【読書感想】1998年の宇多田ヒカル(新潮新書)



poplifepodcastやwowowぷらすと、トークライブ配信で宇野氏のファンとなり、しかし何となく本には手を出さず、ついに図書館で借りて読んだ。宇野氏の面白さは時代世代と産業構造から、政治的なせめぎあいの結果としてエンタメを分析、活写することと、その歯に衣着せぬ(というよりはより巧みに歯に衣を着せたり、逆にさらに犬歯をとがらせてみたり)といった計算された語り口にある、と思う。そのチャームは、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、(+浜崎あゆみ)という1998年の3(4)人の天才のせめぎあいとして、1章ずつ論評する本書でも発揮されている。

文章も、いつぞやpoplifepodcastで豪語していた通り、例えばリアルサウンドのライブレポやインタビューとは明らかに文体を変えて新書読者にアジャストしており、とはいえ少し砕けた塩梅で、うまいなと思った。

ただ、特に総論として新しいことを言っている本ではない。2014年CDの時代は終わりつつあり、1998年には天才が4人生まれた。それは必然であった、という物語が面白いのであって巻末のカタストロフ的な未来予測も、結果としては当たらなかった。
音楽業界はまた様相を変え、10年後ぐらいには『「夜好性」の2018年』とかいう新書がリリースされているのかもしれない。

個人的には宇多田ヒカルの曲は昔からそんなに好きではない。なんか、悲しい気持ちになるからだ。シリアスなR&Bをそもそも自分は受け付けないのだ。それでも、本書に登場した『BLUE』や『KISS & CRY』を改めて聴いて、「まあ、昔よりは好きになったかな」と思った。こうして徐々に洗脳されれば好きになっていくだろう。それが評論、というより物語として音楽を語ることの力だと思う。

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