映画メモ:『その男 ヴァン・ダム』(2008)


1990年代ハリウッドでアクション映画界の最前線をひた走った俳優ジャン=クロード・ヴァン・ダム。しかし21世紀に入ると時代に取り残され、出演作はビデオスルーが続いて生活はすっかり傾いていた。再起を図った新作映画は結局ほかの俳優に役を奪われ、愛する娘にも嫌厭され、貯金は尽き果てる。おまけに地元へ戻ればたまたま立ち寄った郵便局で強盗犯と間違われふんだりけったりな目に……。

という、ヴァン・ダムが本人を演じるメタキャスティング映画。
絶妙なポイントは、完全に八方ふさがりなのではなく、仕事も金も家庭も失ってるけどファンからはまだ根強く愛されてるというバランスがかえってじわじわとプレッシャーを生んでいるところ。彼の故郷ベルギーのブリュッセルで「おらが村のヒーロー」な視線を送ってくるファンとの接触が凋落を際立たせて気まずさが響きます。

それでも、決してヴァン・ダムの過去の光を懐かしむ慰撫的なお話ではなく、どんなに影が落ちていても生きているのはあくまでいまこの時なのだという軸足を示しており、じつは前向きな戦いの映画なんでしょうね。
結末もアクションスターとしての過去の功績で何かが緩和されることもなく底を打つだけ打ちきって、"それでこれからどうすんべ”という感じのシビアなオチでしみじみさせます。

印象に残ったのは、郵便局に立てこもった強盗犯の一人(ヴァン・ダムのファン)と人質ヴァン・ダムのやりとり。

犯「ハード・ターゲット……ジョン・ウーか。あの恩知らずめ」
ヴ「そんなこと言うな」
犯「だってそうだろ、あの野郎をハリウッドで成功させたのはジャン=クロードだ。アンタがいなきゃ、やつは今も香港でハトを撮ってた。だが成功したらアンタをポイだ」
ヴ「でもフェイス/オフは傑作だったよ」
犯「アンタを主役にしなかった。だろ?」
ヴ「ああ、うん、まあ」
犯「だが天罰はちゃんと下った。ウインドトーカーズはクソだ!」

 で、そのあと「新作の予定は?」「あったけどセガールに主演をとられた」という会話に続く。ウワアアアアア

 あと、人質になってる最中のヴァン・ダムが内面世界で独り語りするくだりが良い味を出してたので書き抜いてみました。真正面のカメラ目線で熱弁するヴァン・ダムの姿が胸に迫ります。

「ああ、これは俺の映画だ。あんたと俺のな。
なぜこんなことをする? いや、しているのは俺か?
あんたのおかげで夢はかなった。その引き換えにした約束を、俺はまだ果たしてない。
あんたの勝ちだ。俺の負け。
でも言っとくが、あんたが俺にくれた人生ってやつは、落とし穴だらけ。
いつも、質問より先に答えがくる。ああ、そう。ことが起きてから、そうなった理由を考えさせられる。で、理解できると過去を受け入れられる。そういう図式だ。だが、それが分かることは大きな意味を持つ。

いいか、アメリカでは貧困があり、ひとは食うために盗む。一方でプロデューサーや映画スターを追いかける。彼らに会おうと夜な夜な写真や雑誌をもってうろつくんだ。カラテ雑誌を持ってさ。俺もそうだった。英語は下手で……。
だが俺には20年やったカラテがあった。昔はひ弱だった……ほら(力こぶを作りながら)、こいつはその成果だ。俺はもともとチビで痩せだった。それで道場へ行った。そこで礼節を学んだ。この挨拶ひとつで信頼が生まれる。

“押忍”(オス)!

サムライだ。まっすぐで嘘がない。でもアメリカには、こういう精神はない。誰も言わないだろう、“押忍”って。
ショービジネスの世界じゃむしろこう言う、“だしぬいてやる”。

人間や道場を信じてた俺は、傷ついた。妻を何人ももったのは、愛を信じたからだ。三人の子持ちの女性に、どの子が一番好きかと聞いても答えに困るだけだろう。同じさ。人生で5人6人7人……10人の女性を愛したら、どの女性も特別な存在だ。でも誰も分かろうとしない。メディアじゃことさら叩かれる。

あと、ドラッグ。成功するとあちこちに行き、高級ホテルや豪華なペントハウスに泊まって遊びまくる。世界中いろんな国をどんどん旅する。するともっと何か欲しくなる。ある女性を愛してその恋に引きずられて、俺はドラッグにハマっちまった。
ヴァン・ダム、“野獣”、“檻の中の虎”。映画のごとくドラッグ漬け。俺は身も心もぼろぼろになった。とことん堕ちて、やっと抜け出せた。──抜け出せた。だが、すべてが、ほんとうに、苦しかった。地獄だったよ。

俺より貧しい人々を見た。
俺は成功したが、なかなか皆はこんなふうにうまくはいかない。
なぜ俺だけが? 何の違いがある? その不条理に胸が痛む。
俺なんかよりずっと優れているのに、成功できないやつが大勢いる。素晴らしい才能があるっていうのに!
そりゃ俺だって努力してチャンスをつかんだよ。必死でね。必死で信じて臨んだ。13歳のときから夢を信じ、それがかなった。

だが、それが何だ?
俺は世のために何をした?
何もだ! 何もしちゃいない!!

なのに俺はここで死ぬのか。
このベルギーで一から出直したい。俺のルーツ、この故郷で。両親の力を借りて健康を取り戻し、仕事がしたいんだ。

だから誰も、ここで引き金を引いてくれるな。
人間は美しい。殺すのは愚かだ。だから俺は神に祈る。
これは映画なんかじゃない。現実だ。現実なんだ。」

ところで本作は2008年製作、当時ヴァン・ダム48歳。
黄金期にはおよぶべくはないものの、実際には当時から現在までけっこうちょくちょくアクション映画に出続けているので本作が100%自己言及だけとみなすには少しズレがあります。この場合ヴァン・ダムが演じているのは自分自身を経由した「アクションスター」という普遍的な抽象だと考えた方がいいのかもしれません。

[以下余談]
近年Amazonプライムビデオでヴァン・ダムの主演ドラマ『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』という作品が配信されまして、内容は「映画俳優としてのヴァン・ダムは表の顔で、実は裏で諜報機関の秘密エージェントをやっている(が、衰えて昔ほどキレのいい働きができないので組織からあんまり期待してもらえない)」という……またそんな!

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【その男ヴァン・ダム 予告編】


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