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忘れびと(原稿用紙150枚)

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苦学生で弱気な正太朗君が、奇妙な詩人に会うことで成長していく物語――。
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忘れびと

忘れびと

   一
 ぼくはどこまでもつづく泥の湿地帯を歩いているような気持ちでした。夢であって欲しい、幻覚であって欲しい。それは現実に突きつけられたことでしたが、ぼくは信じられませんでした。
『給付型奨学金の停止』
 貧乏学生のぼくにとってそれは衝撃的な勧告でした。一瞬目の前の視界が暗くなり、心臓を直にギュッと握られたような気持ちになりました。しかし考えてみれば仕方のないこと、この数か月ぼくは授業を欠席す

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