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イスラエル極右は歴史を知らない ―ナチス傀儡のヴィシー政権からユダヤ人を救ったムスリムたち

 イスラエルの極右閣僚イタマル・ベンビール国家治安相はエルサレムのイスラムの聖地であるハラム・アッシャリーフをユダヤの神殿に変えると主張し、ハラム・アッシャリーフの敷地内でユダヤ教の礼拝を再三行い、またベングビール氏と同じ極右政党「ユダヤの力」に属すアミハイ・ベン=エリヤフ・エルサレム問題・遺産大臣はラマダンなど消滅してしまえと発言するなど、彼らにはイスラムに対する敬意が感じられない。イスラエルにイスラムに対する敬意がないことは、当然のことだが、ガザでモスクを空爆して破壊したり、ガザのムスリムを多数殺害したりすることにも見られる。

イスラエルのラファ攻撃に抗議するパリ市民たち https://x.com/sahouraxo


 これらの閣僚たちを始めイスラエル政府は、過去にムスリムがユダヤ人をナチスの「ユダヤ人狩り」から救ったことなど、知らないか、まったく意識していないようだ。

 ナチス・ドイツに協力したフランスのヴィシー政権時代、ムスリムたちはその反ユダヤ主義に抵抗するように、ユダヤ人たちをパリの大モスクにかくまい、100人のユダヤ人にムスリムであるという身分証明書を偽造して発行した。当時のパリの大モスクのイマーム(礼拝の導師)はアルジェリア出身のアブデル・カーデル・ベンガブリト(1868~1954年)だった。

パリの大モスク初代イマーム アブデル・カーデル・ベンガブリト(1868~1954年) https://www.thehistoryreader.com/historical-figures/benghabrit/


 ベンガブリトの行動で1500人以上のユダヤ人の命が救われたと主張する歴史研究者もいるほど、彼はナチスの迫害を受けるユダヤ人に同情し、その救済に尽力した。助けられたユダヤ人の中にはアルジェリアの著名なユダヤ人歌手サリム・ハラリも含まれていた。ベンガブリトが歌手のハラリを救ったエピソードはフランス映画「Les Hommes Libres (自由な人々)」(2011年)の題材ともなり、ベンガブリトはその行動でフランスの最高勲章である「レジオンドヌール勲章大十字章」を授与された。

映画「Les Hommes Libres (自由な人々)」(2011年) https://fr.wikipedia.org/wiki/Les_Hommes_libres


 フランスではヴィシー政権時代の1942年7月に13、000人のユダヤ人が一斉に検挙されるというヴェル・ディヴ事件が発生したが、当時フランスの植民地だった保護領モロッコのムハンマド5世は、モロッコのユダヤ人たちをヴィシー政権に引き渡すことを断固として拒んだ。1940年にはモロッコにおけるユダヤ人人口は25万で、当時のモロッコ人口の1割を構成していた。モハメド5世は、ドイツの傀儡であったヴィシー政権が黄色い星のバッジをユダヤ人に付けさせ、彼らを隔離するようにと要求すると、これも拒絶し、「彼らはユダヤ人ではなく、モロッコ国民だ」と語った。ベンガブリトやムハンマド5世の勇気ある行動こそ、ヴィシー政権とは異なってフランスの「自由・平等・博愛」の価値観にかなうものだった。

モロッコのムハンマド5世 https://en.wikipedia.org/wiki/Mohammed_V_of_Morocco


 ムスリムをはじめとする非白人の兵士たちの貢献にもかかわらず、パリ解放に参加した自由フランス軍にはその兵士の65%を構成していたセネガルのムスリム兵をはじめとする黒人兵士たちの姿はなかった。フランスには白人によるパリ解放を演出したい意図があった。

 2022年7月17日にフランスのマクロン大統領は、ヴェル・ディヴ事件による犠牲者を追悼する式典に参列し、「フランスで起きたホロコーストの歴史を忘れてはいけない」と語ったが、同様にユダヤ人たちもホロコーストから彼らを救ったムスリムたちがいたことを、特にイスラエルの極右などは忘れてはならないだろう。イスラエルは迫害された歴史を強調するが、同様に助けられた記憶も想い起こせば、ガザのムスリムに対する非人道的な行いなどできないはずだ。


パリの大モスクの藤の花 https://nathaliewanders.com/spring-in-paris/


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