弱ストリーム国家一般職行政関東(大卒)合格体験記(一次)
前日
その日の私は東京競馬場にいました。曇りと雨とを行き来するような何とも言えない天気の中で
「ルメールよぉ……」
「なんや、これ」
東京１２レース。関西から来た友人と共に３万円になるはずだった２８００円の馬券を握り締め、冷たい芝生の上で空を見上げるばかりでした。
重苦しい雰囲気の中で、本来豊島区にあるハリーポッターパーク(名前不明瞭)のための資金をすべて投げ打った我々は府中駅に向かう途中も終始無言でした。時たま声を発したと思えば
「あ、８千円」
「うん」
と負けた金額を口にして、ため息を吐くばかりでした。京王線に乗り、下宿へ向かう間も無言で、最寄駅に降りた時になって彼が口を開きました。
「ラーメンが食べたい」
私も同調して
「サウナも行きたいね」
と言うと彼も少し笑顔になって
「それで家飲みをしよう」
と、夜の予定を語り始めました。仮眠を取ってラーメンを食べた後、サウナに向かう途中の道すがら。夜の帳は既に下りきり、野猿街道は真っ暗でした。最後ルメールが勝っていれば。私はそう思いつつ、彼はしきりに
「鳴尾記念は勝ててたって」
と虚無に向かって言葉を発して。
「ふふっ」
と私は笑うばかりでした。私は鳴尾記念に賭けていなかった分負けていない。
さっぱりした後、私たちは近所の激安スーパーで酒とつまみを買い、六畳の下宿で酒盛りを始めました。
「ストゼロと氷結は上手く酔える」
彼はそう語り、私は麦酒と澪とモンエナと発泡酒とポップコーンをちびちび頂きながら彼の話に耳を傾けつつ、明日の安田記念の話なんかをして程よく今日の負けを忘れようとしました。その後晩酌は夜中の３時まで続きました。
「そういえば明日は試験じゃないの？」
私はハッとしました。受験票も印刷していなければ証明写真も撮っていない。しかしお酒で幸福感に溢れていたので、その前の週に国税専門官の試験に受験票印刷遅れで受けれなかった事すら忘れ
「明日起こる事だから、明日考えよう」
と問題を先送りにし、眠ることにしました。
当日
二日酔いの頭痛に叩かれるようにして目が覚めたのは、試験２時間前の７時１０分でした。受験地まで１時間ぐらいかかってしまうので、私は眠る彼を置いて急いで電車に駆け込みました。ロマンチックウォリアーが勝つかなぁ、と思いながら吉祥寺駅のファミマで受験票を印刷し、揺れるバスの中で何とか証明写真を貼り付けて、大学最寄りのコンビニで蕎麦とスイーツ、森永ラムネと水を買って成蹊大学に向かいました。
着いたのは８時５０分。少しの余裕を感じて正門前の濡れたベンチでコンビニスイーツを頂き、時間ギリギリで試験会場へ入室いたしました。頭が痛い。眠い。しんどい。帰りたい。そう思いながら、しかしせっかく来たから受けるしかない、と所存の臍を固め森永ラムネをドカ食いして希釈するように水を大量に飲み、試験に臨みました。
教養試験
教養試験は何だか小学校時代のお受験用の塾で解かされた問題を思い出しました。兎と犬と猫を同時に飼う家庭の子供が集まる奇怪な学校と、通るたびに１万円請求されるタイルと、意味不明な魔法陣に目が回り、しかし将棋が好きなのは幸いでした。時事問題の最後は自信を持って答える事ができました。しかし時間が足りない。受ける際は問題の取捨選択に気をつけると高得点が期待できると思われます
昼休み
せめて過去問を一回でも解くべきだった。せめて一度でも過去問を解くべきだった。そう思いながらざる蕎麦を食べ、コンビニの袋に弁当のガラを丁重にしまい、トイレに向かいました。大の方へ向かい並んでいますと、奇妙な事に気づきました。前に並ぶ慶應Tシャツを着た青年が空いた個室に入らないのです。
「入られないのですか？」
私は問いました。
「ウォシュレットを待ってるんです。お先にどうぞ」
彼は紳士的に空いた個室を指しました。私はウォシュレットに拘りがなかったので、それでも良かったのですが。
「私も待ちますよ、あなたと同じです」
そう言うと彼はふふっ、と笑いました。しかしカッコつけた辺りで私の腸は限界の信号を出し始めたので
「お先に……」
と御手洗を済ませました。
論文試験
論文の試験がある事を忘れていて、私は面を喰らいました。トラックドライバーの過労、法律による規制。
①その影響を受ける人々
②解決策
を書くといった内容でした。
軽く私の回答に触れると
①については、労働者、企業、消費者に大別して影響を考え論じ
②については、国の施策。例えば時間外労働で稼いでいたトラックドライバーは？ という視点やしかしトラックは減らないので企業のESG情報に追加項目を加えるとか、鉄道、海運の推奨、業界安定化までの法人税の優遇、第三セクターの発足、学習指導要領への物流問題の記載等を即興で書きました。点数が分からないので正しいのかは定かでありません。
