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#トリノよいとこ一度はおいで〜 誰も知らないめちゃうまジャンドゥイオット

トリノ人のことをイタリア語でトリネーゼという(トリノの、トリノ風の、という意味もある)。トリノが州都のピエモンテ州民のことはピエモンテーゼ。ミラノの人のことはミラネーゼと言うんだよ、というのはもはや日本の皆さんご存知だと思うけど、ミラノが州都のロンバルディア州の人はロンバルデーゼ、じゃなくてロンバルド。イタリア語の文法は難しいので有名だけど、こんなのは序の口の序の口。

さて、そんなトリネーゼの血の中に、もしくはDNAの中には、ジャンドゥイオットが入ってるんじゃないか。私は常々、そう思っている。ジャンドゥイオットとはご存知、トリノ名物のチョコレートで、カカオにヘーゼルナッツペーストを混ぜ込んだ、それはそれはおいしいチョコレートでございます。

トリノを歩けばジャンドウィオットに当たる

トリノは、道を歩けば、ジェラートも、ケーキも、クレープもパンケーキも、果てはコーヒーまで、ジャンドゥイオット風味のもので溢れている。
この前は、なんと、ジャンドゥイオットクリームを挟んだどら焼きに遭遇した。近年の日本料理ブームで、ついにどら焼きもポピュラーになったのだけど、日本を代表するお菓子でさえもジャンドゥイオット味にしちゃうのがトリネーゼなのだ。

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「名物だからあっちこっち使っちゃお」という観光戦略的なノリではなく、
好きで好きでしかたない、だって血が騒ぐんだ、いつもいつも食べたいんだもん、だからどこもかしこもジャンドゥイオットだらけにしたいのよ、だって無しでは生きていけないの、そんな感じ。だから私は、トリネーゼの血やDNAにジャンドゥイオットが含まれているんじゃないかと、ずっと疑っているのである。

ジャンドウィオットができたのは、実は苦肉の策だった

そんなジャンドゥイオットが生まれたのは、1865年のこととされている。
発明したのは、トリノで、つまり世界で最初に固形チョコレートを作ったとされ、今では日本にまで進出している「カファレル」。え、えー? トリノが世界で初めて固形チョコレート? と思った人は、次回続きを、トリノでチョコレートが生まれた話を書きますので乞うご期待。長くなっちゃうので、今回はジャンドゥイオット限定です。

1865年に発表されてすぐに人気が爆発したということだけど、考案されたのは実はもっと前で1852年だそうだ。イタリア統一運動の混乱で、アメリカからカカオを運ぶ船がブロックされてカカオが手に入りにくくなった。少ないカカオでどうやってチョコレートを作ろう?と考えた結果、ピエモンテ名産のヘーゼルナッツをペーストにして加え、量を増やすという技を思いついた。それがジャンドゥイオットの誕生秘話だ。

1861年にイタリアが統一され、トリノが首都になり、落ち着いた世の中になったところでジャンドゥイオットとして売り出された。サヴォイア家の王様は移り気だったのか、ジャンドゥイオットが発表された時にはトリノからフィレンツェへ、イタリアの首都は移ってしまっていた。王様は行ってしまったけど(笑)、ジャンドゥイオットはトリノ名物として残り、今ではイタリアを代表するお土産の一つとして各地で売れらている。

チョコレート屋さんだらけと言ってもいいトリノ

そんなトリノには、ジャンドゥイオットを作り、販売するチョコレートショップがこれでもか! というほどたくさんある。こんなにたくさんあって、商売成り立つのかと心配になる程だ。

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↑これはトリノのブティックにある有名店「グイド・ゴビーノ」。

お金持ちマダムお気に入りの高級店、サヴォイア家が御用達だったという老舗、おしゃれなパッケージやマーケティング戦略で世界中に売り出している大企業、テレビや雑誌で活躍する有名ショコラティエのお店などなど。

一方で、おいしければいいよね、と地道にコツコツ作り続ける昔ながらの工房が、町のあちこちにある。その一つが私のお気に入り「CROCI クローチ」だ。

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↑「クローチ」はこんな普通の、住宅街の一角にある。

そんな中でワタクシ一押しの店は

私と、私の娘を、本当の娘と孫のように可愛がってくれるイタリア人のご夫婦がいた。いた、というのはご主人の方が数年前に亡くなってしまったからなのだが、彼らは生粋の江戸っ子、ならぬ、トリネーゼであった。その彼らが親の代からご贔屓にしていたのが「クローチ」のチョコレートで、娘が1歳になってすぐの復活祭に、彼女の顔よりも大きなチョコレートの卵をオーダーしてプレゼントしてくれた。

その復活祭の卵は、彼女が成長するにつれてどんどん大きくなり、ご夫婦が卵の中に入れるために用意してくれるサプライズも、小さなおもちゃから思春期の少女が喜ぶものに成長していった。

