学校業はビジネスであると言ってはいけないのか? 学費未納者について考える


私立学校とは教育という社会的活動を営む組織のであり、株式会社のように営利を目的とした社会活動ではなく、生徒にとってより良い教育の提供を行うのが学校法人の社会的活動であると言えます。営利ではなく良い教育が目的の事業。そのため、学校法人は別に株式会社を持ち、グループ内企業として営利を目的とした活動を営み法人グループとして利益確保を図っていくのが学校法人の構造の1つです。経営側と教育側に分かれているのが一般的で、教育と経営を分離することでそれぞれの独立性を保ちつつ、反面水と油のように対立構造となることも容易に想像できるかと思います。

生徒募集で定員数上限ぎりぎりまで生徒を確保したい経営陣に対して、
適正人数、より充実した教育のために募集人数をコントロールしたい教育陣

経費削減に努め、ソロバンで常に収支管理を行っている経営陣と
よい教育のためにと必要なものをしたがる教育陣

さすがに湯水のように経費を使うような先生はいる訳もなく、価値観が分かれている極端な例としてピックアップしましたが、学校は経営運営側と現場を預かる教育者側との構造になります。先生にも進学率や退学者数などで給料が変わる所もあると聞いていますので、現場で奮闘する先生にも生徒管理、教材研究だけではなく利益確保の役割も存在しています。ただし、生徒や保護者からは見えない分、ご理解いただくことが難しい側面もありますが、先生の仕事は授業だけではないということは想像できると思います。

「学費を払っているのだから、授業を受けないともったいない」という指導はよくみます。講義1回は授業料から換算すると〇〇円、など授業を欠席することが、どれだけ損失なのか?理解してもらうために、授業料1回あたり〇〇円かかっているからちゃんと出るように!とは決まり文句として出てきます。このように授業を受ける側からお金をキーワードにするのは分かりやすい例えであり、飲食店でも食べている人が、このメニューの原価っていくら?などとお金の話をするのは問題なさそうです。

しかし、提供している側が収支の話はタブーです。車の営業をしているメーカーの方は、タイヤにいくら経費が掛かっているからとか、船便で届くと1台〇〇円だからとは話しません。ラーメン屋のご主人がお客様を前にして、このラーメンの原価はいくらとかは言いませんし、グロスではなく1杯当たりの単価を正確にはじき出すことは難しいことでしょう。学校も、あなたは今日休んだので〇〇円の損失であるとは言いません。

特に形になっていないもの、英知や情報、環境に対するバリューは人によって違います。時間当たりで学校の一日あたりの金額を計算することはできません。また、学費とは単純に授業に対する対価だけではなく、校舎や施設設備、運営費、維持存続に必要な様々な支払を算出するなど、授業に出ていないから学費がかからないという訳ではありません。当然、在籍している期間の事務手続きなど在籍しているだけで発生している経費がありますし、使う、使わないという対価として設定しているものではないということをご理解いただきたいと感じています。よく、その収支を明確にするべきだとのご意見もいただきますが、公立学校のように回収した金額に対して支出を計算することも、同じ理由でできないことがあります。バス見学に行くので、バス代として徴収し何に使ったのか?という入口と出口だけではありません。公立高校ですと、その先生の引率費や食事手当などは国や自治体が用意します。自分たちの学校で用意する必要がありません。私立の場合は、そこから先生たちの手当なども含めて計算することもあり、このバス代の中に先生のお弁当代500円が含まれていることもあります。適正な事務手数料も徴収している場合もあります。バス代で10,000円だと言っても、その先には人件費から利益まで様々ですが、それと同じことです。適正な価格設定で参加する生徒も協力してくれている企業も、働いてくれている人たちも守っていく、価格設定とはそのように作られています。

特に私立高校に進学した場合は、義務教育では発生しなかった支払用途が沢山でてくるので、支払に対して窮する場面もよく見られます。学費は月謝制もあったり、大学のように年間一括という学校もあったりしますが、計算根拠は同じで施設設備や環境、保守管理、人件費などから換算して学費を割り出します。働く皆様の生活を守る責任もありますので、お給料も上げていけるよう、様々な方法でお金を管理運用しています。この役割を担っているのが本部機能であり、管理部門の仕事となります。

