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映画『スターダスト』公開記念:野中モモさんインタビュー

不朽の名盤「ジギー・スターダスト」(1972)発表の前年、デヴィッド・ボウイの若き日々を描いた映画『スターダスト』
別人格“ジギー・スターダスト”を生み出すきっかけやキャリアのターニングポイントなど、ボウイの内面と心の葛藤を映し出します。
デヴィッド・ボウイ ─変幻するカルト・スター」(ちくま新書)著者であり、「DAVID BOWIE IS」展覧会の図録翻訳など、本作にも造詣の深いライター・翻訳家の野中モモさんに、映画をさらに楽しめるあれこれを伺いました。

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― 野中さんにとって、ボウイの魅力とは?

デヴィッド・ボウイという人は、いつも世の中と通じ合っていたいと考えていた人だと思うんです。世間の流行を吸収し、自分なりに解釈したものを作品にする。それをずっとやってきた人。常にリスナーと同じ時代を生き、一歩先を行くことをしてきた人だと思います。
そんな彼が、売れるまで何年もかかっているんです。「ジギー・スターダスト」が有名ですが、まずバンドでデビューしてその後ソロになり、5年以上一人でいろんな活動を重ねながら世の中とチューニングを合わせてきた人。この映画は成功する直前を切り取った時間だと思います。

― この映画は、野中さんにはどう映りましたか。

私は、本当に初期のボウイが面白いと思ってるんです。日本では「1stアルバムは鳴かず飛ばずだった」みたいな見方をされることが多いんですが、十分面白いと思う。実際はすごく演劇的な作品として後世に与えた影響も大きいと思います。初期のボウイも、もっと知られてほしいと常々思っているので、今回の映画が良いきっかけになることを願っています。

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まだ駆け出しのアーティストが、成功を目指してもがいている青春映画で、うまくいった段階より模索している状態がドラマになる。そして時代の空気ですね。半世紀前のエンタメの世界で、いかがわしいというか、今のようなきちんと管理されて情報が行き渡るのとは違った時代の空気を感じることができるのが魅力ではないかと思います。評判が悪くても諦めずに自分の道を行く姿は、いろんな人を励ますと思うんですよね。逆境にあっても自分にできることを探し、いろんな情報を吸収して自分を磨いていく姿勢は、普遍的に人に届くメッセージではないかと思います。
イギー・ポップの話をするシーンが好きでしたね。アメリカの田舎を旅しながら「スゲー奴がいるぞ」と。何かすることが他に影響を与えたり、小さな善意に救われたり、通じ合うことで次に進んでいくこれからのアーティストの姿は、心に響く人も多いのではと思います。自分に引き寄せて考える人もいるんじゃないかと。

― 「私ならこうしたい!」というシーンはありましたか?

アンジーをもっとフィーチャーしたいですね(笑)。面白い女っぷりを。彼女はクリエティブな部分でも貢献していて、あの時期のボウイとアンジーはどんどんお互いがお互いになっていき、双子みたいだと言われてたんです。ジギーの両性的なイメージを作っていくのにも彼女の貢献は大きかったはず。アンジー役のジェナ・マローンさんは素敵でしたが、私としてはクリエティブな貢献も描いてあげても良かったんじゃないかなと(笑)。ファッショナブルで格好良いカップルとしてスポットを当ててあげてもいいんじゃないかとは思いましたね。

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― 若い世代やこれまで聴いてこなかった人にボウイを紹介するとしたら。

その時に流行していたサウンドをいち早く取り入れ、かつ自分のビジョンを貫いた人だと思うんです。有名なのはやっぱり「ジギー・スターダスト」「ヒーローズ」ですが、他にもすごく面白い作品がいっぱいある。最後の作品になった「★ (Blackstar)」も当時の刺激的なジャズミュージシャンたちとやっていて、時代のパッケージになっていると思います。それぞれの作品に時代の空気が封じ込められていて、一枚聴くごとにいろんなところへつながれる。多くのアーティストに影響を与えた、世界を広げてくれるアーティストです。一枚だけ選ぶとしたら、永遠の最新作になってしまった「★」をお勧めしたいですね。あれは感動しました。その前の「ザ・ネクスト・デイ」も10年ぶりくらいのアルバムで、もう引退かと思っていたところにいきなり復活。衝撃でした。「★」の発表はいろいろ工夫したプロモーションを展開していてそれ自体も楽しめたんです。それが出た2日後くらいに亡くなってしまった。新譜を皆で楽しみにできた経験も含めて印象深いアルバムです。

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野中さんは「レッツ・ダンス」や『戦場のメリークリスマス』の大流行当時にボウイの存在だけは知り、後に追ったとのこと。私も同じで、多分そういう世代です。私自身は、一番聴いたボウイのアルバムはやっぱり「ジギー・スターダスト」で、その次によく聴いたのは「ハンキー・ドリー」。この2枚は、昔本当によく聴きました。今聴いても色褪せない傑作。「世界を売った男」をジャケ買いしたのがきっかけだったと思います。
映画では、美しすぎるあのジャケットが映像として見られます。野中さんも同じようなことを仰ってました。もちろん本人ではないけれど、それだけでもちょっとしたワンダー。笑。
映画『スターダスト』は、まさにこの時代のお話。モヤモヤとした冴えない日々を送るボウイ。その姿は妙に人間臭く青臭く、そんな彼の青い日々を、このアルバムを毎日聴いていた自分の懐かしい日々に重ねてみたり、みなかったり。

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『スターダスト』 10月8日(金)公開 伏見ミリオン座他
出演:ジョニー・フリン、マーク・マロン、ジェナ・マローン他
監督:ガブリエル・レンジ
COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC

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