イスラエルの歴史学者ハラリ氏 ―イスラエルは復讐のためにだけ生き、自滅したサムソンに酷似してきた
イスラエルの『ハアレツ』紙(24年4月18日付)に歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏の「From Gaza to Iran, the Netanyahu Government Is Endangering Israel's Survival(ガザからイランまで:ネタニヤフ政権はイスラエルの存続を危うくしている)」という文章が掲載された。(『クーリエ・ジャポン』に「孤立したイスラエルは完全敗北に近づいている」として転載。5月1日付)
この記事の中でハラリ氏は、ネタニヤフ首相が長年追求してきた政策がイスラエルや中東地域全体を破滅に導く可能性があるが、ネタニヤフ首相には反省も、また政策変更の意図も感じられないと批判している。
ネタニヤフ政権はハマスとの戦争を遂行する中で、西側民主主義諸国との同盟や、穏健アラブ諸国との協力を強化すべきだったが、これらの目的は無視され、人質の解放やハマスの非武装化を実現できないばかりか、230万人のガザ住民たちの人道危機をもたらしてしまった。かりにイスラエルがパレスチナに対する姿勢を変えなければ、歴史的災難がイスラエルに降りかかるとハラリ氏は述べている。
ネタニヤフ首相らがガザに対して行ってきたのは盲目的な復讐であり、旧約聖書の土師記に登場するサムソンのように、復讐ためにだけ自分の魂や肉体を滅ぼすようになっているとハラリ氏は語る。サムソンはペリシテ人たちによって暗闇に監禁され、神によって力を再び与えられたものの、復讐のためにペリシテ人を道連れに死んでいった。そのサムソンにイスラエルが酷似してきたというのがハラリ氏の主張だ。イスラエルの極右入植者たちは、昨年2月にヨルダン川西岸のハワラで2人の入植者が殺害されると、このハワラの町全体を焼き払ったが、これをイスラエルの治安部隊は制止することがまるでなかった。ハワラでの報復劇は現在のガザ攻撃の「予行演習」となったとハラリ氏は述べる。
現在のイスラエルは、1945年の日本のように、敗北の危機に瀕しているにもかかわらず、勝利を約束するエコーチェンバー(同調の声ばかりが響く部屋)の中に閉じ込められている。これを壊すには、サムソンのような政策を追求してきたネタニヤフ首相が即座に辞任しなければならないとハラリ氏は説く。ガザの人道危機に終止符を打つことがイスラエルの国際的地位の再構築になるとハラリ氏は訴え、パレスチナ人に対する姿勢を変えなければ、イスラエルが単独でイランと対峙しなければならないとイスラエル国民としての危機意識を文章の最後に吐露している。
ハラリ氏が言うように、ネタニヤフ政権がガザにしていることはイスラエルの国際的イメージを著しく悪化させたことは確かだろう。最大の同盟国アメリカですら学生たちがイスラエルによるジェノサイドを批判し、イスラエルの軍需産業と関連をもつ企業からの投資撤収を呼びかけるようになっている。こうした若者たちの声がアメリカのイスラエル政策の変更をもたらす可能性がある。イスラエルがこのままパレスチナに対する政策を改善することがなければ、コロンビアがイスラエルとの断交を表明したように、イスラエルの国際的孤立はますます深まるに違いない。
哲学者のハンナ・アーレントは、パレスチナ人に対して人種差別的なイスラエル初代首相のデヴィッド・ベングリオンやイスラエルの多くの人々が「反セム主義」によってユダヤ人がガス室や人間石鹸に至ったと強調しているせいで、「反セム主義」は永久ではないにしても、当分の間、まったく信用を得られなくなったと述べた。現在、ベングリオンよりもはるかに人種主義的なネタニヤフ首相が「反セム主義」という言葉を多用することで、「反セム主義」という言葉はその信用をまったく失墜させ、国際社会の多くの人々はイスラエルの主張に耳を貸さなくなった。
先月、ヨーロッパ・ユダヤ人会議のアリエル・ムジカント会長は、イスラエル極右のイタマル・ベングビール国家治安相がガザへのイスラエル人の再定住を提案したことで、ヨーロッパにおける反セム主義が一段と強まったと語った。イスラエルはハラリ氏が言うようにまさに現代のサムソンになりつつある。