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「ミニシアター、今どうなってますか?」シネマスコーレインタビュー*2023.5

名古屋ではミニシアターの休館・閉館が相次いでます。
3月に名演小劇場、先日は名古屋シネマテークの7月閉館が発表されました。名古屋の独立ミニシアターは今夏よりシネマスコーレのみになります。
どうにかコロナ禍の3年をくぐり抜けたはずのミニシアターが、ここへ来て立て続けに閉じていく現実。
全国的知名度もあるが故か、印象だけで語られてしまうことも多いシネマスコーレ。憶測も飛び交いがちな同館の支配人の坪井さん・大浦さんに、あれこれ伺いました。 (2023/05/29)

ー まず、シネマスコーレの現状を教えてください。

大浦:2023年でいうと非常に悪いです。5月の動員はよくて、採算ラインを超えました。7~8ヵ月ぶりに採算ラインを超えたのは3月で、4月でまたズドーンと落ちた。全体のマイナスを補うには全く無理です。

ー コロナ以降、例年並みの回復傾向にはあるということですか?

大浦:いや、全然。7割くらいです。

坪井:やれてるのが不思議な感じです。テークさん、名演さんがこうなり、うちも確実に傾いてるのに、そういう顔をしてないだけ。先に言われちゃった感があります。外から見えないだけで実はガタガタ。でも、ここまで来たら続けることを考えるしかない。基本の数字が採算ラインを超えないから、何かを切り下げて暮らすことを考えなきゃというのがずっとテーマでした。どう切り抜けるのか。方法が見つかるのか。
「よその劇場はダメ、スコーレだけは良い」のではなく、全部ダメなんです。7月以降はうちだけになるわけで、さらに勝負になってしまう。どこもかしこも同じ状況。

ー 分かりました。では、ここからは観客目線にて質問していきます。
2月から木全さんは代表へ、坪井さんが支配人になられました。交代は、安泰を見越してのことでは?

坪井:木全が「自分に何かあってもいいように」という、継続のためのライフラインです。

大浦:それと、木全がスコーレ配給の公開予定映画『青春ジャック』に力を注ぐためです。全く安泰ではない。

ー スコーレは名古屋駅徒歩5分、最高の立地です。集客も楽なのでは?

坪井:だったらコロナ禍でもみんな来れたはずじゃないかと思います。

大浦:立地がよくても潰れる店はいっぱいあります。その分、家賃は高いです。

坪井:名演さん、テークさんに比べ、うちが一番地価の高いところに40年居座ってる。一番危ないのはうちだと思います。

ー リスクも大きいということですね。

大浦:そうですね。駅前で便利なのはゲストが道に迷わないことくらいです。立地がよくて得してると思ったことは全くない。

ー スコーレは何度もドキュメンタリー映画になりました。PR効果はバッチリでは?

坪井:名前が知られていて「何か起きたら誰かが助けてくれそうな劇場ナンバーワン」とよくいわれます。錯覚を起こすPRにはなってますね。

大浦:ありがたいですが、それで儲かったこと、あるのかな? 少し前にテレビで紹介され、これはすごい宣伝だと思って身構えてたら、本当にそよ風くらい。番組の中でさんざん取り上げてくれた映画が一日10人来ませんでした。すごく悲しい結果でした。

坪井:閉館を発表すると、残念ですがお客さんが増えます。生きてる間はPRにならないのに、閉まる時は逆にPRになる。我々にとってはドキュメンタリーもリスクになった部分があるし、名前は覚えてもらえてもお金にはならないですね。

ー 映写機が新しくなり、2Fにスペースも新設されました。余裕があるのでは?

大浦:映写機が新品になったのは、壊れたからです。当然、負債を抱えてます。でも本当に今、映像も音も最高の状態。監督たちからも素晴らしいと言ってもらえます。皆さんもぜひ来てほしいですね。

坪井:2Fの新設も、休憩所にしていたビルが潰れたからです。代わりの場所を見つけたタイミングでした。
映写機や2Fスペース、スコーレの映画などもそうですが、木全が出す「生きてます」という存在証明なんです。それがリスクになる部分はあるけど、木全の強運、凶運でもあります。うちはやってますという彼のPRが、SNSしか見てない人には「お前らは大丈夫だろ」と伝わるのかもしれない。

大浦:スコーレはなんで今やれてるんだろうと、私も不思議です(笑)。

ー スコーレは「エログロ・B級」に特化した映画館ですか?

大浦:エログロは多いです。それを楽しんでほしくて組んでいる部分もあるけど、それだけじゃない。坪井さんがそのジャンルに強く、劇場にそのイメージがつくのは問題ないんですが、それしかないと思われるのは心外です。
最近、テークの前支配人・平野さんの本を読み返してて、こんな文章がありました。スコーレとテークで映画が取り合いになることはないのかと聞かれるけど、ジャンルが確立してるからあまりないと。スコーレはアジア映画・エンタメ性の強いものを得意としてて、テークはヨーロッパやアート映画かなあ、と書いてました。まさにそれです。得意としているだけ。
ただ、エログロB級を下に見ているのは映画に失礼だと思います。

坪井:城定(秀夫)さんとラス・メイヤーは何が違うのかというのと同じ。エロをメインにしたエンタメの城定さん、さらに突き抜けてアートにしたラス・メイヤー。うちがラス・メイヤーをやったこともあるし、テークで城定さんの作品が上映されたこともある。ラース・フォン・トリアーなんかどうなるのか。上映館によってエログロになったり芸術になったりするならラース・フォン・トリアーにも失礼です。館差別だと思うし、許せないですね。
うちは若松(孝二)さんが作った映画館という時点でエログロです。さっきの話の、平野さんの言う通りなんです。

ー スコーレは業界内にもファンが多そうです。応援力も強いのでは?

