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パリ・オリンピックは平和と平等をアピールするが・・・ ―IOCとフランス政府の「二重基準」

 今日からパリ・オリンピックが開催される。パリ・オリンピックの聖火トーチのデザイン、曲線と丸みを帯びた形状は平和を象徴、また上下左右の対称は平等を表し、さらに開会式などが開かれるセーヌ川などの水もデザインでは表現されている。

 オリンピック開催に際しても、イスラエルやロシアにはオリンピック停戦の精神を守ろうという姿勢がなく、イスラエルのガザ攻撃では460人のパレスチナのアスリートが犠牲になった。パレスチナ・オリンピック委員会(POC)はイスラエル選手をオリンピック参加から排除することを求める書簡をIOCのバッハ委員長に送っていたが、バッハ委員長は「IOCの立場は明確だ。政治の世界とは異なり、われわれの下では二つの各国五輪委員会が平和的に共存してきた」とコメントしてPOCの要請を却下した。

パリ・オリンピック サッカー イスラエル・マリ戦でパレスチナ旗を振る人々 https://www.aa.com.tr/en/sports/football-fans-open-palestinian-flag-to-protest-israel-at-paris-2024-olympics/3284953


 この論理に従えば、IOCの下でロシアやベラルーシも共存してきたので、これらの二国が国旗、国歌の使用が禁じられ、団体競技への参加が認められないの不当ということになる。ロシアやベラルーシのウクライナ侵攻も「政治の世界」だが、フランスのマクロン大統領もテレビのインタビューで「イスラエルの選手を我が国は歓迎する。彼らは国旗の下で出場できるべきだ。五輪ムーブメントがそう決めたのだから。」と述べている。ならば、ロシアやベラルーシの選手も歓迎しなければならない。

 IOCやフランス政府の姿勢はまったくの二重基準だが、近代オリンピック自体が長年戦争や対立を繰り返してきたドイツとフランスの和解を目指して開始されたという歴史的経緯や、またヨーロッパのユダヤ人迫害の歴史や負の伝統を考慮すれば、バッハ委員長やマクロン大統領の発言や姿勢も西欧中心の近代オリンピックという性格から説明できる。

パリ・シャルルドゴール空港に到着したパレスチナ選手団 https://api.nst.com.my/sports/others/2024/07/1081733/palestinian-olympians-receive-warm-welcome-paris


 パレスチナはずっとヨーロッパのユダヤ人に対する贖罪の犠牲になってきた。ヨーロッパ諸国はユダヤ人迫害に対する贖罪の思いもあって1947年の国連パレスチナ分割決議に賛成したが、その分割決議はパレスチナの人々を苦難の下に置き、戦乱がパレスチナ社会を常に覆うようになり、パレスチナ人たちは民族自決権を行使することができないままに、いまだに国家をもてない。

パリ・オリンピックからイスラエルをボイコット https://www.facebook.com/icahdusa/posts/908829707949749/


 ヨーロッパの二重基準はパリ・オリンピックが訴える平等の理念にも反するものだ。アパルトヘイト体制の南アフリカは1964年から92年までの間、オリンピック出場を認められなかった。アパルトヘイトと闘ったネルソン・マンデラは「パレスチナ人の自由なしにわれわれの『自由』も不完全だ」と述べ、イスラエルのパレスチナ人に対するアパルトヘイト体制を厳しく批判したが、イスラエルの参加に何の疑問をもたないIOCの措置やマクロン大統領の姿勢は、アパルトヘイトという観点からも不公平だ。

 フランスの左派政党LFI(不服従のフランス)のトーマス・ポルテス議員は、ユダヤ人国家はオリンピックの開会式で行進すべきではないと述べ、またポルテス議員は「フランスの外交官はロシアの場合と同様に、国際オリンピック委員会にイスラエルの国旗と国歌を禁止するよう圧力をかけるべきだ。二重基準を終わらせる時が来た。」と述べた。こういう発言はヨーロッパでは即座に「反セム主義」という批判を受けることになるが、ポルテス議員の発言は人種主義というよりもあくまでオリンピックの参加に関する公平性を求めたものだ。

イスラエルに対してもロシアと同様な扱いを求めるLFIのトーマス・ポルテス議員 https://www.threads.net/@aljazeeraenglish/post/C9s0wx_iHWl


 フランスの軍・警察は1972年にミュンヘン・オリンピックでイスラエルの選手・コーチがパレスチナ・コマンドに誘拐されて、犠牲になったという歴史もあって、その警備を特に厳格に行っている。ガザで4万人の人々が殺され、世界中で反イスラエル感情が高まりを見せていることと考えあわせば当然なのかもしれない。開会式を前にして行われたサッカーのイスラエル・マリ戦では、イスラエル国家が演奏される際にスタジアムでは観衆のブーイングが響いた。

 ローザンヌ大学の文化史家パトリック・クラストル氏は、戦争による対立によって、地球はオリンピックができない惑星になりつつあるという歴史的段階に入っていると述べた。IOCが公平性を担保できないのであれば、オリンピックの開催も困難になるだろう。フランスはフランス革命が成立しても、その植民地主義経営は、自由や平等という共和主義の理念を世界に広めるという文明化の使命を担い、共和主義の理念を実現するものと身勝手に解釈していた。フランスが本当に平等という理念をオリンピックで訴えたかったのならば、ガザ戦争に加えて、パレスチナ人に対して植民地支配を行うイスラエルのパレスチナ人に対する不平等な扱いも考慮すべきだった。

パリ・オリンピックに出場するドイツのアリカ・シュミット選手 https://the-ans.jp/news/350502/


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