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↑町のお菓子屋さん的ラフなショーケース。でも写真のチョココーティングしてあるヘーゼルナッツやピスタチオは激ウマ。

お菓子業界のトップの人も舌を巻いた滑らかさ

懐かしいというだけではなくて、クローチのチョコレートはとてもおいしい。特にジャンドゥイオットは、超激戦地と言えるトリノの数あるチョコブティックたちのそれよりも、グッと滑らかで、香り高く、舌の上でスーッと溶けていくおいしさだ。

私がここで、どんなにおいしいおいしいと叫ぶよりも説得力のあるエピソードを一つ。

もう随分前のことになるけれど、日本のある、大手おしゃれ洋菓子チェーンが、ジャンドゥイオットを日本で販売したいと考えた。イタリアをこよなく愛し、イタリア通でもあった当時の社長さんから「試食したいのでトリノの名店のものを集めて欲しい」と依頼された私は、有名店のものを買い集め、その中にこっそり「クローチ」のものも入れておいた。そして世界中の美味しいお菓子を食べて知っていた社長さんがブラインドテストをし、一番舌触りがよく美味しい、と選んだのが「クローチ」のジャンドゥイオットだったのだ!

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↑ラフに量り売りされているけど、味は極上のジャンドゥイオット。

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↑でもこんな可愛い箱入りもある。

宣伝してる時間があったらチョコを作るよ

「クローチ」の店は、トリノの中心街からちょっと外れた住宅街の一角にひっそりと、ある。立派な看板も何も出ていないけど、甘い香りに惹かれてドアを押してみると、そこに工房が併設された町のお菓子屋さん的、小さなショップがある。1930年におじいさんがオープンして以来、伝統的なレシピをずっと忠実に守り続けている。

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↑今は亡きお父さんのブルーノさん(左)とグイドさん(右) 2007年頃

3代目のグイドさんとルカさん兄弟は、最近の味の傾向などを研究して新商品を開発したり、パッケージを刷新したりはするけれど、おじいさんと同じやり方で、ていねいに手作りすることを頑に守っている。「もっと宣伝したり、お店を中心街に出せば絶対人気は出ると常連の人たちに言われるけど、宣伝や経営に忙しくなっちゃったら、チョコレートにかける時間が減ってしまう」とグイドさん。

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↑3代目グイドさん。おじいさんの代から使っている冷蔵庫の前で。

↓おじいさんがお店を買った時に既にお店にあったという冷蔵庫。当時は氷を入れて中のものを冷やす仕組みだった! お父さんの時代に改造して、普通の冷蔵庫として今も愛用している。

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クローチのジャンドゥイオットはなぜそんなに滑らかなのか、何か秘密があるのかと聞いてみると「ていねいに時間をかけて、低い温度でチョコレートをテンパリングすること」と言う。

基本が大事と大きな声で言えること

テンパリングとはチョコレート作りで一番重要な工程で、一旦溶かしたチョコレートを大理石の台の上で混ぜながら温度を調整する作業のことだ。この作業に、チョコレートがいかに滑らかに、ツヤツヤに仕上がるかがかかっている。チョコレート作りの基本中の基本を、おいしさの秘密、と堂々と言うあたりに、手作りを頑なに続ける理由が隠されているのかな。

そして「ピエモンテ産の上質なヘーゼルナッツを使うこと」も大事な要因だと言う。「トンダ・ジェンティーレ」と呼ばれる香り高くて、上質なオイルをたっぷり含む、世界最高のヘーゼルナッツがピエモンテにある、と言う話はこの前書いた通り。

他にもスペシャリティがいっぱい

ジャンドゥイオットと並ぶ、彼らの名物「プレフェリーティ」は、さくらんぼのスピリッツ漬けを砂糖とチョコレートでコーティングしたもの。丸い、ちょっとゴツゴツしたそれを口に入れると、ポキっとチョコレートのコーティングが割れて、その下にある砂糖コーティングもパリッと割れて、そして中からジュワーっとチェリーの味が染み出してくる。

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彼らは毎年500キロのさくらんぼを、トリノ近郊のさくらんぼの名産地から買い付け、一つ一つ、手作業でタネを抜き(大量生産品は薬でタネを溶かすのだ!)、アルコールに漬け込む。それを注文がある毎に取り出して、コーティングしていく。あー、書いているだけで口の中がおいしくなってくる。

日本の皆さんにもぜひ食べてもらいたいけど、残念ながら「プレフェリーティ」はとてもデリケートで、壊れてしまうかもしれないから海外へ送るのは難しいという。

いつかコロナが怖い病気じゃなくなって、また自由にイタリアへ旅行できるようになった時、あの小さな店へ、みなさんをご案内いたします。

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CROCI BRUNO

Via Principessa Clotilde 6/A Torino
☎️011-487048
www.cioccolatocroci.it
info@cioccolatocroci.it

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