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【受講生インタビューvol.1】道が見えない若者へバラまく希望 /編集者 柿内芳文さんインタビュー (前編)

昨年8月に47歳の若さで逝去された、エンジェル投資家で教育者の瀧本哲史(たきもと てつふみ)さんの著書が出版され話題となっている。タイトルは『2020年6月30日にまたここで会おう』。8年前の2012年6月30日に行われた瀧本さんの“伝説の東大講義”を収録した本である。

その本は、もくじも前書きもなく、突然瀧本さんが目の前で喋り出すように始まる。
自宅にいながら、大勢の若者とともに東大の伊藤謝恩ホールに着席している感覚になる。
講義終了後の大拍手の後、次のページをめくると、自分にだけ聞こえる声がある。
それは、亡き瀧本さんが8年の時間を超えて語りかけてくるメッセージ。
次世代のリーダーとなるべき迷える若者に向けて、熱い「檄」を送り続けてきた瀧本さんの、その唾が、本をめくる手にかかってくるようだ。

担当編集者は、瀧本さんの最初の著書から伴走してきた柿内芳文(かきうち よしふみ)さん。この本は、スタジオ収録盤ではなく“ライブ盤”というコンセプトで作ったと言う。著者不在という異例の状況の中で、どのようにしてこの本が出来上がったのだろうか。柿内さんに新刊に込めた思いを聞いた。

(インタビュー/宮本恵理子 構成・文/あさのみ ゆき)

*このインタビューは、インタビュー特化型ライティング講座「THE INTERVIEW」の受講生向けに開催された公開インタビューを、講座受講生が構成・記事化したものです。





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◆今回はココ→ 前編 【出版に寄せて】道が見えない若者へバラまく希望著者亡きあと、新刊『2020年6月30日にまたここで会おう〜瀧本哲史伝説の東大講義〜』を出版した真意とは

◆近日公開→ 後編 【インタビュー講座を終えて】365日ボクは「これ」しかやっていない 
ヒット本編集者が語る“作り手”のベーシックスキルとは

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<お話を伺った方>
柿内芳文さん/編集者
光文社を経て2011年星海社にて、当時無名だった瀧本哲史さんを顧問として迎え、「武器としての教養」をコンセプトにした星海社新書レーベルを立ち上げる。同レーベルの1作目として出版した瀧本哲史さんのデビュー作『武器としての決断思考』、続けて『武器としての交渉思考』を担当。現在は独立して、株式会社STOKE代表を務めている。
これまでの担当書籍は『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』『嫌われる勇気』『投資家が「お金」よりも大切にしていること』『ゼロ』『漫画 君たちはどう生きるか』等、ロングセラーを数多く世に送り出している。

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■編集者の自分にできることを考えに考え、瀧本さんの思想を1冊の本にした

ーー著者の瀧本さんとは、2011年にデビュー作の『武器としての決断思考』を担当されてから、10年来のお付き合いだったと聞きました。

そうですね。当時、瀧本さんが京都大学で受け持っていた「起業論」という授業を見学させてもらったのが始まりでした。この授業が僕にとってはものすごい衝撃的で。立ち見も出る熱気の中で、京大生と激論を交わし檄を飛ばす瀧本さんに度肝を抜かれたんです。そこで「教育者」としての瀧本さんに惚れ込み、最初の本を作りました。

ーー今回の新刊は、2012年に東大で行われた講義を再現されたものですね。瀧本さんの“熱”を凝縮したとのことですが、どのような経緯からスタートしたのでしょうか。

この本を作ろうと決意したのは、瀧本さんの葬儀の日です。
2019年8月に奥様から訃報を受け、あまりにも突然で、悲しみにもならないショック状態のまま告別式に参列しました。しかし、棺の中に花と共に瀧本さんの著書が収められている光景を見たとき、圧倒的な悲しみとは別に、微かな希望も感じたんです。「とってもつらいけど、大丈夫だ。瀧本さんの思想はこうやって本になって生きていくんだから」と。そして考えました。瀧本さんに支援された若者の一人として自分にできることは何か、と。編集者としての自分にできることは、追悼文を書くことじゃなく、新たなコンテンツを作り、瀧本さんの「思想」と「生き様」をあらためて世に広げていくことではないか。そして思い返したのが、2012年に全国から10代・20代を300人集めて「世の中を変えろ!」と檄を飛ばした、“東大講義”でした。あそこには、瀧本さんのすべてが詰まっている。あのときの熱とメッセージをこれからの世代に伝えていくのが、瀧本さんから受け取った「僕の宿題」なんじゃないか。そしてさっそく次の日から、本づくりのために動き始めました。

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<表紙には記録用に撮影していた講義の写真が使われている>

ーーそれから数ヶ月で本にまとめていった。かなりのスピードですよね。

はい。担当編集者として、誰よりも瀧本さんの思想や哲学を理解しているという自負はありました。だけど、本づくりを始めてみると、ふとした瞬間にこれでいいのかと猛烈な不安が襲ってくるんですよね。そもそもあの講義の出版は、本当に瀧本さんが求めていることなのか。どこまでアクセルを踏んでいいのか。聞きたくても瀧本さんはもういないわけです。自分だけですべてを決めるしかない。なので、最終的には自分の心の中にいる瀧本さんが「やれ」「とことんやれ」と言っている、と、それを信じて作り切りました。

