マガジンのカバー画像

AUTO HALL CITYシリーズ

11
カクヨム、KAC2022にて投稿していた連作短編の上げ直しと新作発表の場です。 世界観は共通ですが、話は独立しているので、Chapterのどこからでも読めます。 全作約4,000…
運営しているクリエイター

記事一覧

『AUTO HALL CITY』Chapter11:Black kitty's diary(ノエルの日記)

File1  あー、テステス。 (間)  3月22日。逃亡生活1日目。  私はノエル。今日からお姉ちゃんのスノウ共々、ロビンさんのところでお世話になることになった。  それに伴い、以前から付けていた日記を改めて付け直すことにする。  この日記を録音する為に、ロビンさんから未接続の端末機器を貰った。何から何までお世話になりっ放しで頭が上がらない。  私から見て、ロビンさんは服装も格好良い理想の女性と言った感じ。  本業は情報屋だそうで、秘密基地に移ってからも一日中、画面と睨め

『AUTO HALL CITY』Chapter10:Ambiguous Past of A Little Gifted(真夜中の幻と霊媒の夢)

『Chapter10:Ambiguous Past of A Little Gifted』  空は暗く、天然の光は星明かりくらいだけの時間。そんな時間でも、この眠らぬ街は変わらず煌びやかさを消さないが、それでもやはり昼とは違う。  真っ当な生活をしている人間の殆どは眠りに入り、活動しているのは訳ありの人間が多い。そうでなくても、地下街や裏通りが活発になる。  故郷では、真夜中は幽霊の時間とも呼ばれていたことを思い出す。  人間の義体化や人造人間の製造。そんなことが可能な

『AUTO HALL CITY』Chapter9:Temptation of Lost Cats(迷子の猫と孤独な暗殺者)

『Chapter9:Temptation of Lost Cats』  その依頼人は深々とフードを被っていた。  この混沌とした街では珍しくない服装ではあるが、それにしても顔がすっぽりと覆わせてしまうフードは、視界も悪そうで少し心配になるほど。 「スノウと言います」 「スノウさんっすね。わたしはロビン。ここの調査係兼所長代理っす。ウチのことはどこで聞いたんすか」  私は事務的にそんな質問を投げかける。いつもは御歳88歳のお爺ちゃん所長が来客を受け付けるところだが、残念

『AUTO HALL CITY』Chapter8:The Tears of The Ruthless Hitman(殺し屋の矜持と英雄の条件)

『Chapter8:The Tears of The Ruthless Hitman』  資料の中の彼は、美しく成長していた。  彼の持ち味である艶やかな黒髪は、後ろで束ねていてその美麗な顔がよく映える。  これで義体置換化もしていない生身の肉体だと言うんだから。  まだ十代だった彼の姿を思い出す。私の後ろを着いて回っていた頃のルベンは、どんな仕草であれ、私の真似をしようと躍起になっていた。 「なあミルコ、僕もあんたみたいな格好いい男になりたいな」 「俺の教えを忘れな

『AUTO HALL CITY』Chapter7:Painful Past of A Detective(剥奪されし者共)

『Chapter7:Painful Past of A Detective』  ❖  人間の頭に弾をぶち込むと、華が咲く。  血飛沫の華。  戦争時に退屈を持て余した時に俺が考えていたのは、如何にあの肉の塊に綺麗な華を咲かせるか、だった。  当時の同僚はそんな俺を化物だと蔑んだ。その通りだ。実際、俺の居場所は戦場にしかないんだと、思っていた。  あの日までは。 「来るな」  俺が近付くと、男は腰を抜かし、命乞いをする。糞だと思った。お前も人間の命を奪ったんだろうが

『AUTO HALL CITY』Chapter6:My Delicious Chicken Hymn(絶品目当ての休息)

