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知る人ぞ知る幻の魚〜御蔵島の秘宝、タカベを求めて〜

突然ですが、「タカベ」という魚をご存じですか。
 
東京の水産物と聞くと、「江戸前」の水産物を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。
実は、東京産水産物の水揚げ量の9割は伊豆・小笠原諸島海域で獲られており、島しょ地域では基幹産業として漁業が営まれています。
 
また、近年では、島しょ地域でのキンメダイやクロマグロなどの水揚げが注目を浴びています。
しかし、今日こそは、知る人ぞ知る、伊豆諸島北部の特産「タカベ」と、その産地である御蔵島(みくらじま)の魅力をご紹介したいと思います。


御蔵島の概要

今回舞台となるのは、東京から南に約200km離れた御蔵島です。
まずは地形について、まるで海から山が生えているかの如く、周囲を切り立った断崖に囲まれた島となっており、中でも島の南西部にある黒崎高尾の海蝕崖は、高さ約480mにおよび、「東洋一」ともいわれる海蝕崖を形成しています。
そこにある展望台からの景色からは、大自然の雄大さを感じることができます。

船から望む黒崎高尾方面の海蝕崖

次に動植物について、島の近海に生息するイルカをはじめ、オオミズナギドリやミクラミヤマクワガタ、ニオイエビネランなど数多くの希少な動植物の住処となっています。

加えて、黄楊(ツゲ)や桑などの産地としても知られるとともに、スダジイの巨樹が600本以上もある(なんと日本の巨樹の5%を占める!)など、御蔵島は太古の森が現存し続ける、いわば秘宝が眠る島と言えます。

オオミズナギドリ

そんな御蔵島は人口300人と、都内では青ヶ島の次に人口の少ない島です。
だからといって自然だけの寂しい島でしょうか、いえ、全くそんなことはありません!!
 
毎年8月に行われる例大祭では島の人々総出で祭りに参加し、
神輿が集落内を1日かけて回ります。

また、毎年開かれる村民運動会では、子供たちだけでなく大人たちも参加し、老若男女を問わず島の一大イベントとして島中が活気づきます。
 
当たり前のように現存する大自然に、そのなかを生き抜く人々の逞しさや美しさが根付く、そんな自然と人とが織りなすハーモニーを体感できるのが、今回の舞台、御蔵島です。

幻の魚?!タカベ

さて、御蔵島の魅力を十分感じていただいたところで、本日の主人公である「タカベ」についてご紹介します。

タカベ Labracoglossa argentiventris は、スズキ目タカベ科タカベ属に分類され、1科1属1種の魚類という、分類学上、唯一無二!まさに世界で一つだけの魚なのです!

また、大きさは全長20㎝程と比較的小型で、体の色は全体的に青色をしており、背中から尾鰭にかけて鮮やかな黄色を呈する、非常に美しい魚です。
 
本種は、我が国の太平洋沿岸域や伊豆・小笠原諸島に分布しており、比較的水深の浅い岩礁域を群れで回遊します。三宅島では、主に刺網や定置網で漁獲されます。

肝心なお味ですが、夏になると脂が乗り、大変美味しくなります。調理方法としては、塩焼きが有名です。

絶品!タカベの塩焼き

そんな見て良し、食べて良しのスーパーフィッシュ「タカベ」ですが、近年その漁獲量は減少傾向にあります。漁獲量減少の要因は、人手不足による大規模な網漁業の経営体数の減少や、黒潮大蛇行の影響等が考えられています。

御蔵島の夏の風物詩 ~たかべ回し網漁業~

網漁業の操業をやめていく漁業者が多い一方、御蔵島では6月から9月ごろの夏場にタカベを対象とした回し網漁業が行われています。

回し網漁業は、魚の群れを網で囲み、絡めとられた魚を捕まえる漁法です。網に絡まった魚を村民が協力して外していく光景は、御蔵島の夏の風物詩となっています。

最後に

船から望む御蔵島

今回は、伊豆諸島の夏を代表する魚、タカベ。そして、御蔵島の自然の恵みについてご紹介しました。
どんなに魚がいても、それを獲る人、食べる人がいなければ水産業は成り立ちません。

今回の記事は、三宅島に二年間住んでいた友人が、タカベを知らなかったことがきっかけで執筆しました。この記事を通じて、少しでも多くの人に東京の水産物を知っていただければ幸いです。

ぜひ、お近くの鮮魚店や飲食店で東京産水産物を見つけたとき、伊豆・小笠原諸島を訪れた際には、東京産水産物をご賞味ください。

最後に、本記事を執筆するにあたり、御蔵島村の有識者の方に多大なるご協力をいただきました、誠にありがとうございました。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。


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