ナオミ・クライン「シオニズムは偽りの偶像である」
カナダの著名なジャーナリストで、作家のナオミ・クラインはユダヤ人の家庭的背景をもつが、『ガーディアン』に「我々はシオニズムからの脱出を必要とする(We need an exodus from Zionism)」というオピニオン記事を書いた(4月24日)。
その中で「シオニズムは虚偽の偶像であり、正義と奴隷からの解放(過ぎ越し)という我々の最も深遠な旧約聖書の物語を植民地主義的な土地の窃盗、民族浄化とジェノサイドへのロードマップに変えた」と述べている。
彼女によれば、ネタニヤフ首相のリクード(ネタニヤフ首相の政党)型のシオニズムは、人種主義的で、ジェノサイドをも平然と行う「宗教シオニズム(イスラエルの極右政党)」や「ユダヤの力(同様に極右政党)」と同盟し、多くの進歩的、左派の活動家にとって忌まわしいイメージを作り出し、右派であろうと、左派であろうと、あまり知識のない人びとにはユダヤ教と、無慈悲な超国家主義(極右的シオニズム)との混同をもたらし、反セム主義に火を点けるようになっている。つまり、現在イスラエルがガザで行っているジェノサイドがユダヤ教のイメージになっていると、クラインは警鐘を鳴らしている。
クラインはユダヤ人がシオニズムと「離婚」する時が来たと述べ、ネタニヤフ首相はパレスチナ人にとってはユダヤ人を奴隷にしたエジプトのファラオ(古代エジプトの王)のようになり、パレスチナの子どもたちを人間としてではなく、人口動態上の脅威としか見ていないと批判した。それは「出エジプト記」に登場するファラオがイスラエル人の人口増加を恐れ、イスラエル人の殺害を命じたことと同様だとクラインは述べている。ネタニヤフ首相のシオニズムはユダヤ人を不道徳な道に引きずり込み、汝、殺すなかれ、盗むなかれ、むさぼるなかれ」というユダヤ教の核心的な戒めを破ることを正当化している。
シオニズムは偽りの偶像であり、ユダヤ教の自由を、パレスチナ人の子どもを殺害し、孤児にするクラスター爆弾と同等なものとしてしまったとクラインは語る。シオニズムはあらゆるユダヤ教の価値観を裏切り、ガザのすべての大学に爆弾を落とすこと、無数の学校の破壊、学者、ジャーナリスト、詩人の殺害、貴重な文書の抹殺を正当化している。これらはナチスが図書館やシナゴーグを焼打ちしたことと同等だとクラインは主張する。
イスラエルは現在ヨルダン川西岸の水源をコントロールし、その経済発展や維持に役立て、またヨルダン川西岸のパレスチナ人の土地を収奪して、入植地を拡大する。ガザに対しては経済封鎖を行い、パレスチナ人たちへの物資の移動を必要以上に制限して、実質的な占領下に置き、彼らを政治的にも経済的にも従属させ、その上ジェノサイドを行っている。
ユダヤ教の神ヤハウェは正しい裁きを行うことによって、虐げられている人、貧しい人、やもめ、孤児(みなしご)など弱者を救済するとされる。「アラブに死を!」「アラブの村を焼け!」「第2のナクバ(1948年のイスラエル独立をめぐる中東戦争で多数の犠牲者、難民が出たパレスチナ人の大災厄)が起きるように!」などのイスラエル極右のスローガン、あるいはガザ攻撃を継続するネタニヤフ首相などのイスラエルのタカ派の考えや行動はこうした旧約聖書の教えと相容れないもので、ユダヤ教のヒューマニズムとは対極にあるものだ。
ユダヤ人の科学者アルベルト・アインシュタインのヒューマニズムもユダヤ教の文化を背景にするものだった。アインシュタインは、ナショナリズムを「乳児的」なものとして嫌い、生まれ育ったドイツがナショナリズムの熱狂から第一次世界大戦に参加することに反対した。シオニズムはアインシュタインが嫌った乳児的な発想であり、ユダヤ人たちはユダヤ教への誤解を招かないためにも、クラインが言うように、シオニズムと決別すべき時が来ているように思われる。