北朝鮮の弾道ミサイル発射と、国際社会の一角にいた日本
北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を行った。北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を行うたびにアメリカは国連安保理決議違反だと非難するが、アメリカの非難に説得力がないのはイスラエルの国連安保理決議違反を黙認するという二重基準があるからだ。
イスラエルはイスラエルの占領地からの撤退を求めた国連安保理決議２４２号（１９６７年）、同３３８号（１９７３年）に違反し、占領を継続して、さらにその占領地にイスラエル人の住宅（＝入植地）を拡大している。イスラエルは現在占領地であるヨルダン川西岸の６０％の土地の行政権と治安維管理を維持している。
ヨルダン川西岸では今年は９月末までに１８０人余りのパレスチナ人が殺害され、さらに１０月７日のハマスの奇襲攻撃以来、１００人以上が銃で撃たれて亡くなった。
１９８０年の国連安保理決議４７８号では、エルサレムで外交活動を行ってはいけないと決められたのに、アメリカのトランプ政権はアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転し、さらにトランプ前大統領はイスラエルがシリアから占領するゴラン高原にイスラエルの主権を認めてしまった。これではアメリカがロシアや北朝鮮の国連安保理決議違反を非難してもまったく説得力をもたない。
在イラク日本大使だった片倉邦雄氏は湾岸戦争後３０年のインタビュー記事の中で湾戦争で日本は自衛隊を派遣せず、１３０億ドルの資金を提供したのみで国際的に低い評価しか得られなかったと言われるのは心外だったと語っている。イラクが侵攻したクウェートでは、日本大使館員がアメリカ大使館の外交官たちを、危険を承知で匿っていたことを明らかにした。また、片倉氏は、湾岸戦争以前、日本は国際社会の一角にいたと語っている。（「東京新聞」２０２１年１月２５日）
中東イスラム世界では日本に対する否定的な評価はあまり聞かれてこなかった。日本の高い技術力、アメリカに原爆を落とされ戦争に敗れながらも、目覚ましい戦後復興を遂げたこと、日本のアニメや漫画などのソフトパワーなど、さらには柔道や空手など武道も愛好され、日本人の礼儀正しさも評価されている。ただ、片倉氏も述べているように、外交的には「日本の立場はアメリカと同じ」と考えられるようになったのは湾岸戦争を契機とするもので、直前でも述べたように、日本はアメリカ主導の多国籍軍に１３０億ドルの資金の拠出を行った。
片倉氏が湾岸戦争以前、日本は国際舞台の一角にいたというのは、第４次中東戦争の際に、石油の確保が目的だったとはいえ、パレスチナの民族自決権を認め、イスラエルの占領地からの撤退を求め、さらにはイラン・イラク戦争の調停も独自に行った。湾岸戦争後、日本は独自の外交的立場をとることが希薄となった。中東イスラム世界をはじめ国際社会から敬意をもたれるには日本外交の独自性が必要だ。また、国連安保理の常任理事国入りを目指すのならば、なおのこと独自の立場を訴えることが求められている。アメリカといつも行動が一緒という常任理事国は不要と見なされてもしかたない。
片倉氏は日本がアメリカの危うさに日本が巻き込まれるという点で２０１５年の平和安保法制に反対したと語っているが、アメリカが９１１の同時多発テロなどテロに遭うのは、その中東イスラム世界外交に重大な欠陥があるからだ。国際法を破るイスラエルへの無批判な支援、またイスラム世界に対する軍事介入は市民の犠牲を伴い、現地の人々の恨みや反発を買ってきた。アメリカの外交にやみくもに付き合うことが日本人の安全を高めるとは思えない。
日本政府はアメリカの不合理なイラク戦争にまっさきに支持を表明した。イラク戦争を支持しなければアメリカが日本を守ってくれないという判断があったのだろうが、しかしイラク戦争後の朝鮮半島情勢を見渡せば、拉致問題はいっこうに進展せず、北朝鮮の核・ミサイルの脅威は増すばかりでアメリカが北朝鮮の脅威を日本から除くのに成功したとはとても思えない。日本は米軍に基地を提供し、思いやり予算で米軍関係者の給与まで払っている。アメリカが日本を守ることは日米安保条約の条約上の義務であるし、かりに北朝鮮が日本にミサイルを撃ち込めば、米韓日などの反撃などでキム体制は終焉するだろう。
イスラエルが非人道的なガザ攻撃を続ける中、少なからぬアラブ・イスラム世界の人々は日本の動静に注目している。
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