垂木に帆布をタッカーで打ち付けた。

ボードなどよりも施工が簡単で、時間としては3倍ぐらい早かったのではないだろうか。

体感でも、ファンヒーターの灯油の使用量から考えても、効果はあった。

そもそも、簡単に出来るという観点で志向した布を使ったインテリアであったが、断熱以外にも心理的効果が見込める可能性があると思いはじめた。

一般的に天井や壁など、建築物の部分は、ほとんど直線と直角で構成されているもので、カーブさせたりするのはここぞという、こだわりのポイントでしか使わない。

なぜなら手間がかかり、歩留りも悪いため(⑥参照)材料代も膨らむ、つまり金がかかるからだ。

本当は曲線や円があったほうが心理的によいと言われているのだが、経済的な理由で断念せざるを得ないことが多い。

たまに店舗デザインで角が全てR(アール)に加工されているものを見るが、意識せずとも、なんとなくやわらかい雰囲気がある。

仕上げの建材は平面、直線のものが多く、それらを直角に組み合わせることが、材料にも無駄がない。

コーナーのR加工や、曲線は手間が増え、曲面、特に三次元的な曲面を作るのは極めて難易度が高い。

ところが、布なら必然的に三次元的な曲面になる。

例えば、長方形の布を角4点で支持して、水平にすれば、真ん中がたるんだ三次元曲面が出来るだろう。

極めて簡単な操作である。

断熱や施工の簡単さに加え、やわらかい雰囲気を演出できると思われるのが、布を使ったインテリアの可能性だ。

さらにもうひとつ期待できることがある。

防音である。

建築の仕事をしていると、たまに反響がひどい部屋に出くわすことがある。

たとえば床がコンクリートで、壁と天井がビニールクロスなど、吸音効果がなく、平滑で、反射を起こしやすい素材で囲まれた空間は、驚くほど反響する。

そこに家具を置いたり、カーテンをつけたりすると反響が抑えられる。

特にカーテンは布なので、吸音効果もあると思われる。

そもそも壁全体や、天井全体が布であれば、防音効果が高い空間が出来るのではないか。

以上のような実験結果や仮説に基づいて、しおひがり棟では布を使うことを検討した。

壁に断熱材を多めに充填して、その上に布を張り、クッションのような見た目になる方法も考えた。

しかし、co-ba kamaishi marudaiのように自分で管理する空間でなく、あくまでも賃貸物件なので、実験的すぎると思い、結局それはしなかった。

ある意味、無難ではあるが、1階の天井に使うことにした。

1階の天井は、よく使われる化粧石膏ボード(メーカーの商品名が一般化してジプトーンと呼ばれるもの)であったが、雨漏れの跡などもあり、状態が良くなかったため、解体することが望ましかった。

1階の天井を解体して、2階の床をそのまま見せるのは、co-ba kamaishi marudaiでもやっていることだが、別階の音が聞こえすぎる問題がある。

しおひがり棟は、1階に子どもを置いて、2階で母親が働く施設なので、なるべく音が聞こえないほうが望ましい。

そこで、布の天井は効果があるのではないかと思った。

また、もちろん一般的な工法で天井を貼るのは、材料代、工数もかかるし、そもそもやったことがないので、出来る自信がない。

足場も必要になる。

布の天井ももちろんやったことはないが、ボードを張るよりははるかに簡単に思われた。

さらに、赤ちゃんや小さい子どもが遊ぶ空間として、曲面になっているほうがやわらかくて雰囲気がよさそうだ。

使う布はco-ba kamaishi marudaiと同じ、倉敷帆布の11号帆布。

今回は着色されたものを使った。

張り方のほうは、いろいろ考えた結果、吹流し風に、建物のモデュール(柱や梁の間隔)に合わせて布を91㎝間隔で支持することにした。

91㎝の間隔で下地を流して、そこにタッカーで帆布を留め、見切り材に使うような細い木材で押さえている。

布の色はベージュと、アクセントでピンクを入れた。

材料代は帆布が化粧石膏ボードよりは高いが、下地が少なくて済むので、下地も入れると同じぐらいか、少し安いかもしれない。

結果は利用者や見学者からは、おおむね好評である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?