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イスラエル軍のガザへの地上侵攻はイスラエルに安全をもたらさない

ハマスの攻撃を受けてイスラエル軍がガザに地上侵攻する可能性が指摘されるようになった。イスラエルが地上侵攻しても達成されるものはほとんどなく、暴力はさらなる暴力の連鎖を生むだけだ。

ハマスの奇襲攻撃を喜ぶパレスチナ人たち ヨルダン川西岸・ナブルス https://www.timesofisrael.com/street-rallies-celebrate-hamas-onslaught-in-west-bank-and-throughout-the-middle-east/

 記憶にあるのは2014年のイスラエル軍によるガザ空爆と地上侵攻だ。この攻撃でパレスチナ人が2300人以上犠牲になったが、ハマスの暴力はいっこうに止むことなく、今回のようなハマスによる大規模な奇襲攻撃となり、イスラエル人にも1200人以上の犠牲が出た。ネタニヤフ政権が繰り返してきたガザ攻撃がイスラエルの安全保障に役立ったということはまったくなく、イスラエルの度重なる空爆や攻撃がガザ社会のいっそうの急進化をもたらしてきた。実際、パレスチナには武装集団に入る若者たちが絶えないし、若い世代による新しい武装集団も生まれるようになった。

イスラエルのガザ空爆 https://www.thenationalnews.com/mena/palestine-israel/2023/10/11/live-israel-gaza-war/

 2007年以来続くイスラエルの経済封鎖によってガザでは、空爆の負傷者たちの医薬品や、その搬送のための救急車のガソリンも不足するようになっている。今回、イスラエル軍は病院や救急車まで攻撃目標にし、まさに人道に対する罪を犯すようになった。

 イスラエル空軍(航空宇宙軍)はボーイングAH-64 アパッチ攻撃ヘリ、F―15、F-16、F-35というジェット戦闘機を保有し、その空軍力は2023年の世界ランキングで9番目の規模とされる。(ちなみに日本の自衛隊は8番目、日本政府がしきりに脅威を強調する北朝鮮は44番目)

https://www.wdmma.org/ranking.php

 それに対して、ガザのハマスなどの軍事部門がもつのはカラシニコフ銃などの小火器、手作りのロケット弾や爆弾ぐらいしかない。しかし、地上侵攻になったら、長年の経済封鎖で希望がもてないガザの武装集団は自爆攻撃など捨て身の攻撃を多用し、イスラエル軍に対して必死の抵抗を試みるだろう。ガザ住民はもちろんのこと、ハマスに人質にとられたイスラエル人、そしてイスラエル軍兵士たちにも相当な犠牲が出るに違いない。

 イスラエルが輸出する兵器の性能は、繰り返されてきたガザ攻撃で試されているとも見られ、ガザはイスラエルの軍需産業の実験場ともなってきた。イスラエル国防軍は軍需産業にその兵器の性能や成果を報告してきた。まさにイスラエルの軍産複合体の癒着構造である。

 2022年に、イスラエルの武器輸出が増加したのは、アラブ諸国とのアブラハム合意と、ウクライナ戦争が背景にある。爆弾やミサイルなどの軍需品の輸出する国は42カ国から61カ国に増えた。サイバーセキュリティ関連の輸出は67カ国から83カ国に増加している。

世界の空軍力ランキング https://www.wdmma.org/ranking.php

 今回、ハマスの攻撃を受けてイスラエルはガザに過去最大規模の空爆を行い、10日現在で700人のパレスチナ人が犠牲になった。ガザの発電所への燃料の供給が止まり、ガザの住民たちは電力なしの生活を余儀なくされている。電力がなければ、病院の医療機器も稼働できない。

イスラエルがガザを地上攻撃するのは、ハマスなどの武装集団がつくったガザのトンネルを破壊するという目的もある。トンネルは武装集団の司令部が置かれたり、兵器庫、あるいは戦闘や物資の輸送のために掘られたりしている。ハマスやイスラム聖戦など武装集団は、ベトナム戦争の際に民族解放戦線(通称ベトコン)がとったゲリラ作戦に戦術から教訓を得て、ガザに張り巡らしたトンネルからイスラエル軍を攻撃するに違いない。

 イスラエルは、ハマスのメンバーたちを殺害するか、あるいは捕らえてイスラエルで拘禁したり、イスラエルから遠く離れた国々に送ったりして、イスラエルの安全保障にとっての脅威をできる限りなくすことを考えていくのだろう。

 1982年のイスラエルのレバノン侵攻によって制圧され、レバノンでの活動の終焉を余儀なくされたPLO(パレスチナ解放機構)はチュニジアなど遠く離れた地域で活動するようになったものの、パレスチナ人の支持を決して失わなかった。1994年にアラファト議長がチュニスから帰国した際に熱狂的に迎え入れられたのも、その政治力がパレスチナ人の間で決して低下していなかったことを表していた。

アラファト初来日 1981年10月 http://0a2b3c.sakura.ne.jp/plo-t24.pdf

 抑圧と占領がレジスタンス(抵抗)をつくり出すことは世界の近現代史をひも解いても明らかで、米軍もイラク戦争ではスンニ派の武装集団を、またアフガン戦争でもタリバンの活動を根絶することはできなかった。地上侵攻による軍事的制圧は、ハマスなど武装集団の求心力を高め、結局はイスラエルの安全を損なうことになるだろう。多くの犠牲者を出す地上侵攻はイスラエルの安全保障のためにならず、やはり止めたほうがいい。

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