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イスラエルの「ワールド・セントラル・キッチン」攻撃と、欧米人とパレスチナ人には命の「二重基準」がある?

 4月1日、イスラエル軍がガザで支援活動を行っていた支援団体「ワールド・セントラル・キッチン(WCK)」の車両を攻撃して、スタッフ7人を死亡させた。WCK創設者でスペイン出身の著名シェフ、ホセ・アンドレ氏は3日、「イスラエル軍が車列を組織的に1台1台狙った」という考えを明らかにした。WCKはアメリカ・ワシントンに拠点を置き、大規模な自然災害の際などで食料を提供してきた。この事件を受けてバイデン大統領は、ガザ市民や支援団体の保護を徹底しなければイスラエルへの支援を見直すと述べた。

同じNGOの車両が別々に3台とも攻撃されたということは意図的なものとしか思いようがない。 https://togetter.com/li/2344583


 昨年10月にイスラエルのガザ攻撃が始まってから3万3000人余りが死亡したが、その大半が子どもや女性たちなどの市民だったが、バイデン大統領をはじめアメリカ政府がイスラエルに対して支援を見直すなど強い姿勢に出ることはなかった。欧米人の犠牲が出てようやく「本気」になったという印象がある。また、イスラエル軍のハレビ参謀総長も重大な過失があったと謝罪した。パレスチナ人市民の犠牲についてイスラエルが謝罪などしたことはない。

災害時に温かい食事を提供するシェフ組織「World Central Kitchen」 https://r-tsushin.com/sdgs/saigaijinoshoku_05/#page-2


 パレスチナ系アメリカ人の文学研究者のエドワード・サイード(1935年~2003年)は、パレスチナ問題に関してアメリカ人の知識や理解がイスラエル寄りである背景にはアメリカ国内の親イスラエルのユダヤ人などによる情報操作があると考えていた。ワシントンDCにホロコースト博物館があるなどユダヤ人の悲劇であるホロコースは繰り返し強調され、またアメリカのイスラエル支援は手厚く行われる。他方で、イスラエル建国に伴うパレスチナ人の困難がアメリカ人の間で強く意識されることはない。サイードは欧米人の東方への差別観「オリエンタリズム」を背景に「アラブ人はオリエント人であり、それゆえヨーロッパ人やシオニストたちよりも人間的に劣り、価値もない。彼らは裏切りやすく、改心もしない」という見方がアメリカ人には広くあると語っている。(サイード『パレスチナ問題』1979年)WCKから犠牲者が出てバイデン大統領がこれまでにないほどイスラエルへの怒りを露わにしたのも、サイードが指摘したオリエンタリズムが影響したような印象だ。

どんな大義も、どんな神も、どんな抽象的な概念も、罪のない人の大量虐殺を正当化することはできない。-エドワード・サイード https://www.azquotes.com/author/12888-Edward_Said


 サイードは、『オリエンタリズム』(1978年)の中で、ヨーロッパは歴史的にオリエント(東洋)を自らとはまったく対照的なものとして、後進性、敵対性、非合理性をもつ実体としてとらえていると主張した。進歩を遂げた西洋が後進的なオリエントを救済する美名の下に植民地主義、人種差別主義を正当化したというのがサイードの考えであった。アメリカがイラクの民主化を唱えてイラク戦争を開始したり、アメリカの保守勢力がイスラムを「テロリズムの宗教」と唱えたりするのも、「オリエンタリズム」的な発想が欧米世界では根強くあるとサイードは考えていた。

イスラエルの人道無視の攻撃の背景を考える


 イスラエルのシオニズムというナショナリズムは、『文化と帝国主義』でエドワード・サイードが否定した単一民族による単一の言語を基盤とする近代国家のフィクションであり、また中心が優位であり、周縁が劣位とする二項対立的な発想をもつものだ。実際、イスラエルでは国民の20%を占めるアラブ(=パレスチナ)人たちは就職、教育などで顕著な差別の下に置かれている。イスラエルの極右勢力はアラブ系の人々の国籍をはく奪し、ガザ住民をガザから放逐することを主張するが、かつてヨーロッパ国家で無国籍にされたのは「ユダヤ人」たちで、イスラエルの極右はかつてヨーロッパでユダヤ人がされたことと同様なことをパレスチナ人たちに対して行い、ナチス・ドイツなどがユダヤ人に対してもっていた差別や蔑視観をパレスチナ人に対してもち、彼らの命を尊重することもない。

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