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「招かれざる獣たち」閑話S2 内緒の雨宿り(後編)

【『招かれざる獣たち』完結記念企画】
 カクヨム他に掲載の『白黒エンカウント』(倉谷みこと先生)から、主人公一行のユキトさん、アリスさん、ジェイクさんにゲスト出演していただきました。

※ゲストさんの作品世界とケモモフの作品世界が交差している設定の作品内フィクションです。ご了承下さい。時系列はラウルがアリアたちと旅をすることになったばかりの、最初の頃になります。

※前編はこちらです。


 彼らの国の王女様が彼の男に氷漬けにされてしまったのだそうだ。今まで王女の力で平穏へいおんを保っていた彼らの故郷は、今はその平穏を失い混乱をきたし始めている。
 彼らの任務は、王女様を氷漬けにした男を探すことなのだそうだ。

「それがさっきの、クーレル・アルハイドという人なんですか?」
 僕の言葉に、ユキトくんとアリスさんはそろえたようにうなずいた。

「聞いたことないよねぇー」
「うん」
 アリアちゃんと僕が顔を見合わせて言うと、二人は少しだけがっかりしたような顔をした。

「まあ、そう簡単に望む情報が手に入るわけはないだろうさ」
 ジェイクさんの言葉に、アリスさんはそうだねと答えた。

「まだ旅は始まったばかりだもんな」
「はやく見つかるといいねぇ」
 アリアちゃんがユキトくんを励ますように言うと、彼は力強く頷いてみせた。

 互いの旅の話に夢中になっていると、ふと首元に寒さを感じた。
 見ると、焚火たきびの火が消えかかっている。薪が積んであった場所に目を向けると全く残っていない。そりゃそうだ。あそこからありったけの薪を持ってきて焚火を用意したのは僕自身だ。

 後から来た3人の服は、もう乾いているようだ。このまま火が無くなっても大丈夫だろう。
 でも洞の外の雨は、まだまだ止む様子はない。

 ぐうぅぅ~~

 誰かのお腹が鳴った。
 互いに犯人を捜すように顔を見合わせる。アリアちゃんが、少し恥ずかしそうにへへへと笑った。

「ねえ、ラウルおにいちゃん、ご飯作ってくれる?」
 ねだる様に、僕を上目遣いで見つめる。

「あ、うん…… でも、道具と材料が……」
 まさかただの薬草採集の途中に昼ご飯を作ることになるとは思っていなかったので、食材も道具も持ってきていない。
 雨さえ降らなければ、昼ごろに町に戻る予定だった。だからお弁当も買ってこなかった。

「だいじょおぶ、ここにあるよー」
 にこにこと自分のポーチを掲げて見せる。

 そうだ。アリアちゃんのポーチはマジックバッグだ。きっとあの子煩悩こぼんのうな3人の保護者の誰かが買ってあげたのだろう。

 兎の獣人に見えるアリアちゃんには、冒険者をしている3人の人間の保護者が居る。
 大剣と大盾を持つたくましい戦士のジャウマさん。
 クールな魔法使いのセリオンさん。
 身軽なクロスボウ使いのヴィジェスさん。

 3人の男性とアリアちゃんは血の繋がった本当の親子ではないし、3人ともまだ20歳過ぎくらいで子供がいるような年齢にも見えない。でもアリアちゃんは3人ともを「パパ」と呼んでしたっている。
 そして、3人ともアリアちゃんにめっぽう甘い。

 アリアちゃんにマジックバッグを買ってあげて、でもそれを空にしておくとは考えにくい。もしも一人になってしまっても困らぬように、色々な物を詰め込んで持たせていると考える方が自然だろう。いやむしろ、その為にマジックバッグを持たせているんだろう。

 僕が見ている前でアリアちゃんは、手際よくバッグから料理の道具と肉を取り出す。って、この肉はなんの肉だろう? 普段僕が食べているようなヤマドリや大耳ネズミの肉とは明らかに違う。多分、高級肉だ。
 それらに続けて、最後にアリアちゃんはバッグから薪を一束取り出した。確かに、ポーチに生肉が入れてあるんだから、火の用意も当然あるだろう。

「これで足りるー?」
「うん、充分だよ。ありがとう、アリアちゃん」
 僕が頭を撫でると、アリアちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

 アリアちゃんが出してくれた肉の端をちょっとだけ切って口に含む。上手に処理してあるようで、臭みは少ない。元の肉が上質な所為せいもあるんだろう。このまま焼いても美味しく料理できるだろうけれど、せっかくだし……
 そう思って、自分のバッグから旅の途中で採集をしておいた薬草を取り出した。

 この薬草を肉料理に使うと、臭みを消すだけでなくほど良くさわやかな風味がついて、よりいっそう肉の美味しさを引き立てる。ひと口大に切った肉に、塩コショウと一緒に薬草を擦り込んで、さらにそれを串に刺していく。

