「公表」すべきなのは知事の要請・指示
ところで、24条9項に基づく知事の要請には前提条件がない。一方、本来の対策がある45条には、様々な前提条件がある。
まず政府が緊急事態宣言を出さないことには、外出や営業の自粛要請はできない。しかも、営業自粛要請ができる施設は例示されているか、施行令で細かく決められている。
政府によれば、ウイルス対策で知事が行える「要請」には二種類あり、第一段階は24条9項で、いつでも、誰に対しても要請できるという。ところが本格的に緊急事態宣言をした後だと、45条が根拠になるので、要請の対象が限られてしまう。つまり宣言をしないほうが、広く制限をかけられるという逆転現象が起こってしまう。
緊急事態宣言を出す前から知事は自由に私権を制限できてしまう。これでは知事の権限があまりにも大きくなってしまう。そこで政府は基本的対処方針で縛ろうとし、知事の権限行使は「国に協議の上」行うという文言が急に入れられた。
しかしこの修正も法的に問題がある。知事が本当にできる営業自粛要請の対象は、特措法の45条に例示されている。他にも「政令で定める多数の者が利用する施設」とされていて、施行令では具体的な施設が列挙されている。ただし、建物の床面積の合計が千平米を超えるものに限るともされている。国は制定時、人権や暮らしが成り立つかどうかを考えて、私権の制約には謙抑主義だったのだろう。
しかし感染症対策の場合、実際には小さくて狭い場所でも規制しなければならない。千平米以下の施設でも営業自粛要請を行うことが特に必要なものは厚労大臣が定めて公示することができる。それなら、国は都道府県知事から営業自粛要請しなければならない施設を具体的に聞き取り、それを元にして厚労大臣が公示するというやり方をとることができたのではないか。
さらに国と都道府県が「協議」という外から見えない場で営業自粛を要請できる業種が決まるよりは、法令にのっとった大臣の公示で明示的に決まった方が、関係の事業者の納得も得られやすかったのではないか。
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特措法45条に「公表」の規定はあるが、それは政府の基本的対処方針に記載されていて、必ずしも店名を公表する定めではない。「方針」によれば、第一段階では24条9項に基づく自粛要請をし、正当な理由がないのにそれに応じなければ、第二段階として45条に基づく要請や指示をする。その場合、これら要請や指示の公表を行うとするとある。
大阪府は24条9項に基づくとして、府内の全パチンコ店に営業自粛要請をし、いうことを聞かない店に対しては45条に切り替えて要請・指示をした。それでも聞かなかった店舗は名前を公表した。
しかし、24条は自粛要請を定めた条項ではなく、事業者に要請する場合は、45条に基づかなければならない。しかもここでいう「公表」とは私権の制限にあたる要請や指示をしたのであれば、内容を直ちに公表せよという意味で、知事自身への情報公開を迫る規定だ。
特措法は全体に私権の制限は必要最小限でなければならないという大原則を貫いているので、事業者名を公表することが「できる」という表現にされていて、吊し上げのような行為に及ばないように留意した規定になっている。つまり、いうことを聞いてもらえないなら仕方がない、という立て付けになっている。
特措法の立法時、強制力を持たせると憲法違反の恐れがあるという議論があった。しかし、感染の第一波を経験した各地の知事からは、従わない場合は罰則を課せられるようにして、要請や指示に強制力を持たせたいという声が出ていた。それなら、特措法を改正して、知事の要請に従わないなら「勧告」することができ、それにも従わなければ氏名や店舗の名前を「公表」することができるという規定を設ければ、憲法上の問題は生じない。
また知事として、どうしても店名を公表しなければならない事態が生じるとするなら、都道府県独自の特別条例を議会で制定する方法もあるのだ。
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