ーー確かに、著者がいらっしゃらない状況で本を出すことは、基本的にはないことですよね。普通は、足りないところや理解が曖昧なところは著者に聞けばいいけれど、今回はそれもできない。これまでにない苦労があったのではと推測します。

僕も、著者不在で本を編集するのは、初めての試みでした。不安と戦いながら「この本は絶対に面白い」「価値がある」と信じ、確信を持ち続けなければいけなかった。常に心の中の瀧本さんと会話をしながら作っていたような感じです。瀧本さんの肉声が心の中で喋り出すくらいまで内在化させるため、ずっと過去の講義や取材の音源を聞いていましたし、著作はもちろん、ウェブに残っている記事や、過去のツイートも徹底的に読み返しました。気づいたら、自分の口調まで瀧本さんっぽくなっていたくらいです。「ボワー、ボワー」って(笑)

■「生」でこそ伝わる価値を「本」でどうやって伝えるか。その編集へのこだわり

ーー著者不在の葛藤がある中、そこまでして柿内さんが本に込めたかったものは何だったのでしょうか。

生の講義を聞いた300人の若者と、同じ熱量の感動です。講義の音源を聴くともちろん面白いのですが、それをそのまま文字にしても同じようには伝わらないわけですよ。壇上で声を張り上げて身振り手振りも交えて伝えるのと、文字だけで伝えるのでは、メディアがまるで違うわけです。編集する際に気をつけたのは、どうすれば現場の熱量が文字を読むだけでしっかり〝本の聴衆〟に伝わるか、ですね。

ーー本の紹介文には、これはスタジオ収録盤ではなくライブ盤であると書かれていますね。

音楽で言うところの「ライブ盤」というイメージは、最初から決めていました。それも「伝説のライブ」です。後世に残るライブ盤って、その時のアーティストのすべてが凝縮されていますよね。演奏の質はスタジオ盤には及ばなくても、それを超える「何か」がそこには確実に宿っている。アーティストの熱と観客の熱と時代の熱とがかけ合わさって、音楽を超えるような奇跡の瞬間を生み出すことがあります。僕が〝東大講義〟をあらためて聴き直した時に感じたのは、ザ・ローリング・ストーンズやザ・フー、ジミ・ヘンドリックスなどの「伝説のライブ盤」を聴いた時に感じたのと、全く同じレベルの心の震えでした。その感動に沿って編集すれば、これは間違いなく最高のライブ盤になるという予感は、作る前からありましたね。

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<まるで「瀧本さんの声色」が聞こえ、「ニヤッとする表情」まで見えてくるよう、注意して編集した>

ーー単純に「過去の講演の文字起こし」なんかとは違う価値を生む本を目指したということですね。

そうです。この本に書いてある内容って、瀧本さんの著書の端々に書いてあることでもあるんですよ。新情報というのは、実はあまりない。瀧本さんが生前言い続けていたのは、自分の頭で考えられる人間として自立し、仲間を見つけ、ネットワークを作り、そこでちっちゃいリーダーシップでいいから発揮していけば、君たちの力で社会は変えていける。ひと言でまとめると「キミたちがやれ」と、それだけ。これ、ただ文字にすると“ふーん”じゃないですか。
しかし、この本の価値は、生身の瀧本さんが目の前で自分だけに向けて喋っている感じ、もっと言うと、自分の胸ぐらを掴みながら早口の大声で檄を飛ばしてくるようなリアリティにこそあると思います。なので僕は、「主張を綺麗に論理立ててまとめる」といった意識ではなく、人間としての瀧本さんの存在が立ち現れてくることを目指して、編集していきましたね。まさに、スタジオ収録盤ではなく、ライブ盤を編集するイメージですよ。スタジオ盤では基本的に完璧な音しかセレクトしませんが、ライブ盤ではむしろ雑音や偶然その場で生まれたハウリングの音や聴衆とのかけ合いこそが、心を揺さぶる大事な要素になるわけですよね。この本も同じです。けっしてただの文字起こしや、雑音を全て排除してきれいにつくろったものではないんです。

ーー「ライブ盤」にこだわったからこそ生まれた価値なのですね。ページの演出や展開、端々にそのこだわりがあり、まるでドキュメンタリーを見ているようでもありました。

中学や高校生の時に死ぬほど聴いていたロックのライブ名盤CDを引っ張り出し、それらをベンチマークとするため、爆音でずっと聞きながら編集作業をしていたくらいですからね(笑) そういった感想をもらえるのは嬉しいです。


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<このインタビューは宮本恵理子さん講師の「THE INTERVIEW」の受講者向けにオンラインで実施されたもの。いちばん左下が柿内さん。柿内さんはインタビューのスキルを磨くため、受講者の一人としても参加していた>


