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アルジェリアへの郷愁を歌ったシャンソン「恋心」と戦争よりも心に愛を呼び起こそう

 エンリコ・マシアスが歌った日本でも有名なシャンソンの「恋心」は、ユダヤ人歌手マシアスの故郷アルジェリアへの郷愁の想いがあった。第二次世界大戦中、アルジェリアは反ヴィシー政権の拠点となり、シャルル・ドゴールを首班とするフランス共和国臨時政府も置かれた。マシアスにはもう一つアルジェリアを歌った「僕の子供の頃のフランス(La France de mon enfance)」という曲がある。歌詞の一部は、

 僕の子供の頃のフランス
 僕の国、僕の土地、僕のお気に入りは
 地中海という国境を持っていた
 それは僕が生まれたフランスだ (朝倉ノニー訳)

 この歌詞の「フランス」は、フランス領であったアルジェリアのことを指している。アルジェリアではオスマン帝国統治時代からの伝統で、ユダヤ人差別などフランス本国とは違って希薄だったのだろう。マシアスは、1980年に、クルト・ヴァルトハイム国連事務総長から「平和の歌手」という称号を与えられ、また1997年にコフィ・アナン国連事務総長によって「平和と子どもたちの擁護を促進するための巡回大使」に任命された。1993年にオスロ合意が成立すると、彼の「インシャラー」という曲には聖地エルサレムにおける宗教の共存が強調される一節が加えられた。

https://lynyrdburitto.hatenablog.com/entry/2023/01/20/153000


 1954年にアルジェリア独立戦争が始まる直前に作られたシャンソンに「兵隊が戦争に行くとき」(1952年)があり、インドシナ戦争を経験してきたフランス人の反戦感情を表現している。作詩・作曲はフランシス・ルマルク、作者のフランシス・ルマルクも歌っているが、俳優でもあるイヴ・モンタンが歌ってヒットした。

ごらん 若者が 戦に出ていく
かわいい恋人に 心のこして
ごらん 夏の日の 青空が見つめてる
遠く地の果てに 死ににいく若者を
これが人の世の 哀しい定めか
恋の誓いなど 儚(はかな)いものさ
華やかな歌声で 戦争に行くけれど
戻って来られるのは
運のいい奴だけさ 運のいい奴だけさ
運のいい奴 だけなのさ (日本語詞:水野汀子)

兵隊が戦争に行く時 https://aucfree.com/items/d1088914591


 この歌も戦争の本質を表しているが、ガザの破壊された街の様子は破壊と荒廃でしかない。日本も含めて国際社会はガザの発展や復興を後押ししてきたが、円滑な発展・復興をイスラエル軍の攻撃が繰り返し妨げてきた。1988年には日本の援助などでガザの空港が開設されたが、1992年にイスラエルが爆撃、破壊して、機能しないままとなり、ガザの人々の移動の自由を奪っている。
 戦争が破壊、殺戮ばかりで何も残さないことは日本の歌でも表現されている。
死んだ子供の残したものは
ねじれた足と乾いた涙
他には何も残せなかった
思い出ひとつ残さなかった
(谷川俊太郎・作詞、武満徹・作曲の「死んだ男の残したものは」)

EP 高石友也 死んだ男の残したものは SV-1055 谷川俊太郎/作詞 武満徹 https://history.aucfan.com/yahoo/l383086382/bidrank/


 6日に日本の上川外相もイスラエルがガザ南端のラファを攻撃すれば、惨事となることは明らかで、ガザの民間人のこれ以上の犠牲を防がなければならないと発言した。まったくその通りなのだが、ならばUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金は継続すべきだし、ガザ問題でもアラブの人々が期待していたように、日本が調停の役割を果たすべきだろう。 政治家たちは裏金問題などよりパレスチナ和平などもっと取り組むべき重要な課題があるはずだ。

 イスラエルはこれまでのガザ戦争後に住民のためになるような社会・福祉インフラなどの復興を図ることなく、谷川俊太郎の詩のように、住民の利益になるものを戦後に残すことがなかった。イスラエルのガラント国防相は戦後のガザには米国など多国籍軍が駐留し、復興を支援するなどと無責任な発言を行い、復興にはイスラエルが関わらない姿勢を示している。そもそもイスラエルを支援する米国の軍隊がガザに駐留すれば、武装集団の恰好の標的になるに違いない。

「ラファ空爆を止めよ!」 イスラエル・テルアビブで 13日 https://www.lunion.fr/id569219/article/2024-02-14/israel-promet-une-puissante-operation-rafah


 イスラエルの極右勢力に欠けているのは下の歌詞に表現されるような愛とか、ヒューマンな情感で、イスラエルとパレスチナの人々との接触回路は暴力だけという悲しい状態になっている。

葡萄の種を暖かい大地に埋めよう
つるに口づけし、熟れた房を取ろう
そして友人たちを呼び、心に愛を呼び起こそう
そうでなかったら、この永遠の大地に生きるかいがあるだろうか
       (―ブラート・オクジャワ〔1924~97年〕の「グルジアの歌」より)


イヴ・モンタンとエディット・ピアフ https://note.com/yoshizuka/n/n777bf48e3359


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