「最後に愛は勝つ 愛はナショナリズムや過激思想を超克する
大ヒットした「愛は勝つ」を作詞・作曲し、また歌った歌手のＫＡＮさんが亡くなった。「最後に愛は勝つ」という歌詞はいま起こっている紛争についても言い得るものであり、世界の主要な宗教では共通して愛が説かれている。
中世ユダヤ教世界を代表する哲学者、医師、法学者のモーゼス・マイモニデス（ラテン語名：１１３５～１２０４年、ヘブライ語名：モーシェ・ベン＝マイモーン、アラビア語名：イブン・マイムーン）は、イスラムとユダヤ教は慈愛や正義という点で共通の考えをもち、両者による対話は対立や軋轢をなくし、イスラムとユダヤ教は共存していくことができると説いた。イベリア半島や後に移住することになる北アフリカのカイロでアラブ・イスラムやギリシアの思想に触れることによって、ユダヤ教世界で最も寛容とも形容される宗教指導者となった。神の預言はユダヤ教だけにとどまるものではなく、神の真理に至る道、神への責任の取り方の相違がそれぞれの宗教にはあるとマイモニデスは説いた。
マイモニデスはイベリア半島のコルドバに生まれた。同時代のコルドバのアラブ人には哲学者、法学者、医学者のイブン・ルシュド（１１２６～９８年）がいる。彼が生まれた時代のコルドバではイスラムとキリスト教、ユダヤが平和と繁栄の下に暮らし、ユダヤ人にとっても「黄金の時代」が訪れていた。
彼が学術研究や宗教活動の舞台に選んだカイロはユダヤ人にとっては天国ともいえるところで、ユダヤ人たちは迫害もなく、自由に生活することができた。マイモニデスは、医学は「最も素晴らしい神を礼拝する行為の１つ」として、若い頃から医学の研究に打ち込んでいたが、カイロで父親や、一族の家計を宝石商で支えていた弟のデヴィッドが亡くなると、一族の経済的危機を彼の医学の知識を活かして救おうとし、十字軍を駆逐したことで有名なアイユーブ朝の創始者サラーフッディーン（サラディン）とその息子アフダルの侍医となった。
イスラム神秘主義思想家であったイブン・アラビー（１１６５～１２４０年）は次のような詩を残した。
私は愛の宗教を告白する。
愛のラクダがどこに向おうとも、
愛こそ私の宗教であり、私の信仰である。
（竹下政孝「スーフィズムと人間の尊厳性より」）
１９７３年６月にヒットチャート１位となったジョージ・ハリスンの歌に“Give Me Love (Give Me Peace On Earth)” （邦題は「ギヴ・ミー・ラヴ」）がある。その歌詞は次のようなものだ。
私に愛をください
地上の平和を与えてください
光を 人生を与えてください
生まれながらの自由を
希望を与えてください
この重荷に対処できる力を 授けてください
あなたに触れ あなたのもとに行きたい
心から 魂から
https://blog.mryogaku.com/give-me-love/
ＫＡＮさんが心酔していた歌手のビリー・ジョエルは「ファルージャのクリスマス」という曲を作り、宗教を強調するナショナリズムによる戦争の愚かしさを表現していた。
「ファルージャのクリスマス（抜粋）」
私たちは十字軍
聖地を救うためにやって来た
ファルージャはクリスマス
誰も気にしない
私たちは帝国の軍隊
私たちはローマ帝国の兵士
私たちは人々に自由をもたらすためにやって来た
私たちは異教徒と戦うために来た
砂漠に正義はない
地獄には神なんていないから
オサマは山にいると言われている
パキスタン近くの洞窟の奥深く
しかしバグダッドには血の海がある
沙漠の油の海
https://www.youtube.com/watch?v=UJEvvjY8XjE
科学者のアルベルト・アインシュタインは、１９３８年にユダヤ人を数千年にわたって結びつけてきたものは民主的な社会正義の考えであり、それは相互扶助と寛容の理念にも基づくものであると書いているが、異教の者たちに対しても社会正義、相互扶助、寛容の姿勢で接するべきと彼は訴えていた。
アインシュタインは、１９２９年にシオニズムの指導者ハイム・ワイツマン（イスラエル初代大統領）に「ユダヤ人にとって必要なのはアラブと共存することであり、それができないのであれば、我々は２０００年の苦難の歴史から何も学んでいないことになる。」と語った。パレスチナ人に対して力による支配しか考えていないネタニヤフ首相や極右閣僚はユダヤ教の愛からは何も学んでいないようだ。
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