(三題噺)深層心理への入り口
「どういうことだよ!」
ガンっと何か蹴った音が響く。男のイラついた声から余計に恐怖心が煽られる。僕がどうしたっていうんだ。ふつうに授業を受けてただけだろ。
目隠しされ、両手両足を縛られて転がされている。その状況では外に緊急事態を伝えることもできず、どうなっているかもわからない。もう僕はこの人に殺されてしまうのか。
足音がうろうろしている。ほかにいた人たちも近くにいるはずなのに心音がバクバクなってよくわからない。
「XXXがなけりゃあ、俺は生きていけなくなるってのに!! クソ警察め!」
次は窓ガラスが割れたであろう音が響いて、僕はまた身をすくめた。僕に矛先が向かないでくれよ。
男の足音はだんだんと近づいてくる。すぐそばでキュッと音がする。
「おいオマエさぁ。いつまでそこでくたばっているわけ? オマエが表に出てくれなきゃ俺は永遠に出れないんだけど?」
いつのまにか目隠しが外され、目の前にいるはずの男はどす暗い色をした人型に変わっていた。薄暗い感情が形になったようで気持ち悪い。何も考えられなくなる。
「有田、おい有田、起きろ」
ぼんやりした頭をゆっくりと持ち上げて小さくあたりを見渡す。講義で隣に座っていた友人が眉をひそめている。
「授業終わったけど、いつ帰るんすか」
もやもやした何かが未だ居座っているようで気持ち悪い。
「いや、なんか変な夢を見ていたような」
「よし、そのまま寝てろ。じゃあな」
友人は片づけ終わったカバンを持ってさっさと行ってしまった。
お題:目隠し 緊急事態 薄暗い感情
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