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「私達が今いるその場所で“平和”を唱えよう」とガザの奇妙な果実、和平調停の期待がかけられる日本

イスラエルがガザへの本格的攻撃を開始してから2か月が経った。パレスチナ側の犠牲者は1万7000人、そのうち子どもはおよそ半分だ。日本をはじめ国際社会のガザへの関心が薄らぐようなことがあれば、国際法や国際人道法に違反するイスラエルの思うつぼになり、ガザ住民たちをエジプトに追出すような民族浄化が実現されてしまう。

「我が友よ! 憤怒しよう。

平和主義とは誰かが信じるような甘いジャムなぞではない。

憤りは私達を静かにさせておかない。激しい信念を私達にうえつける。

私達が今いるその場所で“平和”を唱えよう。どこへ行こうと唱えよう。

その輪がふくらむまで。風に、海に向かって平和を唱えよう」―チリの作家ガブリエル・ミストラル(芳田悠三『ガブリエラ・ミストラル』)より)

ガブリエラ・ミストラル

 ジャズ・ボーカリストのビリー・ホリデイが1939年にレコーディングし、ミリオンセラーの大ヒットとなった有名な「奇妙な果実(Strange Fruit)」は、ユダヤ系アメリカ人のエイベル・ミーアポールが1937年に書いた詩をもとに曲が作られたものだ。アメリカの残忍な人種差別の情景が描かれていて、南部ののどかな風景と白人たちのリンチによって樹に吊るされた黒人の遺体を対比させるような内容となっている。ビリー・ホリデイの歌は差別される黒人の哀切な情感が込められている。ホリデイはこの歌を歌唱すると逮捕されるとFBIに脅されながらも歌い続けたが、このホリデイとFBIとの闘いは21年に公開された「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ(リー・ダニエルズ監督、原題:The United States vs. Billie Holiday」でも描かれていて、この歌を歌うには相当の覚悟が必要だった。

南部の木は、奇妙な実を付ける

葉は血を流れ、根には血が滴る

黒い体は南部の風に揺れる

奇妙な果実がポプラの木々に垂れている(後略)

Strange Fruit

Southern trees bear strange fruit,

Blood on the leaves and blood at the root,

Black bodies swinging in the southern breeze,

Strange fruit hanging from the poplar trees.

ビリー・ホリデイ『奇妙な果実』 https://www.snowrecords.jp/?pid=89732055

 イギリスの人権活動家のトニー・ノーフィールドは2019年4月に自身のブログにビリー・ホリデイの歌をモデルに「パレスチナの奇妙な果実」という詩を書いて載せた。

パレスチナの樹には果実がならない

枝は裂かれ、根こそぎ伐採される

イスラエルによって土地と生活は奪われ

オリーブの木には実が垂れない

Palestine’s trees bear little fruit

Torn down branches and cut at the root

Land and lives stolen, by Israelis seized

No fruit hanging from the olive trees

 最近よく聞かれるのは、日本にイスラエル・パレスチナ和平の調停ができるかという質問だ。19年10月27日付の「アラブ・ニュース」は、グローバルなデータ収集と分析の専門会社YouGovによる世論調査の結果が、56%の人々が日本にパレスチナとイスラエルの和平調停を望んでいることを伝えている。それは、15%のEU、13%のロシアを大きく引き離している。パレスチナ人の間でも日本は第一位で、50%が日本の調停に期待していると回答した。

 日本に期待がかけられるのは、従来アラブ諸国の政治に不介入の姿勢をとってきたという要因が大きく、また良好な対日感情を背景にするものだろう。

 YouGovの調査はアラブ18か国を対象としたもので、特に若い世代は、日本車、技術、アニメに関心がある。回答者の圧倒的多くが日本とアラブ世界の関係は良好と答えている。52%の回答者が、日本が2019年のG20の開催国であることを知っていたものの、40%の人々は日本が国連安保理の常任理事国と誤解している。日本を訪問したい人は87%に及び、アニメでは「キャプテン翼(マジド)」を好む人が75%、続いてポケモン(48%)、ドラゴンボール(37%)、グレンダイザー(36%)となっている。

 「アラブ・ニュース」は日本がアラブ世界の信頼すべきパートナーと認められていると結んでいるが、日本はパレスチナについては「平和と繁栄の回廊」構想でヨルダン川西岸のジェリコ(エリコ)に農産加工団地をつくり、パレスチナ人の職の創出を考え、和平に貢献することを目指してきた。日本がこれまでアラブ・イスラム世界で築いてきた「資産」を背景に、1993年のオスロ合意のノルウェーのように、パレスチナ・イスラエルの間の和平調停ができる可能性もある。日本の政治社会は議論が内向きな傾向にあるが、パレスチナ和平は、日本の政治家たちにもっと注目してほしい分野だ。日本は02年に東京でアフガン復興支援国際会議を開き、緒方貞子さんが米国、欧州連合(EU)、サウジアラビアと共同議長を務めた実績がある。政府にやる気さえあれば、パレスチナ支援国会合の日本での開催も可能なはずだ。国際社会の関心をガザの現状につなぎ止め、その復興を視野に入れることに貢献していくべきだろう。

※表紙の画像はアフガニスタン復興支援国際会議後、会見する緒方貞子共同議長
2002年1月22日
https://mainichi.jp/graphs/20191029/hpj/00m/040/005000g/20191029hpj00m040046000q

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