女王さまと山男(童話)
※文章は五、七調で書かれています。
お見合いおわった女王さま、侍従のじいやにかみついた。
「やいやいじいや、バカじいや、どうして馬ズラつれてきた」
「何なんですか、女王さま。そんな汚いお言葉を、つかいになっちゃ困ります。先代王さま、王妃さま、天からお泣きになられます」
「やいやいじいや、バカじいや、そんなことを問うてない。見合いの男のことを言う」
「何なんですか、女王さま。きてくださった男性は、ゆいしょ正しきお生まれで、教養あってご親切。なのにどうしてそんなこと」
「やいやいじいや、バカじいや、馬ズラ好きがどこにいる。あんな男と結婚し、わたしを不幸にしたいのか」
感情あらわの女王さま、かべをバンバンたたき出し、泣いてさけんで大そうどう。
「ちょっとちょいちょい女王さま、おやめください、冷静に。どうか高貴な女王さま、文句ばかりは困ります。前回やったお見合いは、カラスみたいな声はいや。前前回のお見合いは、服装センス悪すぎる。その前やったお見合いは、オカマみたいな歩き方。そんなに文句を言われては、結婚なんてできはせぬ」
「どうしてそんなことを言う。きっとすてきな男性が、わたしに会うのをまっている」
「夢をおもちの女王さま、タイプあるなら、あらかじめ、教えてください、そのタイプ」
「うんうんそうだな、教えよう。わたしのタイプはどういうか・・・・、さわやかにおいのジェントルマン!」
「さわやかにおい? わかりません。どういうことか、わかりません」
「なんど言わせるバカじいや、おまえは言葉がわからぬか」
またまたおこった女王さま、ドアをドカンとけりあげて、プンとそこから出ていった。へやにのこった家来たち、ポカンと顔を見合わせた。
※
山にポツンと丸太ごや、グウグウいねむり山男。町や村でもきらわれて、たどりついたは山のおく。どうしていつも山男、町や村でもきらわれる? だってなぜなら山男、仕事をしないナマケモノ。いつも毎日ねてばかり、お酒をのんでねてばかり。風呂も入らず、着がえしない、ふんどし一丁一年中。酒の飲みすぎその腹は、ポッコリふくれたタヌキ腹。さんぱつしないかみがたは、モジャモジャふくれたカリフラワー。カリフラワーのちょうてんは、毛がなく光るツルリンパ。ヒゲもそらないその顔は、ボウボウひげがはえわたり、ひげが体につながって、体全体毛むくじゃら。
だけどなぜだか山男、かりはバツグンうまいらしい。と、いうよりもマカふしぎ、えものの方からやってくる。えものがかってにやってきて、そいつをヒョイとつかまえる。だからいねむり山男、ノンビリ山でくらしてる。
「おやおや切れた、酒切れた。町へちょっくら出かけるか」
お出かけじゅんびの山男。竹であまれたカゴの中、ヤマドリ、ウサギ、タヌキなど、たっぷりえものをつめこんで、山をノシノシおりてった。
「♪やあやあオイラは山男。オイラは山の人気者。どうぶつ界の人気者」
ふんどし一丁山男、ようきにハナウタ口ずさみ、どうどうとおりをねり歩く。歩いているとどうしてか? のらイヌ、のらネコ、おさるさん、鼻をクンクンかきならし、男にべったりついてくる。
はじめて見かけるその光景、どうぶつたちと山男、行きかう人はおどろいて、はなれてこわごわ見るばかり。
「やいやいオヤジ、酒を出せ」
酒屋についた山男、カゴのエモノをほうりなげ、大声あげてオヤジよぶ。
「あい、あい、わかった、わかったよ」
酒屋のオヤジ顔を出し、酒びん二つ差し出した。
「ん? ん? なんだ? このりょうは?」
酒びんながめた山男、みるみるひょうじょうかわってく。
「やい、やい、オヤジ、おかしいぞ。いつもとりょうがちがってる」
「なんだい、うるさい山男、今日のえものは少ないぜ。それだけあればじゅうぶんだ」
酒屋のオヤジ冷ややかに、山の男をあしらった。
「なにを、なんだと、このオヤジ、きたないことを言いやがる!」
おさえのきかない山男、アタマにカッと血がのぼり、「ウオー!」と大声さけびだす。
「うるさい、だまれ、山男、ここから早く出ていきな。気に入らないなら酒やらぬ」
