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親イスラエル勢力に襲撃されたUCLAの学生たちと、政府の中東政策を批判するアメリカの学問的良心

 アメリカのブラウン大学では、学生たちのパレスチナ連帯キャンプを受けて、学長がガザ攻撃で利益を上げる企業からの投資撤収を検討すると学生たちに約束した。学生たちのガザ停戦を求める運動は一定の成果を上げ始めている。

ステューデント・パワーの成果ですね https://www.afpbb.com/articles/-/3517566


 カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)では、4月30日、パレスチナ連帯のキャンプを行う学生たちに親イスラエル勢力が花火を撃ち込んだり、強制的に排除しようとしたりするなど暴力的襲撃を行った。BBCは「恐ろしい暴力」という言葉を使用しているが、その暴力はヨルダン川西岸でパレスチナ住民に暴力を繰り返すイスラエル極右を彷彿させるものだ。親イスラエルの暴徒はガラの悪いフーリガンという印象で、学生ではない人物たちが少なからずまぎれているように見える。(衝突の様子はテレビ朝日ニュース
https://www.youtube.com/watch?v=-4Bntx60nOk などにある)。

パレスチナ連帯キャンプを襲撃する親イスラエル・グループ https://edition.cnn.com/business/live-news/university-protests-gaza-05-01-24/h_369fc48f0e4463fb8b93d3cf681a4582


 パレスチナとの連帯を示す学生たちがキャンプを張るのはディクソン・プラザという場所で、UCLAの象徴とも言えるところだ。ニュースでは、ガザ停戦を求める学生を襲撃するのはイスラエルの暴力の一環だと発言するUCLAの学生がいたが、自由を求めるパレスチナ人の声を軍事力で圧殺してきたネタニヤフ首相などイスラエルのタカ派・極右勢力の手法は、学生たちの声を暴力で排除しようとする親イスラエル勢力の行動には共通するものがある。

この上がディクソン・プラザです


 UCLAは私が学んだ大学だが、この大学にはリベラルな傾向が強くあり、在学中、言語学者のノーム・チョムスキーの講演会は圧倒的な人気で、会場には収容できないほどの学生が集まっていた。南アフリカの反アパルトヘイトの運動にも熱心に取り組む学生たちも数多くいて、政治や社会の不義を正したいという傾向が学生たちには強く見られた。ちなみに黒人初のメジャーリーガーのジャッキー・ロビンソンもUCLAの野球チームに所属していた。大統領選挙ではカリフォルニア州でいつも民主党候補が勝利するというのはUCLAで見聞したことを考え合わせるといつも納得する思いでいる。

「イスラエルは水を奪い、オリーブの木を焼き払い、家を破壊し、私の職を奪い、土地を盗み、父を投獄し、パレスチナを空爆し、我々を飢えさせ、私たちを辱める、しかしロケットを撃ったと責められるのは私のほうだ。」「パレスチナに自由を」―ノーム・チョムスキー https://www.reddit.com/r/chomsky/comments/nb18j2/chomsky_responding_to_the_violence_on_both_sides/


 UCLAはアメリカの大学の中でも中東研究が盛んで、この大学を選んだのは、当時はイラン革命の直後で、イラン現代史研究やイラン革命について多くの著作があるニッキー・ケディ教授(1930年生まれ)に師事したいと思ったからだが、ユダヤ系の彼女もまた論理的ではない、親イスラエル勢力によって影響を受けるアメリカのイラン政策を批判し続けている。

ニッキー・ケディ 厳しい指導教授でした。 https://www.gf.org/fellows/nikki-keddie/


 アメリカで中東問題に関するオピニオンリーダーとなっているミシガン大学教授のホアン・コールもニッキー・ケディに師事していたが、イラク開戦当時、イラク戦争に執拗に反対する彼に関する情報をCIA(中央情報局)は特に重視していた。CIAの反テロ部門の最高責任者であったグレン・カール(Glenn L. Carle)は少なくとも二度ホワイトハウス筋からコール氏に関する情報を集めるよう依頼があったことを2011年6月に暴露した。カールは、このような行為は不当であるとホワイトハウスの依頼を受け入れようとするCIA職員と対立したと語ったが、アメリカでは自国民に対する諜報活動は違法とされ、禁止されている。

ホアン・コール・ミシガン大学教授 UCLAの中東センターでよく会っていました。精力的に執筆活動を行う人です。 https://www.tuscaloosanews.com/story/opinion/columns/2011/03/13/at-large-professor-juan-cole-lectures-on-events-in-middle-east/28372798007/


 中東地域を研究している者ならば、アメリカの中東政策がイスラエルに偏っていることに容易に気づく。それは、アメリカ最大の中東研究の学会「北米中東学会(Middle Eastern Studies Association of North Africa: MESA)」が一昨年、イスラエルに対するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)に賛同することを圧倒的多数で決定したことからもうかがい知ることができるだろう。むろん、今の学生たちの運動は、映像などで知るイスラエルの人権侵害や国際法違反に対する憤りや反発が動機となっている。彼ら若い世代にとってイスラエルのガザ攻撃は、戦争の悲惨な実態を知る初めての機会となったことだろう。

「今日教室に入る時、ガザでは大学が破壊されてなくなったことを思い出してください。」 カナダ・バンクーバー、ブリティッシュ・コロンビア大学で https://www.gettyimages.co.uk/detail/news-photo/pro-palestinian-students-set-up-encampment-at-the-news-photo/2150413440


 UCLAの学生たちからも強く支持されていたチョムスキーによれば、イスラエルはリベラルな市民の支持を失い、欧米の最も反動的な勢力や原理主義的なキリスト教福音派の運動によって支持されるようになり、これらの運動はユダヤ人を蔑視する反セム(ユダヤ)主義のイデオロギーをもちながらも、イスラエルの過激な行動を支持している。チョムスキーはまた2018年にi24 Newsとのインタビューの中で、イスラエルで「ユダヤ・ナチ的傾向」が強まっていることに関心を寄せざるをえないと発言したこともあった。

即時停戦などを求めるUCLAの学生たち https://www.dailynews.com/2024/04/30/palestine-protests-ucla-opens-inquiry-usc-president-in-talks-with-protesters/


 アメリカで中東をウォッチしている研究者たちの言説を日本の政治家たちもよく学び知る必要があるだろう。現在の岸田政権もそうだが、矛盾の多いアメリカの中東政策に唯々諾々と従うことは、パレスチナ問題で日本に調停の役割を期待するアラブ世界の想いに背くなど日本の国益なるとは到底思えない。

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