 その間に、アリアちゃんがすっかり火の落ちた焚火たきびに薪を組みなおす。ジェイクさんもアリアちゃんに手を貸してくれている。
「どうした? また火をつけるのか?」
 ユキトくんがアリアちゃんに声を掛けた。

「うん、お肉を焼くのー」
「それなら、俺に任せろ」
 アリアちゃんが組んだ薪に向けて、ユキトくんが手をかざす。そこから小さな火の球が薪に飛び、赤い炎が上がった。

 その様子を、肉を串に刺しながら横目で見ていた。
 威力を弱めているようだけれど、あれは戦いで使うような攻撃魔法だ。ユキトくんとアリスさんは腰に武器を差しているし、てっきり剣士だろうと思っていたけれど、攻撃魔法も使えるってことだろう。
 それに比べて、僕ができるのは薬草採集くらいで、魔法どころか武器もろくに扱えない。アリアちゃんの保護者たちに守られながら、やっと旅をするのが精一杯だ。ユキトくんたちと違って。
 もやりと何かが心に沸きそうになるのを、頭を振って消し去ると、また次の串に肉を刺した。

 焚火の周りに肉の串を並べる。しばらく焼くと、肉からじゅくじゅくと脂がにじみだして、良い匂いが辺りに漂ってきた。
「旨そうだなあ」
 うらやましそうに言うユキトくんを、アリスさんが小突く。
「ユキト! これはアリアちゃんたちのなんだからね。お行儀悪いわよ」
「みんなでたべよー」
 続くアリアちゃんの言葉に、アリスさんが目を見張る。

「えっ!? 私たちも?」
「やったっ!」
 ユキトくんが嬉しそうに笑った。

「悪いね。いいのかい?」
「ええ、たくさんありますから」
 ジェイクさんにまだ焼いていない肉を見せながら言った。

 * * *

 皆で口元を肉の脂で汚しながら串焼きの肉を頬張り、今度は肉の料理方法や旅先で美味しかった料理の話なんかで盛り上がった。

 綺麗きれいに平らげて片づけも終わって、ふと鳥の声に気付いて入口の方を見ると、いつの間にか雨があがっている。青い空が見えていて、さっきの雨が嘘のようだ。

「もう行かないとね」
 ジェイクさんがそう言って立ち上がった。
「あたしたちは町に向かうつもりなんだ。ラウルたちも一緒に行かないか?」

「すみません。もう少し薬草を採っていきたいので」
「ねー」
 アリアちゃんは僕に合わせるようにして言うと、僕の腕にぎゅっと捕まった。

「そう、残念ね。薬草採集、頑張ってね」
「ありがとう、元気でな」
 そんな言葉を交わしながら、3人とは別れた。

 * * *

 薬草を集めた僕らが町に戻るともう彼らの姿はなかった。急ぐ旅だと言っていたし、すぐに次の町を目指したんだろう。

「よー、ラウル。お前たちは雨に降られなかったか?」
 聞き覚えのある声に振り返った。アリアちゃんの保護者の一人、ヴィジェスさんだ。

「バーッて急に降ってきたからびっくりしたよぉ。雨宿りしてたんだよー」
「そっかぁ、何か変わったことはなかったか?」
 ヴィーさんは、ニコニコとご機嫌そうにアリアちゃんの頭をでる。

「なかったよ。ねぇ、ラウルおにいちゃん」
 アリアちゃんはヴィーさんににっこりと笑ってみせて、それから同意を求めるように僕の方を見た。

 ああ、そうだね。彼らから聞いたあの話は他人にはしちゃいけないから。だから、僕らは彼らに会わなかったことにしておいた方がいい。

「うん、そうだね」
 アリアちゃんに合わせるように、にっこりと笑って答えた。

 あの雨宿りの間の短い時間だけでも縁があった、彼らの求める途が開けるように、彼らの旅路に光があるように。すっかりと晴れ上がった空を見上げて、そっと心で願った。


本編もよろしくお願いいたします!

「招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~」

殺された家族の敵を討つ為に、ラウル少年が雇った凄腕冒険者たちの正体は、人ならざる獣の力を持つ者たちだった。

彼らと旅をすることになったラウル。
彼らの正体は?そして、彼らの目的はいったい?


「白黒エンカウント」(倉谷みこと先生)

人間、獣人、龍人が住む世界、エバーフィールド。女王の聖なる力によって秩序が保たれていたこの世界は、クーレル・アルハイドら三人の手により危機を迎えていた。

クーレルら三人によって氷漬けにされた女王エルザ。彼女を救う為、そしてクーレル・アルハイドを探す為に、うさぎの獣人ユキトは幼馴染の少女アリスと共に旅にでる。

彼らは敵を見つけることができるのか、そして世界は秩序を取り戻すことができるのか……


倉谷先生、企画へのご応募ありがとうございましたー(*´▽`)

応援よろしくお願いいたします!!(*´▽`)