大浦:応援してくださる方は多くありがたい限りですが、だから楽勝という話では全くない。それゆえの苦労もすごくあります。

坪井:もしも木全が亡くなって死ぬほど借金が見つかったりして、もう無理ですとなった時に分かることですね。誰かがポンと大金を出したりすれば、うちは支援者がたくさんいたんだなと分かる。スコーレだけが危なくなった時に分かる答えです。そして、それがないようにしなきゃならない。

ー 予約のシステムがなく、不便です。なぜ作らないんですか?

大浦:本当にそうですよね。やりたい気持ちは大いにあります。何度も考えましたが、システム料が非常に高く、とてもじゃないけど無理。それに、予約が必要な映画が100本に1本しかない。できないんです。

ー では今後について。シネマテーク、名演小劇場でかかっていたラインナップは、もう見られなくなるのでしょうか?

大浦:今は、実際に抱えきれないほどの上映依頼が来ています。

坪井:日に数本のレベルでピンからキリまで来てます。テークさんで予定されていたようなものは優先して受け入れたいとは思うんですが、そればかりにはできない。うちでやってきたプログラム、自主やエログロナンセンスもスコーレで見てほしいんですよ。そうしないと、うちの色が消えてしまう。朝はドキュメンタリー、昼はアジアや一般向け、夜はカルトという流れは崩したくない。お話をいただいて「すぐには難しい」と言うと、ほとんどは「劇場でかけたいから待ちます」と言っていただける。名演さん、テークさんの意志を継ぐというのはそういうことかなと。ただ、本当にすごい数です。

大浦:どうバランスを取るかが今後の課題です。テークさんでやるはずだったであろう映画は、その思いも乗せて大切に上映したい。でも自主の個人映画もあぶれないようにしたい。
ただ最近は自主映画の入りが厳しいです。1週間で何回かだけ上映とかにすると結局すごい数になり、宣伝もちゃんとできず目の前のことで精一杯になってしまう。ジレンマがあります。

坪井:うちのバランスを崩さず、テークさんや名演さんの映画もやれれば一番いいかなと。月4本くらいインディーズ映画がやれたらいい。

ー 名古屋のミニシアターが1館になり、今後心配なことは?

坪井:悲しい話ですが、テークさんでやろうとしていた映画をうちでやらなくてはいけないとなると、スコーレ的にはよりどりみどりなわけです。やれないはずの映画がやれるようになる幸福な不幸。問題はその状況で数字が落ちたら、もう最悪です。テークさんの人口の半分は来ないでしょう。8月以降、1館なのにやっぱり今と同じような動員だったら。

ー 原因はスコーレにあるということになりますね。

坪井:そうなんです。それが一番怖い。すごい名刀があっても使いこなせないということ。

大浦:長い目で見るべきですよ。試行錯誤を続けていくしかない。

ー 新しいプレッシャーがあるわけですね。

坪井:そうですね。実際やってみないと分からない。この状況でどう引き継いでいけるか。テークしか行かなかった人たちがスコーレに来て「結構やるじゃん」と言ってもらえるかどうか。何人来てくれるか分からないけど、一人でもそういう人がいれば。(シネマテーク支配人の)永吉さんとかが「スコーレ、頑張ってるね」と言ってくれる現実を作らなきゃいけない。

大浦:ところで、このインタビュー始めてから1時間半近くなりますが、お客さん一人も来ないですね…(笑)。

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人気映画が動員や興収の記録を打ち立てたりしてる一方で、閉じていく小さな映画館。本当に二極化しているなと感じます。
ミニシアター激戦区ともいわれた名古屋より。今はこんな感じです。

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*6/4追記
「名古屋にミニシアターが1つになる」という前提に「名古屋のミニシアターって他にもあるのでは?」とのご意見をいくつかいただきました。
ミニシアター・エイド基金の方々が「いざ始めたらミニシアターの定義に悩んだ」と仰ってましたが、どこまでをミニシアターと呼ぶのか、考え方は幾通りもあると思います。今回記事の冒頭に「独立ミニシアター」と書いたのは「運営会社を持たず映画だけで存続する小規模映画館」の意味合いです。
とはいえ、見る側にとっては大きな問題ではないとも思います。上映される作品自体も最近はあまり違いがなくなり、境界はますます曖昧です。私自身もどんな映画館も心から応援しています。
経営の苦しい寿司屋が、生き残るためにアパレル事業を始めるのも賢い道だと思います。努力が足りないと言われたら、それまでかもしれない。
ただ、特に公的助成もない日本で独創的なプログラムを組み続け、多様な映画を見せてくれる映画館がきちんと映画で存続し続ける街は、悪くないんじゃないかなと思うのです。

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