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【だれかのじかん】木全由美子さんの巻

コロナな日々がじんわりと続く中、「最近どうですか?」と、気になる人にお尋ねするインタビューの3回目は、木全由美子さん。
小っちゃな八百屋さん「木全商店」のおかあさんです。
賑やかな名古屋駅の目と鼻の先とは思えぬほど、時間の流れがちょっと独特なこの路地。お店はシネマスコーレの2軒お隣。お肉屋さんや乾物屋さんなどの小さな商店が軒を連ねた通りで働く「八百屋のおばちゃん」です。

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― 朝は何時から営業なんですか?

基本、4時にはここに来ています。納める荷物があるからそれを揃えるんだけど、今はそれも少ないです。半分以下になりました。今は、どこも厳しいと思いますよ。

― お店は、いつ頃からあるんですか。

うーん、何年になるんだろうね…、うちは主人が亡くなってるんだけど、その前からやってるから、90年くらいじゃないかな。だいたいこの辺りはどこもそんな感じです。

― シネマスコーレの木全支配人のご親戚だと聞きました。

そう。死んだ主人と、純ちゃん(木全純治氏)がいとこ同士になるの。

― こんな近くで営業するのは、偶然だったんですか?

映画館ができた時は「あらー!」という感じだった。ほんとに偶然だわね。純ちゃんのところは休業しちゃって、大変だったと思うよ。うちの場合は休業なんてなかったから良かったけどね。食のことだから、ずっと営業してましたよ。

― 個人で買いに来られるお客さんも結構いらっしゃいますね。ご近所さんが多いですか?

いや、でも少ないですよ。若い人も来ないからね。やっぱりスーパーがいいんじゃないのかな。アウトレットに行くみたいな遊び感覚で買い物したいんだと思う。こういう個人商店はイヤみたいね。
若い人たちはあんまりこの辺を知らないしね。野菜もスーパーなら均一だけど、こういう店は良いもの悪いものが分かれてるし、特徴があるからね。若い人はお喋りもイヤなんじゃない? 品数もスーパーのようにあるわけではないし。

― コロナの影響は大きいですか?

大きいですよ! うちも飲食店に納めをやってるんだけど、飲食は半分以上休業してたね。自主的にパッと休業された。地下街の店とかは制約もあるしね。飲食店は私たち以上に大変で、神経ピリピリだったと思う。

― でも、このお店だって売上が半分というのは相当ですよね。

うん、でも試練だわね。

― さすがですね(笑)。

これが1年続くなら、もうやめた方がいい。3ヵ月くらいはどこもみんな我慢よ。日本中、世界中の話だもん。自分のところだけなら不満も出るけど、不満を言ってもしょうがない。どこも一緒なんだから。
そりゃあ最初は「うーん」と思ったけど、考えたってしょうがない。なるようにしかならないし、状況も変わっていくしね。後は自分の持っていき方だわね。
自分がコロナを持ってるかもしれないし、私だって分からないでしょう。そしたら人に移しちゃう場合もあるから、行動だけは気を付けないといけないね。ただ、一番可哀想だったのは飲食店だね。だいぶキツイなあと思った。

― 見ていてそう思われたんですね。

まあ、みんな同じ条件だけどね。うちが取引してる人たちはすぐ切り替えてた感じでした。本心は分からないけど、私たちもそれ以上突っ込まないし、休むと言われれば「しょうがないね」と言ってた。でもパートさんを抱えたりしてると本当に大変ですよね。仕方ないことだけどね。

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― お店は息子さんと?

