長崎の平和祈念式典をボイコットし、イスラエルの元人質と会食したG7の大使たち
昨年10月7日にハマスによって人質になり、245日間ガザで監禁され、6月8日にイスラエル軍によって解放されたノア・アルガマニさん(26歳)が父親とともに解放を祝うパーティで友人らと共に水着で踊る動画がXなどに投稿されている。(このアルバムの表紙の動画)この動画についてはガザで多数の人々が殺害されているのに、この狂乱ぶりはイスラエル社会が病んでいることの証拠だ、などの厳しいコメントなどが寄せられている。アルマガニさんが救出されたイスラエル軍の作戦ではガザ住民200人が殺害されたという報道もあるくらい大勢のパレスチナ人の血が流れた。
ビーチやディスコなどで過ごすイスラエル人と、ガザやのパレスチナ人との間には大きな経済格差がある。ガザでは人口の80%が国際的な援助に頼り、人口の半分が失業している。
アルガマニさんのパーティに参加し、楽しんでいる様子のイスラエル人たちを見ると、その場では意識していないだろうが、パレスチナ人に対する人種的な優越感も表れているような気がしてならない。昨年10月7日にハマスがロック・コンサートを標的にしたのも、パレスチナ人にはそのような機会が皆無だからということもあるだろう。
そのアルマガニさんが8月20日に来日し、G7の駐日大使たちと会食した。G7の大使たちは8月9日の長崎の平和祈念式典をイスラエルが招待されていないという理由でボイコットした人たちだ。被爆の犠牲者たちを追悼し、核兵器の廃絶を訴える平和祈念式典をボイコットする一方で、解放されたイスラエルの元人質とは会食の機会を設けるG7の大使たちの姿勢は日本人としてあらためて憤慨する思いだ。核爆弾の投下という大量虐殺の犠牲者たちを追悼しないで一人のイスラエル人の解放のほうが重視されているようだ。また、原爆を投下した当事国・米国のエマニュエル大使も会食に参加したが、彼は日本の国民感情や日本との外交関係よりも自らのシオニズム思想の方を優先している。
22日に日本の上川外相もアルガマニさんと会って抱擁し、「停戦実現のために外交努力を尽くしたい」と述べている。上川外相は、ガザで殺害されたパレスチナ人遺族に会ってお悔みの言葉など述べたことないだろう。また、上川外相がガザ停戦のために、どんな外交努力をしてきたのだろうか。少なくともそのための主体的、主導的な行動などしたとは思えない。ガザの停戦交渉には日本の参加などまったく報じられることはない。
アルガマニさんはハマスによって拘束された人質だが、イスラエルはパレスチナ人の拘束は日常茶飯事的に行っている。パレスチナでは男性人口の実に40%が拘禁されたり、投獄されたりした経験がある。イスラエルの刑務所には常に数千人のパレスチナ人たちが収容されている。投石しただけでも最低3年、最大で20年の刑が科せられる。イスラエルの行政拘禁はイスラエルの人権団体ブツェレムによれば、裁判や起訴なしに、ある人物が将来の罪を犯す計画があるなどの理由で行われる。被拘禁者の80%近くは、6カ月以上拘禁される。イスラエルは安全を優先して投石のような微罪でも行政拘禁を行い、他方パレスチナ人は当然のことながら理由も曖昧な拘禁から解放されることを切望する。上川外相はこうしたパレスチナ人の拘禁経験者や家族の一人にでも会ったことはないだろう。家族を奪われる想いはイスラエルの人質家族も、パレスチナ人拘禁者の家族も同じはずだ。
ヨルダン川西岸のイスラエル入植地への反対を唱え、イスラエル軍兵士を平手打ちにしたパレスチナ人の少女アヘド・タミーミーさんは2018年12月、17歳の時に逮捕され、イスラエルの刑務所に8カ月収監され、最近も2023年11月にイスラエル人入植者への殺害をインスタグラムでほのめかしたという理由で逮捕され(本人は無論否定している)、同月の終わりにハマスとの人質交換で釈放された。彼女はイスラエルの占領や入植地拡大への抵抗のシンボルと見なされている。上川外相はアヘドさんやアヘドさんの家族に会ったらどうだろう。あるいはイスラエルの攻撃で犠牲となったガザ市民の家族に会うべきだ。パレスチナ問題に公平な姿勢を見せなければ、停戦のための外交などできやしない。
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