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「ソンムの戦い」と、危機を煽る米国の軍産複合体の主張に乗る日本

 2021年3月、米国の前インド太平洋軍司令官P・デビッドソン海軍大将が上院で「中国は6年以内に台湾に侵攻する可能性がある」と述べたことによって日本でも危機感が広がり、防衛費倍増の背景となった。米国の軍関係者が危機を煽り、多くの国防予算を獲得し、それが軍需産業の利益となるという構造は常態化している。この米国の軍産複合体は、イラクの大量破壊兵器保有という危機を煽り、イラク戦争に至ったことは周知の通りだ。

 トランプ前大統領は、2018年にNATOの同盟国に対してGDPの4%にまで軍事費を引き上げるように要求し、さらに2020年9月、トランプ政権のエスパー国防長官は日本など同盟国に軍事費をGDP比2%にまで増額することを求めた。岸田政権の防衛費増額の決定はこうした米国の圧力による金額が先にありきの決定だった。中国は半導体輸入を台湾に依存し、台湾の輸出の44%は中国向けで、台湾人100万人が中国で経営者、技術者として活動している。デビッドソン氏が言うような事態にはなりそうにないと考えるのは私だけではないだろう。

 今日7月1日は第一世界大戦の1916年、フランス北部のソンムの戦いが始まった日で、戦闘初日だけでも英兵1万9240人が戦死し、一日の死者とすればイギリス軍史上最悪の数字だった。同年11月18日まで継続したソンムの戦いの戦いではイギリス軍45万人、フランス軍20万人、ドイツ軍50万人が戦死する激戦だった。

 第一次世界大戦の帝国主義者たちのイデオロギーの中心にあったのは国家の栄光を訴えるナショナリズムだったが、戦争は一部の人の経済的利益を代弁するものでもあった。第一次世界大戦では様々な新しい兵器が開発されたが、フランスのルノー、イタリアのフィアット、ドイツのクルップ社、イギリスのウィリアム&フォスター社などは戦車、大砲、機関銃などの兵器の製造で莫大な利益を上げていった。イギリス・ウィリアム&フォスター社のマークⅠ戦車などは、イギリス軍、フランス軍、またドイツ軍という敵味方双方によって使用された。第一次世界大戦によって欧米の軍産複合体は戦争のうま味をいっそう実感することになっただろう。

実に愚かしく思います https://sekainorekisi.com/world_history/%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C/?fbclid=IwAR3jQA-E076qK7oA3V_z5fWwLZJaFFqwT8rhjaAgvycHX05KZAzosUl4zdI



この地は美しい血をどんなにたくさん飲み込んだことだろう
労働者の血、農民の血
戦争の原因である盗賊どもは絶対に死なない
あいつらは罪のない民しか殺さないからさ
その名は赤い丘、ある朝そう名付けられた
その丘によじ登った者はみな、雨溝の中に転がっていた
今ではそこには葡萄の木が生えて、葡萄の実がなっている
その葡萄でつくる赤ワインを飲む者は、仲間たちの血を飲んでいると感じるんだ
今ではそこには葡萄の木が生えて、葡萄の実がなっている
だけど私にはそこに仲間たちの名前の書かれた十字架が見えるんだhttp://blog.livedoor.jp/aara/archives/51521255.html

 これは、1919年につくられたシャンソン「赤い丘」(モンテユス作詞、ジョルジュ・クリエ作曲)の一節で、1950年代にイヴ・モンタンがリバイバル・ヒットさせた。
(イヴ・モンタンの歌は https://www.youtube.com/watch?v=hfC1c1s_v74

 にある。)
 この歌は、一部の権力者、特権階級のために死んでゆく労働者や農民の怒りや恨みを描いたもので、シャンソンのスタンダード・ナンバーとなった。第一次世界大戦で頂点に達する帝国主義戦争は、イデオロギー的にはナショナリズム、また植民地の獲得など経済的権益をめぐる衝突で、労働者・農民など一般庶民は当初は権力者たちにナショナリズムへの訴えなどに煽られて戦場に赴いたかもしれない。しかし、戦場の現実に触れるにつれて、戦争の汚れた本質に気づいていったに違いない。

これで本当に戦争になるのだろうか? https://www.jetro.go.jp/biz.../2022/04/2dee31d5a82d9125.html


 日本の世論は、集団的自衛権を確立した安倍政権以降に顕著になった自衛隊員の定員割れや、ロシアのウクライナ侵攻後に目立つようになった任期制自衛官の応募の大幅減で、米国の圧力に屈し、米国に追随する安全保障政策に、実質的に「NO」を突き付けている。安全保障に関する政府の動きはまったく空回りしている印象で、防衛増税など本当にそれでよいのだろうかと政府には自問する必要があるだろう。

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