■「本」だからこそ、会ったこともない人に時を超えて届けられるという希望がある

ーー8年前の講義の内容ですが、メッセージは全く古びていないと感じました。あらゆる世代が迷える今の時期にガツンとくる内容になっていますよね。

不思議と今の時代に合っているし、講義の中で瀧本さんが言っていたことが予言になっている部分もあります。この講義が行われたのは東日本大震災の後の、どう生きていっていいか誰もが迷っている時期だったんです。このコロナ禍で、危機の時代の中で若者に向けたメッセージとして受け取れるものがあるかもしれないですね。

ーー瀧本さんは、今回の本だけでなく全ての著書を通じ、若者に向けてエールを送られているということですが、そこにはどんな思い入れがあったのでしょうか。

それは、瀧本さん自身が、ある1冊の本から受けた影響が大きいはずです。瀧本さんが中学の時に読んで「自分にとって運命の一冊」とまで言っていた、『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著/1937年刊行)です。僕は、2017年にこの本の漫画版を作ったわけですが、その大元のきっかけも実は瀧本さんでした。
瀧本さんが若者に投げかけているテーマは「君たちはどう生きるか」と共通していて、「社会的な存在としてどう生きるのか」ということです。瀧本さんが生前最後に出した『ミライの授業』は、まさに“現代版”「君たちはどう生きるか」を目指して作った本でした。


ーー本だからこそできる、時代を超えた繋がりがあったのですね。

そうですね。会ったこともない吉野源三郎さんという人の想いと思想が、時代を超えて瀧本さんに繋がっていく。そしてまた、瀧本さんの想いと思想が本となって、僕や未来の若者たちへとさらに繋がっていく。このバトンタッチは出版の素晴らしい力ですよね。
瀧本さんが亡くなったことは、とても悲しく、つらいことです。けれど僕は、けっして悲観はしていないんです。瀧本さんに限らず、人はいつかは誰でも死ぬ。だからこそ、次の世代に何を残すか。これまで出版されたものも含め、瀧本さんの文化的な遺伝子を著作として残せることには、大きな希望があります。確実に「誰か」が、その遺伝子を継いでいくんですから。

■進むべき道がわからない、ハタチの若者達へ。2020年6月30日に、瀧本さんからの“宿題”をやろう。

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<柿内さんが個人的に実施された。10代20代の若者に本をプレゼントする企画。90冊の募集に国内外の568名の方から応募があったとのこと。(写真提供/柿内芳文)>

ーー本の中の質疑応答では、瀧本さんに一刀両断されている質問者もいました。若者の迷いや不安に、瀧本さんはどういう思いで答えているのでしょうか。

瀧本さんは「こうしろ」という正解を教えてはくれません。カリスマとバイブルを常に否定していました。自分で考えろ、と。だけど、進むべき道は指し示してくれる。道があるからこそ、自分で走れるようになる。その方向を指し示すのがこの本の役割だと思います。
生前の瀧本さんは、いつも「ハタチの若者」を意識してメッセージを届けてきたこともあり、今回の本も、ハタチの頃の自分に届けるつもりでも作ってきました。その頃の自分は、社会を何も知らなくて、自分の生きるべき道もよくわからなかった。自分の力を使いたいのだけど、どうすればいいか全くわからず、指し示してくれる人もいない。そんな「熱はあるけどぶつけ先がわからない」若者にこそ読んでほしいですね。あとは、そういったお子さんを持つ、親御さんたちですかね。

ーー最後まで読み切って、この本は2020年6月30日の再集結をもって完成するのかもしれないと感じました。瀧本さんから重みのある「宿題」が出されていますね。

その日に、東大の同じ会場で8年前の300人と再集結しようと計画していたのですが、このコロナ禍では難しくなってしまいました。オンラインでは何かやろうと、現在プランBを準備中です。ハタチの頃の僕のようにさまよっている若者たちに、この本を通して瀧本さんの思想の遺伝子をバラまきたい。瀧本さんが次世代の人間に「武器」をバラまいたように。
「2020年6月30日」という日をきっかけに、みんなで瀧本さんからの「宿題」に取り組んでいきたいですね。おのおのの持ち場でできることをやれ、どう生きるかを考え続けよという瀧本さんからのメッセージが、きっとたくさんの人にとっての新たな道標となることを信じています。

※柿内さんは6月30日に合わせて特設サイトを公開予定。最新情報は「#瀧本宿題」 で検索、またはTwitterで@kakkyoshifumiをフォローしてチェックしてください。

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(インタビュー/宮本恵理子 構成・文/あさのみ ゆき)

この記事は、書く・聞くスキルを身につけるインタビュー講座「THE INTERVIEW」の受講生向けに、講師の宮本恵理子さんが実施した公開インタビューをまとめたものです。

「THE INTERVIEW」の第4期講座は2020年6月13日(土)に1dayコースで開催予定。「聴く」や「書く」に関心のある方なら、どなたでも歓迎です。詳しくはこちら




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フリーランスのライター/エディターです。1978年福岡生まれ。日経WOMANなどの雑誌編集記者を経て、2009年に独立しました。雑誌やウェブの記事執筆のほか、書籍のブックライティングや経営者や企業の発信サポートも。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

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