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三宅陽一郎 短編小説集

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#三宅ノート5

黄昏ロボット

「クワはこう持って、こう振る」と一体のロボットは言った。そばにいる一人の人間がうなずく。そしてぎこちない手でクワを振り大地をたがやす。その手足は弱々しい。

「教えられるのは、今年までだよ」

「来年はもういないんだな」

「来年から宇宙に行くんだよ。僕たちはもう人間を手伝えない」

 ロボットは空を見上げた。そのまなざしは夕暮れの雲を超えて、さらに高きをみつめていた。

「星の彼方へ、行くんだな

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チューリング・ガール (小説)

 夏の午後の日差しのもと、僕は一人の女の子と歩いている。彼女の白いブラウスは鋭い夏の日差しを反射し、真っ青なスカートは空に融けそうなほど輝いている。彼女は僕の手を握り、ルミノシティの街を歩く。暖かくやわらかい。だが問題がある。何か問題があるわけではない。この状況自体が一つの問題なのだ。僕はそれを解かない限り、前に進めない。僕は彼女を「観測」する。一挙一動を「観測」し「検証」し「確認する」。彼女が本

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