神経支配領域を意識した皮膚感覚テスト
1)末梢神経の皮膚支配領域
脊髄の各髄節は、特定の皮膚の感覚を支配している。脊髄神経による皮膚の支配領域の分布を示したものを「デルマトーム」という。撓骨神経麻痺では下垂手、正中神経麻痺では猿手、尺骨神経麻痺では鷲手、総腓骨神経麻痺では下垂足が見られる。
病院等での治療が必要ないレベルで、クライアントのなかでも日常生活で「右手より、左手の感覚が鈍い気がする」といった、違和感を覚えるケースは珍しくない。
こうした意識化(あるいは無意識)の感覚をチェックすると、顕在化していない問題のあるい部位(末梢神経の働きが弱い部位)を見つけやすい。
感覚テストは感覚刺激のトレーニングの側面としても有効であり、他の神経のワークと組み合わせることで更に良い効果を得られたり、感覚が定着しやすくなる。
2)皮膚感覚テストのチェック項目
皮膚の表在感覚検査は、主に触覚、痛覚、温度覚の3点を基準に行われることが多い。
・触覚
①方法
・目を閉じて、柔らかい毛筆や脱脂綿等で皮膚に軽く触れ、左右対称部位を比較する。皮膚に触れたらクライアントに反応を聞く。
・左右対称部位を同時に刺激(2点同時刺激)で、どこを触れているか答えさせる場合も。
②チェックすべき項目
・触覚鈍麻
・触覚脱失
・触覚過敏
・パレステジー(外的刺激によって起こる異常感覚)
・ジスエステジー(外的刺激が無くて自発的に起こる異常感覚)
③ポイント
・四肢では長軸と平行に触れ、胸部・腹部では肋骨に平行に触れる。
・常に同じ長さで刺激する。
・痛覚
①方法
・ピンまたは針で皮膚を軽く刺激し、痛みを感じたらすぐに答えさせる。
②チェック項目
・痛覚鈍麻
・痛覚脱失
・痛覚過敏
③ポイント
・検査は始め大まかに行う。
・痛覚鈍麻は障害部位から正常部位へ、痛覚過敏は正常部位から障害部位へと進める。
・クライアントからの応答がない場合、手足の動き・表情の変化で判断する。
・温度覚
①方法
・温水(40~45°)・冷水(10°ぐらい)をそれぞれペットボトルなどに入れ、約3秒触れさせる。
・左右対称に刺激し、温かい、冷たいの感覚を答えてもらう。
②チェック項目
・温度覚鈍麻
・温度覚脱失
・温度覚過敏
③ポイント
・温度が高すぎる(低すぎる)と痛みを覚えるので注意すること。
・ペットボトル試験管の表面は濡れていないこと。
・試験管は大きいものにする。小さいとすぐに温度が変化してしまう。
・老人や末梢循環不全の患者では神経障害がなくても鈍麻していることがあるので 注意する。
このうち、クライアントに対しては最低限次のチェックを行なうといい・
①安全性の高い感覚=軽いタッチ・軽い圧・バイブレーションなど
②危険性のある感覚=針・強い圧・温感と冷感など
2種類の感覚は脊髄神経路(せきずいしんけいろ)が違うため、一方は正常だがもう一方がうまく働いていないというケースも多く存在する。
テストは基本的に左右で行い、左右差を発見した場合、「片側の感覚が薄い」「片側の感覚が過敏」のどちらかが該当すると考えられる。感覚テストのみで、そのいずれかの事例に該当するかは判断が難しい。既往歴など別途カウンセリングを行なうことで、ある程度の予測を立てる。
3)例:正中神経の感覚テスト
正中神経は腕神経叢に由来する、上肢腹側の中央を走行する神経である。前腕部においては尺骨神経、橈骨神経とならぶ、やや径の大きな神経。前骨間神経、総掌側指神経、固有掌側指神経に分枝する。
①手のひらを出し、ティッシュ等の柔らかい物で親指か〜中指までをなぞるようにする。
②反対側も同様に行い、感覚の左右差を確かめる(この際、目を閉じて行うことで感覚を確かめやすい)。
③先端が尖った物を用意し、親指〜中指までを軽くつついてテストする(力を入れすぎないよう十分に注意する)。先程と同様に反対側も行い、左右差を確かめる。
④振動するものを使い、バイブレーションによる感覚もテストする。左右差も同様に比較する。