誰かを頼ることが虐待の防波堤になる。番組の意思がうれしかった夜
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誰かを頼ることが虐待の防波堤になる。番組の意思がうれしかった夜

三宅 玲子

●ラジオで夜間保育を話した夜
ラジオに呼んでいただきました。
昨晩です。

TOKYO FMの夜8時、「TOKYO SLOW NEWS」という速水健朗さんがパーソナリティを務める番組で、夜間保育のことをお話ししました。

https://park.gsj.mobi/news/show/67560

私が取材した博多・中洲では、子どものいる人は400人とも500人とも聞きました。そして、中洲の周辺にはざっと10軒ほど、ベビーホテルがありました。

そもそもベビーホテルとは認可外保育施設のことです。行政からの補助金を受給せずに運営している託児所。昼間だけのところから24時間保育までさまざま。

一方、行政からの補助金を受給し、資格を持った保育士を雇用し、国の定めた基準をクリアした環境を備え、保育の質と安全を担保しているのが認可保育園です。保育園に通う子どもたちの 割がこの認可保育園に通っていて、親たちも認可に入ることを望んで保活をし、入れなかった子どもたちが「待機児童」となり、社会問題となりました。

そして、実は、夜間も子どもを引き受ける認可保育園がある。
制度は1981年につくられ、運用が始まって40年になろうとしている。
にもかかわらず、一向に数が増えないし、知られていない。

そのことを、速水さんは驚きを持って受け止めてくださいました。
ご自分も歓楽街に行かないわけじゃないし、そういうところで働いてるシングルマザーがいることも知ってはいたけど、子育てをどうしてるか、考えたことなかったなあと。
私も4年前までは知らなかったことです。

●「要注意保護者」
どんな親子を支えているの?
そう聞かれて、お話ししたのは、ユミエさんのことです。

ユミエさんはシングルマザーで中洲に勤めていました。2歳のカズくんを、夕方にしか連れてこないし、生活リズムが一向に整わない。私が知り合ったとき、ユミエさんは先生たちの間で「要注意保護者」でした。

ですが、そのユミエさんのことを先生たちはどうにかして理解しようとします。少しずつユミエさんも心を開き、生い立ちや、なぜシングルで子どもを授かることを願ったのかなど、徐々に先生たちと会話をするようになります。

深夜2時のお迎えのときに、灯りを落とした保育室で、子どもの様子を伝える先生との会話の流れでおしゃべりになる夜もあれば、夕方、登園したときに気安く話せる先生に向かって、恋愛模様を打ち明けることもあったようです。
遅い時間に登園して夜の間だけ預けるというユミエさんにも、早く連れてこられない事情があることが、先生たちにも少しずつ伝わっていきます。

だからと言って、先生たちが簡単にユミエさんを認めたわけではないのです。
認めよう、少しでもわかろうとする先生たちも、迷い、混乱し、ときには頭を抱えながら、ユミエさんに近づいていくのです。

なかでも驚いたのは、ユミエさんがある時期、子育てに行き詰まってネグレクトの疑いが見られたときのことでした。
夕方の登園を待つのではなく、少しでも早く保育園にきて、保育園で食事をして遊び、過ごすことの方がカズくんにとって健全だろうと園長先生が判断し、毎朝、先生たちが交代で朝11時に家までカズくんを迎えに行くようになったのです。

ユミエさんは、最初は遠慮したみたいでしたが、先生にうながされるようにして申し出を受け入れました。

ここまで保育園は親子に関わるのかと、私は驚きを深めました。

●誰かを頼るということ
さて、ユミエさんは、その後、恋人のいる東京にカズくんと2人でやってきます。「真夜中の陽だまり」はそこまでで終わります。

ユミエさんの人生はその後も続きます。
彼女は1年の東京暮らしを経て、ある困難な事情を抱えてまた福岡に戻りました。そして、退園したどろんこ保育園に、自分から連絡し、困りごとを打ち明け、解決の方法を相談したのです。

どろんこ保育園ではそれを受け止め、必要な情報を渡し、関係機関へと橋渡しをし、今後当面の局面をどう乗り切るか、一緒に悩み、解決に向けて進んで行こうとしています。

親になりたての頃には、ただでさえ自信がありません。
親にとって、自分の子育ての悩みごとを他人に打ち明けるのは、勇気のいることです。ユミエさんが、自分の状況を自ら伝えた勇気に打たれました。初めて出会った頃とはずいぶんと変化したユミエさんが、前へ進む意思を持って、親としてカズくんと関わっている姿に、祝福したい思いが込み上げました。

親も少しずつ親になっていくという当たり前のことを、ユミエさんの姿から教えられたような思いがしました。

そして、もうどろんこには在籍していない親子を継続して支援するどろんこ保育園のありように、保育をはじめ福祉の仕事は制度の内側だけでは終わらない仕事なのだと考えさせられています。

制度の境界線のギリギリのところで関わることは、制度の外に立っている私たちにもきっとできることなのだろうとも。

●構成作家の思い
さて、番組では、最後に速水さんが、虐待の問題との関わりで問いかけてくださいました。親を支えるというどろんこ保育園のありようは、虐待防止とどのように関わりを持つのか、という問いです。

目黒の船戸結愛ちゃんの事件に関して、専門家に取材したときのことをお話ししました。

結愛ちゃんの母は、再婚する前の一時期、1人で結愛ちゃんを育てながら歓楽街で働いていたという情報がありました。ですが、その街に認可夜間保育園は存在しません。私は事件の検証委員長で家庭児童福祉学の専門家の山縣文治さんに聞きたいことがありました。それは、もし、結愛ちゃんがベビーホテルではなく夜間保育園に通っていたら、もっと違う状況になっていただろうか、というものでした。
果たして、答えはイエスでした。

さまざまな事情を抱えた親、それぞれを受け止める夜間保育園に通っていたならば、退園していたとしても、家族や子どものことで悩んだときに、相談をした可能性は高い。

もしそうできていたら、結末は違っていた可能性もある、という言葉に、親を支えるというどろんこをはじめ夜間保育園の姿勢こそ、立場を超えて、この時代を生きる親たちが求めるライフラインなのだろうと思いました。

親を支えるということが虐待の防波堤になる。そのことをぜひ最後に伝えたいですね、と言ってくださったのは、事前の打ち合わせから放送までを担当してくださった放送作家のオカヒデキさんです。

夜間保育は一般には遠い領域のことですが、実は、夜の親子を支える保育の現場で「親を認める」ことに奮闘している先生たちのありようは、今、社会課題となった「虐待」を防ぐヒントを含んでいる。それを伝えようと、構成を練ってくださった思いがなによりありがたいなと、伝える仕事の現場でしみじみと思った夜でした。


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三宅 玲子
ノンフィクションライター。「ひとと世の中」を中心にオンラインメディアや雑誌、新聞にて取材、執筆。近著『真夜中の陽だまりールポ・夜間保育園』(文藝春秋/2019.09)は、福岡・中洲に近いどろんこ保育園に4年近く通って書いた。https://www.miyakereiko.com