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ブックライティングの仕事を、「レストラン経営」に置き換えて伝えてみる。


ブックライティングという仕事が好きだ。
これまで自分の名前での本も数冊出させていただき、筆者となる作品づくりには格別のやりがいを感じている。
でも、他の誰かの本づくりに伴走する仕事にも、また違ったやりがいがあり、自分の本と同じくらいの魅力を感じている。

あらためて、「ブックライティング」という仕事について簡単な説明を。
世の中には、本を出したい(あるいは、本を出す価値のあるものを持っていると編集者から惚れ込まれた)人がたくさんいる。
しかしながら、なんらかの事情で「自分で書く」ことができないというケースがとても多い。
文筆業を本業としていない人の場合は、ほとんどがそうと言っていいかもしれない(書くべきものがあるということは、それだけある分野に長けて活躍していることなのだから、とても自然)。
だから、その人に代わって書く仕事が生まれる。

実はほんの少し前まで、この仕事は完全なる“黒子”だった。
「ゴーストライター」などと呼ばれ、その存在を隠されることも珍しくなかったのだが、
上阪徹さんをはじめとする先達の素晴らしい仕事のおかげで、
「1冊の本ができるまでの取材・構成・執筆を請け負うプロ」が市民権を得たという経緯がある。
私もフリーになって数年経った頃から、ブックライティングの役割が増え、ありがたいことに少しずつご指名もいただけるようになった。今はだいたい月に1冊ペースで、本づくりに関わっている。

著者となる方にとって初めての出版になる場合には、特に丁寧にプロセスを進めていく。
わりと混同されがちなのだけれど、本づくりにおけるインタビューは、通常の取材とはまったくアプローチが違ってくる。
「インタビュイー&インタビュアー」というある種の緊張感をもって対峙する関係性ではなく、1冊の本を共に作り出していく仲間。著者と編集者とライターとが、共に1つのチームになるイメージを大切にしている。
そのイメージを共有するために私がよく例えるのは、「生産者の顔が見えるレストラン経営」。

著者は、極上の食材を届けてくれる生産者。その人にしかできない独自の農法で、手塩にかけて育ててきた作物を掘り出して、新鮮なうちにレストランの厨房まで届けてくれる。

受け取った食材を調理するのはブックライター。
煮るのか、焼くのか、蒸すのか。素材が最も生きる調理法を考えて、手を動かす。
ちょっと食べにくそうな素材でも、滋養があって、お客さんに届けるべきものは、カットや味付けの技術で、美味しくいただける料理に仕立てていく。
時に生産者に「こんな食材もないですか?」と頼み、生産者の個性やこだわりが伝わる料理を目指していく。


そして、レストラン全体のプロデュースをするリーダーが、編集者。
店の構えはイタリアンがいいのか? フレンチがいいのか? 和食がいいのか? 価格帯は? どんな内装やロケーションがいい? と世の中の流行も観察しながら、店としての打ち出し方を決めていく。
来ていただきたいお客さんを惹き付ける“店名(=タイトル)”を考え、最後まで飽きさせない“コースメニュー(=目次)”を熟考する。
誰一人として抜けては成立しないチームワークがそこにはある。

もちろん、実際には営業担当者や装丁家、企画そのものを決定する方など、もっとたくさんの方々が関わるという前提であり、「本の取材・執筆に関わる制作シーン」に限ってのイメージでしかない。
上記につらつらと書いたものはあくまで個人的な見解でしかないのだけれど、結構、いい喩えなんじゃないかなと思っている。

数カ月前、ある女性起業家の本を一緒に作らせていただいた。
彼女は充分な筆力がある方で、その著作には熱烈なファンも多く、10年ほど前にべストセラーも出していた。
とても緊張する仕事だったけれど、すべてを終えた後に、「チームで本をつくる面白さを知ることができた。最高のチームだった」と言っていただけた時は、とてもうれしかった。私は本づくりを通して、人との関係性づくりに夢中なのかもしれない。

レストランが開店する初日、生産者とシェフ、プロデューサーの3人が揃ってドキドキしながら扉を開き、「いらっしゃいませ」と最初のお客さんを迎える。
この瞬間がたまらなくて、私はまた厨房に立ちたくなってしまうのだ。


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