『Chapter6:My Delicious Chicken Hymn』 「美味しい!」  良い稼ぎがあったので、たまには豪勢な食事でもと、久方ぶりに旨い肉でも食おう、と俺は相棒と一緒に焼肉屋に来ていた。  店の受付が受付機械に変わっていたことに一抹の淋しさを感じつつ、案内された席に二人で座る。  タン塩、カルビ、ロースと適当な部位を注文し、まだ子供のカインの為に一枚一枚丁寧に焼いてやる。  カインはどれも皆喜んで食べていて、こっちも釣られて笑ってしまう。 「ヴァ

『AUTO HALL CITY』Chapter5:Old Man Plays, Until Death Comes(永久不変の記者魂)

『Chapter5:Old Man Plays, Until Death Comes』  屋根から屋根へと飛び移る。  途中、やる気のない見張りがいれば、高電圧銃で気絶させ、まんまと屋敷の中に潜入した。 『流石』  通信機から、ロビンが感嘆の息を吐くのが聞こえた。 「全身義体のお陰だ。長いこと生きてきたが、身体が雲みたいに軽い」 『性能は確かだけど、使いこなせてるのは身体能力の賜物でしょ。普通、義体を変えて直ぐ、そんなにぴょこぴょこ動けるもんじゃない』  通信しつつ、屋敷

『AUTO HALL CITY』Chapter4:Comedian's Noisy Awakening(滑稽かな世界)

『Chapter4:Comedian's Noisy Awakening』 「本気ですか、支配人」 「仕方ねえだろ。オーナーの決定だ。今時、劇場なんて流行らねえ。わかってんだろ」 「でも!」  わかっている。オレが今ここで支配人に文句を言ったところで、劇場の閉鎖がなくなるわけではない。 「ここがなくなったらオレ達どうしろって言うんだよ。なあ?」  涙を呑んで、もう客足一つない劇場の隅を掃除している清掃代行機械のメアリーに声をかけた。 『私は他施設への派遣が既に決まっ

『AUTO HALL CITY』Chapter3:Six Sence of The Sniper(附加されし者共)

『Chapter3:Six Sence of The Sniper』 「多分ここだよ」  時代錯誤の紫煙の匂い漂う路地裏を抜けたゴミ捨て場。正確には、この地区では許されていない不法投棄場を、カインが指差した。  動かなくなった筋電義手やら、小型人工知能の残骸やら、そういう機械機械した物から、生ゴミやスナック菓子の袋まで、多種多様なゴミさんが色々と埋まっている。 「マジで言ってんのかテメェ」  生ゴミの臭いなんだかそれ以外の何かなんだか知らないが、刺激臭が酷い。この山盛

『AUTO HALL CITY』Chapter2:The Girl with Savage Respect(憧れの剣闘士)

『Chapter2:The Girl with Savage Respect』 『優勝は無敵無敗の“二刀流”、ジャック・リー!』  やった! 画面越しの試合結果を観て、あたしは思わず小跳躍した。  ネットの奥で配信されている、剣闘士が命を懸けて鎬を削り合う非合法闘技の試合。  あたしの推す剣闘士、無敵の“二刀流”の異名を持つジャック・リーが、これまでの各大会の優勝者のみを集めた地獄杯で優勝を収めたのだ。  つまり、彼は優勝者の中の優勝者。  ファンのあたしも勝手に

『AUTO HALL CITY』Chapter1:End Game of "Two-Way" Lee(隠された一刀)

『Chapter1:End Game of "Two-Way" Lee』  アドレナリンが迸る。世界が煌めく。地下施設には歓声と悲鳴が入り混じり、観客の熱気は最高潮だ。  舌舐めずりをし、僕は対戦相手の顎に手を掛けた。最大限の力で顎を引き抜き、同時に背中から心臓に向けて刀を貫いた。刀を捻り入れ、顎を引き抜いた方の身体で刀を握ると、無理矢理に刃を貫通させる。  対戦相手の意識はもう天国で、僕は高笑いをあげて刀によって開いた相手の胸から心臓を鷲掴んだ。  心臓を高らかに掲げる