戸惑いつつも大学のレポートの要領で何とか書き上げる事ができました。Chat GPTに頼らない姿勢(使いこなせてないだけ)が功を奏したのかもしれません。
専門試験
試験が始まる前に私はリュックから異様な匂いのする事に気がつきました。確認したところ、どうやらコンビニの袋が破れめんつゆの残りがリュックで熟成されて何だかとんでもない事になっているようでした。蓋をしました。
さて、専門試験です。何も分からん。英語は何とかなってもその他が何も分からん。時間はたくさんあったので私は全問題を解く事にしました。そして選ばれたのが、行政学、憲法、国際関係、社会学、教育学、心理学、英語基礎、英語一般でした。アドバイスになるか定かではないですが選択マーク式の問題であるため、知識に関わるような問題でなければ消去法で答えを出すことも可能だと思われます。心理学については少しラッキーな側面もありました。両親との関係が芳しくないため経験から回答を導き出すことにも成功しました。もし、記念受験で受けられるような方がいらっしゃれば国際関係、教育学、心理学、英語基礎、英語一般は狙い目です。消去法で答えが出せて、英語については大学受験時の残りカスでも何とかなると思います。
試験後
安田記念をバスの中で観戦し、ロマンチックウォリアーの勝利に感動し。その後は同じ試験を受けていた大学の友達と新宿で打ち上げをしました。当然試験の話になりましたが論文試験で彼は一つ目の文章に
『我は〜こう思う』
と書いてしまったらしく。笑っちゃいけないと思いつつ本人もどこか笑い話のように話していたので
「王族じゃん」
と和やかな会話がありました。美味しくお酒を飲んで、地元の友達と合流して共通の友人の家で宿泊、就寝。今思うと変な１日でした。
自己採点と一次試験の結果
自己採点
教養 19/30
専門 21/40
内訳
行政学 1/5
憲法 3/5
国際関係 3/5
社会学 2/5
心理学 2/5
教育学 3/5
英語基礎 4/5
英語一般 3/5
という感じで落ちたかな、と思っていたら合格をいただきました。ボーダー予想では行政関東甲信越だと341点で私の点数は344点に換算されるので、はっきり言って運が味方してくれた感じもあります。この点数だと二次試験が厳しいので受けるか迷うところではあります。
総括
今回私は一般職試験についての勉強は一切行ってきませんでした。運も味方した合格だったと思います。しかしまっさらな状態で受けたからこそのアドバイスがいくつかできると思います。参考になるか分からないので聞き流す程度に読んでいただければ幸いです。
・教養試験
知覚推理と呼ばれるパズルやなぞなぞの問題についてはしっかり対策されるのがいいと思いました。数学が得意な方は必要ないかもしれませんが、私のような数弱にはキツイ内容でした。あとは時間配分と問題の取捨選択。過去問をしっかり解いて捨て問を見極め、一度見直しができるぐらいには余裕を持てるようにしたいところです。
・論文試験
正直分かりません。二次試験の際に使われる点数らしいので私の点数は定かじゃありません。個人的には下書きに時間をかけすぎないようにするのが大事だと思いました。あとは視点をはっきり定めると書きやすく、大学で書くレポートが助けになると思われます。
・専門試験
しっかり勉強した方がいいです。衒学的大学生で微妙に知識があったから消去法で解けた問題が多かったと思いますが、しっかり勉強すればその分しっかり取れる内容だったと思います。共通テストでいう基礎問題レベル、歴史のA科目レベルだと思われるので満点も夢じゃありません。
最後に
ここまで拙いながら文章を読んで頂きありがとうございました。私はどうなるか分かりません。双極性障害ですし、発達障害ですし。お寿司。もし今就活に悩んでいる、進路に悩んでいる、何をしていいかも分からない。と思う方がいらっしゃたら一度こうした公務員の試験を受けることをお勧めしたいと思います。受けるだけでもいいんです。受かっても受からなくても、一歩の前進です。私は今回試験を受けるまで精神障害も言い訳にしながらアイデンティティがどうのこうのと世の中から目を背け、大学４年生という期間を怠惰に過ごしていました。今もあまり変わりありません。けれど少しだけ、前を向くきっかけになったと思います。ああ、まだ自分は社会と接点を持てるんだ、と。抽象的で自分語りが過ぎましたが、この辺で以上になります。ここまで読んで頂きありがとうございました。皆に幸あれ！
スペシャルサンクス
関西から来た競馬好きのA君
文中の王族B君
※9/3追記
10点足りずで二次落ちしました()
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