見出し画像

クマニラバターとアンチョビのブルスケッタ

私が住んでいるのはイタリアの「クマニラの里」。

イタリアで4番目に大きな都市トリノの、中心街から車でほんの20分ほどの森の中。街から遠くないのに、猪が出たり、牛が放牧されていたりという長閑なところが気に入って、10年前に引っ越しました。住んでから知ったのが、この辺りは「クマニラの里」だということ。

ご近所散歩中のグレース。道路の両側一面に生えているのがクマニラ。白い可愛い花を咲かせる。

3月後半から5月初旬頃にかけて、クマニラが一面、わーっと生えて緑色に埋まる。木漏れ日の間にびっしりと生える緑は目にとても爽やか、でも鼻をクンクンさせると辺り一面、そこはかとなくニラというかニンニクというか、そんな香りが漂っている。クマニラの里、というのは、日本だったらそんなネーミングかな?と私が勝手に想像しているだけの呼び名です。笑

クマニラというのはこんな形をしたネギ科の植物。

ギョウジャニンニクかと思ったけれど、見た目がちょっと違う。クマネギ、クマニンニクとも呼ばれるらしく、なぜクマなの? と調べてみると、冬眠後のクマが春になって穴から出て最初に食べるのがこの草の球根だから、とはWikipedia。えー、じゃあこれが生えているところにはクマが出るの!? と一瞬焦る。でもクマニラの繁殖力は物凄くてどんどん、どんどん増えていくから、そもそもの最初に生えたところは熊の生息地だったかもしれないけれど、私が住んでいるこの辺りは増殖してきただけで、熊はいません。イノシシはいるけどね。

時々ご近所で遭遇する猪ファミリー。この時はウリ坊たちだけ5匹でお散歩中。お母さんが近くにいたら子供を守るために凶暴になるというので要注意。だから遠くから撮っているので画像荒いの悪しからずです。

イタリア語ではaglio orsinoアーリオ・オルシーノ。アーリオ=ニンニク、オルシーノ=熊。イタリア語ではニラもニンニクもアーリオだ。スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノの、あのアーリオだ。

そんなわけで、私は毎年、4月5月は散歩の途中で道草をして、クマニラをせっせと収穫してはいろいろに活用して食べているというわけです。

まずはそのまま。餃子はもちろん、野菜炒めやちょっとエスニックな野菜スープに入れたり。イタリアに住みながら、ニラ玉炒めもべられる。

ピュレ状のソースにして、焼いた魚や肉に添えるとちょっと立派な一皿になるし。

でも主役はクマニラペースト。たくさん仕込んでおいて、一年中食べられるように保存するのだ。がんばって収穫したクマニラを50度洗いして水分をよく拭き取ってから、細かく刻み、塩とオリーブオイルと混ぜ合わせておくだけ。バジルペーストのようにニンニクやらいろいろの他の材料は入れません。シンプルなベースを作っておいて、使う時の用途に合わせていろいろ組み合わせようという作戦です。

クマニラを洗う、50度洗いについてはこちら。

たえばパスタ。茹でたパスタにそのまま和えるだけでもいいけれど、玉ねぎ、ズッキーニ、プチトマト、そしてサルシッチャ(イタリアの生ソーセージ)などなど、冷蔵庫にあるものを適当にくたくたに炒めておいて、クマニラペーストを1人につき小さじ1杯ぐらい加える。くたくたに炒めるくたくた、というのが実はイタリアンをおいしくする大事なコツで、野菜はシャキシャキの方がお美味しいよねえ、イタリア人ったら野菜に火を入れすぎよねえ、と思っていた私も、長く暮らすうち、イタリアならではのおいしさがあることに気付いた。国それぞれに、料理の仕方とその理由がある。なので、みなさんも、パスタソースの野菜くたくた炒め、ぜひお試しください。というわけで、くたくたの中に茹でたてパスタをあえる。サルシッチャが手に入らなければベーコンとか、ツナ缶なんかでもいい。

