【連載企画】2024事業承継ファイル
経営者が高齢となり、惜しまれながら廃業を余儀なくされる県内事業所は少なくない。公的機関の支援を受けて親族内、従業員、第三者承継のいずれかを果たし、事業永続の基盤をも築き直した、あるいは現在進行中の12の事例を紹介する。
<親族内承継>
和食処浜咲き(宮崎市)
■家族客利用しやすく/人気支える旬の食材
伊勢エビ料理で知られる和食処浜咲き(宮崎市)。1月1日付で松崎昭二(46)美由紀(45)さん夫婦が2代目となった。美由紀さんは前オーナー河野功さん(74)の長女で、1989年の開業時は小学3年生。「子どもながらに『やっていけるのかな』と心配したのを覚えている。自分が働くことになるとは思いもしなかった」とほほ笑む。
昭二さんは結婚を機に店に入り25年。承継前は店長を任されていた。秋から春にかけてはコース、単品ともバラエティーに富んだ伊勢エビ料理を中心に提供。弁当も近くの県庁などに1日約140個配達する。
コロナではたびたび営業の自粛、短縮を強いられ、アルコール提供も不可となった。総じて来店客は減ったが、お祝い事などで伊勢エビを求めるファミリー客は一定数あり、昭二さんは「ありがたくて、大事にしなければと痛感した」。
大人2人、子ども2人のファミリーセットは、大人4人前のコースの半額程度に設定。昭二、美由紀さんは「子どもさんも食べやすい料理、料金を心がけ、晴れの日に使ってもらえて、長く通ってもらえる店にしなければ」と口をそろえる。
承継については功さんからも求められていたが、美由紀さんは「手続きが面倒で、身内同士だからこそ前に進めづらいというか。引き継いだら引き継いだでお金の面で大変になるのが目に見えていたので、先延ばししていた」。宙に浮いていた話が動きだす端緒となったのは一通の電子メール。昨年夏、相談がてら県事業承継・引継ぎ支援センターに送ると、すぐに返信があった。
士業の専門家を伴い、センター職員が定期的に訪問。功さんも同席して事業承継の流れについてレクチャーがあり、売上目標などを盛り込んだ事業承継計画書を完成させた。宮崎市の「引継ぎおめでとう補助金」の活用を勧められ、思ってもいなかった店舗外装の塗り替えも実現した。
一連の支援に費用はかからず、昭二さんは「とてもスピーディーで、第三者に入ってもらうのは大事と思った」。美由紀さんも「もっと早く連絡すれば良かったかも」。
大名竹、カキ、アユ…。承継前から昭二さんが山や川で取ってくる旬の食材も浜咲きの人気を支える。「どこに生えているの?」「それは教えられません」。気のおけない客とのやりとりも、2代目夫婦にとって楽しいひととき。いつも間近で見ている小学2年の次男蓮君(8)も最近、「大人になったら一緒に店で働きたい」と言うようになった。美由紀さんは「そうなるといいな。そのためにも頑張らないと」
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