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ガンジーの平和観と、シオニズムはイギリス帝国主義の一環と考えたガンジー

 インド独立運動の指導者ガンジーは、「暴力は何も解決しません。愛、お互いを信頼する心、理性が問題を解決します。みんなが共存することが大事なのです」と語り、サティヤーグラハ(真理の把握)運動を推進した。この「真理の把握」に、ガンジーは非暴力抵抗運動という意味を込めるようになった。

「平和は自分の内面にあり、周囲の状況に左右されない」-ガンジー

 ガンジーは、自らが抵抗するイギリス植民地主義が支援したシオニズム運動(ユダヤ人の国家をパレスチナに建設する運動)をどう見ていただろうか。ガンジーは1938年に高名なユダヤ人哲学者マルティン・ブーバーから、ヨーロッパで迫害されるユダヤ人を助ける意味でもシオニズムを支持してほしいと頼まれるが、「同情によって正義を曇らせることはできない」とそれを断り、ブーバーとの対話の中で次のように述べている。

「ユダヤ人の民族郷土を求める声は私の心に訴えるものがない。彼らは聖書と、執拗なパレスチナ帰還という民族的願望により、他者の土地での民族郷土設立を正当化する。しかし、自分が生まれ暮らしている国を自分の郷土とする民族はいくらでもいる。なぜ彼らも同じようにしないのか?」(イラン・パペ〔脇浜義明・訳〕『イスラエルに関する十の神話』法政大学出版局、2018年)

 『イスラエルに関する十の神話』の著者イラン・パペはイスラエル・ハイファ生まれのユダヤ人で、イギリス・エクセター大学の教授だが、イスラエルによる「意図的な歴史の曲解が抑圧を強化し、植民・占領政策を擁護している」と主張する。パペによれば、シオニズムは、イギリス政府が中東に足場を築くための方策の一つであり、そのことがガンジーの心をいっそうシオニズムから遠ざけた。

日本の古本屋より


 ヨーロッパのスペイン、アイルランド、ノルウェーがパレスチナ国家承認に踏み切ったのは、ネタニヤフ政権がイスラエル建国以来最も極右的性格をもっていることと無関係ではない。イスラエルは国際法に違反して占領地での入植地を拡大し、極右の入植者たちはパレスチナ人に暴力をふるい、ガザへの人道物資を積んだトラックを襲撃し、食料を廃棄している。ガンジーが表現する愛、理性、お互いを信頼するような心が今のネタニヤフ政権に微塵も感じられないことが、ヨーロッパでのパレスチナ支持の背景となっている。ヨーロッパ諸国のパレスチナ国家承認は占領地での生産品をヨーロッパ市場から排除することに弾みをつけるに違いない。

 スペイン、アイルランド、ノルウェーはイスラエルに市民への軍事攻撃を止めるように要求してきた国だが、これら三国に続いてスロヴェニア、フランス、ベルギーがパレスチナ国家承認に動くと見られている。もちろん、これらの国の動きはパレスチナ人への暴力停止を求め、交渉による二国家解決を求める国民感情を考慮してものだ。

 戦争や暴力の克服はキリスト教世界でも唱えられ続けた。ドイツ生まれのスイスの作家ヘルマン・ヘッセ(1877~1962年)は第一次世界大戦が始まると、『チューリッヒ新聞』に次のような文章を寄稿した。

「人間の多数がゲーテ的な精神界にともに生きることができないかぎり、戦争はあるだろう、おそらく常にあるだろう。しかし、戦争の克服は、昔も今も、われわれの最も高貴な目標であり、西洋的キリスト教的文化の最後の帰結である。・・・愛は憎しみより高く、理解は怒りより高く、平和は戦争よりもけだかいということ、そのことを、今度の不幸な世界戦争こそ、われわれがかつて感じたより深くわれわれの心に焼きつけなければならない。そのほかに戦争は何の役に立つだろう?」

https://marutto-meigen.com/sayings/26505  より


「平和は人類最高の理想である」という言葉を遺したゲーテは、イランの詩人ハーフェズ(1390年没)の詩に強い感銘を受けたが、ハーフェズは愛や多様性をその詩作の中に多く表現した。

愛は栄光の降るところ
汝の顔より—修道場の壁に
居酒屋の床に、同じ
消えることのない焔として。
ターバンを巻いた修行者が
アッラーの御名を昼夜唱え
教会の鐘が祈りの時を告げる
そこに、キリストの十字架がある。
   -ハーフェズ(ペルシア最高の叙情詩人と言われる。1390年没)
   (R・A・ニコルソン『イスラムの神秘主義:スーフィズム入門』)



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