日々のこと 0713
昼間、歩いていたら、知らないおばあさんに呼び止められた。
「お茶の出し方が分からない。分かる?」
意味が分からず「え?」と聞き返すと「お茶がほしいんだけど、出し方が分からないの」と言う。おばあさんの後ろに、ジュースの自販機があった。
「これですか? お金は?」と私が聞くと「お金はあるのよ」と片手を開いて見せてくれた。小銭があった。
「あ、じゃあ、この細長い穴に入れてください」と投入口を指すと「ここ? 入れるの?」と言いながら、おばあさんは小銭を入れた。ランプが一斉に点灯した。
「はい、そしたら、ほしいモノのボタンを押すんです」
おばあさんがお茶のボタンを押し、ガランガランとペットボトルが自販機の下に転がり出てきた。取り出して渡すと彼女は嬉しそうに「私、田舎者だから分からなくて。良かったー。ありがとう!」と言う。「フタの開け方は分かりますか?」「それは分かる。ありがとうね」と言うので、「はい、では」と、その場を離れた。
自販機の使い方が分からない。そんなことがまさか今どきあるんだ。こんなんで感謝されるとは。ビックリを抑えつつ歩いた。
私の常識とは全然違う世界で彼女は生きているんだろうか。
まあ私だって、かなり信じられないことをしでかす。物忘れの激しさに周りを驚かせることも多い。セブンのコーヒーを買うのに一瞬やり方を忘れてしまい、コップを置く前にボタンを押して、ケースの向こうでコーヒーが流れ落ちるのを呆然と見ていたこともある。
でも、彼女は一瞬忘れたという感じでもなかった。本当に知らないようだった。自販機の使い方を知らない人。
時間を置いて、ふと「もしかしてあの人は認知症だったのではないか」ということを思った。そう考えるのが自然な気もした。真相は分からない。
私が知っていることなんて、もともととても少ない。分からないことの方が多い。人より物事を知らない人間だとも思っている。
でも、分からないことは口に出してみると、意外と人は教えてくれる。
迷ったり困ったりした時は、人にもっと聞いてみてもいいのかもしれない。
全部を自分でやらなきゃいけないと私は思い込んでいるのかもなー、でも人に頼るって難しいなー、けど迷ったら尋ねれば意外と人は親切に教えてくれるんだなー、私も含めて。なんてことも思う。
おばあさんはお茶の買い方が分かって良かった。この酷暑、水分補給は大事だから。
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