他に、昔から勤めてる従業員と、パートの方が2人。今はちょっと休んでもらったりしながらやってます。うちはおじいちゃんから始めた店なの。

― じゃあ、八百屋さんに嫁がれたということになるんですね。

そうそう(笑)。もう慣れたからどうってことないけどね、こんな仕事は、若い子はイヤだと思うよ。綺麗な仕事じゃないし、生活のリズムが普通の人とは違うから。

― 力仕事もありますもんね。

そうね、大変ね。慣れればいいとはいうものの、今の若い人はイヤでしょう。朝は早いしね。
私は朝の3時半に起きて、夜は9時には寝る。それが崩れるともう辛い。でもそれも慣れればどうってことない。
自分でそうやって持っていかないと、できないね。自分ひとりでやってるなら頑張る必要はないけど、他の人がいるからそれなりにきちんとしておかないと。みんな役割があるもんね。
八百屋だけじゃない、みんな大変だと思うよ。今回、テレビのニュースを見てても、八百屋とか魚屋とかが全然出てこないよね。飲食店ばっかりじゃない? 確かに飲食も大変だけど、順繰りにたどっていけば八百屋なら農業でしょう。全部そういうことなのになぁ、と思って。

― みんな仕事はつながっていますよね。

そうそう。農業も一生懸命頑張ってるよ。農家にとって、つぶすというのは一番イヤなことだもの。

― テレビでは、確かに飲食店の話がとても多かったですね。

飲食のことばっかりやってたけど、先の先まで戻ったら、やっぱり農家が大変。作物を全部捨ててるところもあるよ。
今まで、日本は中国とかに頼りすぎたんだと思う。そして「とにかく安いものがいい」とね。うちのお客さんは、意外と中国産を拒否するの。「いらない」とはっきり言われる。だからうちもあんまり置かないですね。安ければいいという考えの方は少ないから助かりますね。

― 自分でちゃんと考えて買いに来る人が多いんですね。

そうなのよ。だからたまに「今日は、これは中国産しかないんだけど」と言うと「じゃあ今度にする」とすぐに言われる方が多いです。コロナの前からだけど、うちのお客さんが「スーパーで買ったら中国産だった」と言うので「見て買わないとダメだよ」と言いました。タケノコひとつでも、ちゃんと表示を見ないとダメだよって言ってます。

― ここの通りは,、以前はいろんな国の方が歩いてたけど、今はひっそり静かになりましたね。

そうね、ここらへんは中国系の方がもともと多かったんだけど、この人たちはいつまで来るのかなと思ってたらパタッと止まった。今は、見事にいなくなってしまったね。
中国、台湾、香港、ずっといろいろな方を見てきたけど、みんな違うの。香港の方は何とも言えない穏やかな雰囲気でワーッと騒ぐことはしない。中国の方は前を通るだけで分かる。一番にぎやかで面白いのはチャイナ。

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― ここからいろんな観察ができますね(笑)。

そうなの。面白いよ!
まあ、でも日本も外国に頼りすぎたんじゃないかなあ。

― 今回みたいな大変なことがあった時、突然何も入ってこなくなったりしますね。

そうね、食べるものも、何もかもね。あまりにも頼りすぎたなという気持ち。みんながみんなね。だからもっと日本の中で回していかなきゃと思う。勉強したんじゃない? 勉強しなきゃいけないよね。
ウイルスがこんなに恐ろしいというのも、みんな初めて知ったよね。これほどとは思ってなかったと思う。いろんな意味で、ここでただ通り過ぎていったらダメよね。いろいろ勉強をしていかなきゃ。

― 何事も人生、勉強ですね…。

イヤなことだけど、みんなおんなじだから。自分だけならひがみも出るけど、みんな一緒だから。大なり小なりあっても、似たり寄ったりよ。
人を羨んでもしょうがないし、自分に何もなければラッキーだったというだけ。危害を加えられるのは勘弁だけど、普通だったらいいんじゃない?
大変だけど、しょうがない。昔から言うでしょ? 「上を見りゃキリがない。下を見ればもっと大変な人がいる」。そういうことじゃないかな。

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今が旬でお買い得なのは、生らっきょ。甘酢漬けはもちろん、炒め物やホイル焼きなんかも美味しいそうです。この日もたくさんのお客さんが由美子さんとの世間話を楽しみながらお買い物してゆかれました。
緊急事態宣言明けから、そろそろ2週間。
街は少しずつ賑やかになってきました。

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