学校業、教育産業は前払いという仕組みが完成している業界です。先に現金を回収することができるため、事業としては運営が楽な面もあります。先にお金が集まりますので、健全な経営をしていれば、ショートすることがないので計算さえ間違えなければ、学校業の収支管理は案外気が楽かもしれません。その反面、4月の在籍生徒数で全ての収入が決まります。転入生を受け入れて生徒数を増やす=収入を増やすという方法もありますので、私立高校はまだまだ収入を増やしていける可能性があります。しかし、大学短大、専門学校は転入という方法がないため(大学では可能な所もあるかもしれません)、4月の学生数=一年間の収入と考えられます。生徒数は退学などで減ることはあっても、増えることがないため使っていくだけの資金繰りとなります。非常に分かりやすく収支管理はやりやすいのですが、ダメだった年は1年間ダメだったままです。今回外れても次回頑張るということができない苦しさが、学校業という事業特性と言えます。学費だけではなく、生徒が入学する際の基準となる募集要項に書いていないことはできない。いや、できなくはないのですが、約束と違うという事にもなり兼ねなく、いいことであっても実施には躊躇することがよくあります。常に1年単位、今のチャンスを逃すと、次のチャンスは一年後でなければやってこないのが学校業です。これも学校という仕事の特徴です。

学費は、総収入と総支出から算出していますので、この月にいたから、いないから学費が変わるというものではありません。今やっていないことでも学校は1年間のサイクルで計画を組んでいるため、半年後、10か月後など授業の進行によって使用する時期は変わります。たとえ使用するのが10か月後であったとしても、学費として4月に徴収をしています。今の対価といて学費があるわけではないことをご理解いただければと思います。

しかし、ここを理解いただけない方が多く、行ってないから払わなくていいと思っている方が多いものです。高校生には就学支援金という国からの助成金もあり、5月1日に在籍者名簿を提出します。手続きの有無も関わらず、席があるとされる生徒は人数として提出します。お名前があると、毎月の助成金が在籍している教育機関に国から支払われる対象者として手続きが始まります。また、教科書や生徒証、座席、発送物など授業開始前にやるべきことも多く、年度初めの学校は一年で一番忙しい時期であると言えます。お名前があると学費を入金しているか否かに関わらす、生徒の1人として扱ってきます。そこには当然人件費が発生しています。

きっと学校業に従事している方であれば、学費未納の対応に追われた経験のある方、現在進行形で取り組んでいらっしゃる方も多いかと思います。実は私自身も、学費を回収する責任を負っている一人です。理不尽な言動や音信不通、訴訟など教育とはかけ離れた仕事が、そこには存在しています。学校だから払わなくていいと根拠のない理由を述べられる方、先月と今月は登校していないので学費は払いませんと言ってくる親、どこか債権回収代行業者に依頼したいのですが、学校とうい信頼が看板の業界であるために、あまり厳しい取り立てや、回収を外部に委託することも二の足を踏みます。どこかが債権回収を代行してくれるとありがたいのですが、どこか踏み切れない部分もあります。

未払いは犯罪です、ラーメン注文して出てきたけど、食べてないからお金を払わないと言っていることと同じです。

学校は子供が通う神聖な場所だからと、事業として甘く見られているようにも感じています。学校としての教育構造と収益構造の両輪であることは、果たして説明しておくべきなのでしょうか?そこまで必要ないのか??学校業はサービス業です。私立学校とは、教育という商品を提供しているサービス業です。学費以上の満足度や人的サービスは十分実施可能なものはかりです。

学校という神聖な領域であることと、私立というサービス業であること。この水と油が混ざっているのが私立学校だとご理解いただけたら幸いです。コロナで休校となり学費の返還を要望する声と、学費は返金せずにオンライン授業の準備金として学生に支出する学校と、両方の側面が見えてしまうため、いつも苦しい思いでこのニュースを見ています。

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