ほんの少し入れるだけで、ニンニクとはまたちょっと違う風味が加わって美味しいのだ。


そして、クマニラペーストをオリーヴオイルでもっとのばして、肉や魚に合わせるゆるめのソースにしたり、和風な和物衣にちょっと混ぜたりと、いろいろに活躍します。でもね、最近の私の大ヒットは

「クマニラバター アンチョビのせ ブルスケッタ」

室温に出して柔らかくしておいたバターに、好みの量のクマニラペーストを混ぜます。バターが無塩なら、塩も加えて。これをトーストしたパンにたっぷり塗り、塩漬けのアンチョビを手開きして洗ったものをのせる。あーん美味しい。書いているだけでよだれが。

焼いたパンの熱でバターがとろけて、アンチョビの脂肪分と混ざり合ってそりゃあうまいのなんの。白ワイン飲み過ぎ注意。

イタリア式「アペリティーボ」(食前に軽く飲みながらちょっとしたものをつまむこと)に出したら、イタリア人にも大好評。実はクマニラバターのアイデアは、トリノ郊外にあるミシュラン一つ星で野草料理が得意な女性シェフに聞いたもの。シェフはバターに仕込んで冷凍保存すると言っていたけど、レストランのように大量に消費しない家庭では、バターに仕込んでしまうと使い道が限られてしまうから、ペーストにして、使う時にバターと混ぜることにしてみたというわけです。

ちなみに塩漬けのアンチョビは、イタリアのシチリアやリグーリアという海沿いの地域で昔から作られている伝統食材の一つ。頭と内臓を取っただけの片口イワシを塩漬けして発酵させてあるので、食感は生、味は発酵魚の旨味たっぷり。これを知ったら、オイル漬けのアンチョビなんてしょっぱいだけで食べられない。リグーリアの隣のピエモンテ州では、伝統料理のバーニャカウダを筆頭にいろいろな料理に使われるけれど、バターをたっぷりのせたパンと食べるというのもその一つ。だからクマニラバターパンにものせてみたら、大ヒットだったというわけです。

塩辛にも似た味わいの塩漬けアンチョビ。ほかほかご飯にのせても夢のようなおいしさです。

作ったクマニラペースト、長く保存したければ、熱湯消毒または電子レンジ消毒または食用アルコールで消毒した瓶に入れて保存します。大事なのは瓶に詰める時に、ペーストとペーストの間に空気が入らないように詰めること。スプーンなどを使ってぎゅっぎゅと押すようにしながら、しっかり隙間を埋めていきます。でも瓶の淵満杯に入れないように。ペーストの表面を平らにならしてオリーブオイルを注ぎたいからです。2-3ミリかそれ以上のオリーブオイルを表面に注いで、ペーストが空気に触れないようにすることで、カビや変質を防ぐのです。セオリー上ではオリーブオイルで覆ってあれば常温保存が可能なんだけれど、意外と心配性な私は冷蔵庫に入れて保存しています。そうするとオリーブオイルは冷えて固まってしまうんだれど、出して使っているうちに溶けてくるので大丈夫。

表面のオリーブオイルが冷蔵庫の中ではこんなふうに固まります。瓶の口にこんなふうにペーストがくっついたまましまうと、カビの原因になるので気をつけましょう!笑

ところで最近、日本のどこかの保育園で、ニラとスイセンを間違えて子供に食べさせてしまって大変なことになったとニュースになっていましたね。ニラの細長い形によく似たスイセンの葉っぱは有毒で、食べた子供たち何人もが、軽症だったものの吐いたり下痢をしたりして騒ぎになったそう。一方、クマニラの葉っぱはニラというイメージとはちょっと違ってずっと幅広なのでスイセンと間違えることはないけれど、スズランの葉っぱにそっくり。実はこのスズランが強烈に有毒だそうで、青酸カリよりも致死性が高いんだって! あんな可愛らしい花なのに。

でもニラもクマニラも、香りを嗅げば一発でわかります、ニラやニンニクの香りがすれば大丈夫、といろいろなサイトに書かれています。とはいえ、十分に気をつけて使うようにしてくださいね。

サポートいただけたら嬉しいです!いただいたサポートで、ますます美味しくて楽しくて、みなさんのお役に立てるイタリアの話を追いかけます。