「ちくしょう、このやろ、このオヤジ。目にものを見せてやる!」
毎日静かなこの町で、さわぎが大きくなりだした。いつの間にやら人だかり、酒屋の前は人だかり。
※
「ねえねえ、じいや、何だろか? 何やら声が聞こえるね。きみょうな声が聞こえるね」
女王はじいやに声かけた。
「ええ、ええ、たしかにそうですね。何やら声が聞こえます」
月に一度のこうむの日、白いドレスの女王さま、馬車にのりこみ城を出て、家来といっしょに町にいた。声のする方馬車すすめ、酒屋の前に行きついた。
「いったい何なの? あの男?」
女王さまはおどろいた。クマか人だかわからない、ケモノのような人間が、酒屋のオヤジととっくみあい。
「あ、あ、これは女王さま」
女王さまのすがた見た、町の人びとひれふして、みんないっせい静まった。だけど一人山男、「ウオー、ウオー」と声をあげ、酒屋のオヤジをはがいじめ。
「たすけてください、女王さま」
酒屋のオヤジの声を聞き、女王さまの家来たち、山の男をくみふせて、手足をなわでまきつけた。
「何をしやがる、やめやがれ。オヤジがズルい、悪いのだ」
バタバタもがく山男。なわでしばられ動けない。どうにもこうにも動けない。
「なんだい? お前は人間かい?」
トコトコ近づき女王さま、思わずじかに声かけた。
「これこれ高貴な女王さま、そんな男に近づいちゃ、気高いあたながけがれます」
「いやいや、かまわぬ、そんなこと」
興味しんしん女王さま、顔を近づけご観察。
「あぶないですよ、女王さま。そいつのしょうたい山男、山ぐらしする変わりもの。きたないですから、おはなれに」
酒屋のオヤジも声かけた。
ところがどっこい女王さま、ますます顔を近づけて、ジロジロ男をご観察。観察してる、そのうちに、ピタリと止まってうごかない。
「どうしましたか、女王さま」
じいやはふしんに感じられ、女王さまに声かけた。女王はクルリとふりかえり、うっとり顔でこう言った。
「あらあらすてき、すてきだわ。この方とってもすてきだわ」
「何を言われる、女王さま・・・・」
まわりはあきれて声出ない。
「さあさあ、じいや、家来たち、なわをすぐにほどきなさい」
「おやおや高貴な女王さま、いったい何を言い出すか。そこにいるのは山男、粗野でやばんな山男。なわをほどいちゃきけんです」
「オイオイじいや、何を言う。ぶれいな言葉はおやめなさい」
「おゆるしください、女王さま。ぶれいな言葉、おゆるしを。でもでも、ほんき? ほんきです? ほんとになわをほどきます?」
「あなたは何も感じない? なんてどん感、あきれるわ。あなたの鼻はふし穴か? この方とくべつ、けうな人。この世のものとは思われぬ、すごくさわやか心地よい、なんとも言えぬ、いいにおい・・・」
女王さまはたまらずに、「エイ」と男にだきついて、首のまわりをかぎだした。モジャモジャ毛深い首すじに、鼻をくっつけかぎだした。
「やめてください、女王さま。何か病気がうつります」
家来は女王を心配し、女王と男をひきはなす。
「おいおい、何する、家来たち。お前たちこそ、はなれなさい」
家来は女王にしかられて、小さくなってうなだれた。
「どういうことだ? 何おきた?」
状況つかめぬ山男、何が何だかわからない。ケモノ以外でよってきた、はじめて女性が女王さま。
「どうかお城にきてください。わたしはあなたをさがしてた。ずっとずっとさがしてた。とうとう見つけた夢の人。わたしはあなたとくらしたい。わたしはあなたに夢中です」
顔を赤らめ女王さま、言葉やさしくささやいた。
ゴクリ、つば飲む山男。体こうちょくかなしばり。
「ここはどうする? どうしよう・・・・」
なわがとかれたそのしゅんかん、スタコラサッサ山男、いちもくさんにかけだした。
「オイラのすみかは山の中、山のネグラへ帰ります。お城なんかへ行きません」
「待ってください、山男。わたしをおいてどこへ行く? わたしはあなたをはなしません。どこへ行こうと追ってきます」
大ぜい見つめるそのさなか、白いドレスをひらめかせ、女王さまはかけだした。においを追ってかけだした。
(了)2015年作