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第四章 国のイニシャチブによるDARPA(ダーパ)の設立

ベンチャーを生み出すDARPA

1957年ソ連がスプ―トニックを打ち上げた次の年の1958年にアメリカでDARPA(ダーパ)が設立された。初めはARPA(Advanced Research Project Agency)としてスタートしたが、のちにDefense(防衛)という言葉が付け加えられた。DARPAは、主として各分野におけるアメリカの技術優位を図るために設立された組織で、ミッション志向という点では常に非常に攻撃的に動いた。

DARPAの年間予算は$2.87B(2013年)で人員は約250人、内5人がプログラムマネージャーである。これには民間のアイディアや提言が流れこむ仕組みができた。つまり民間からの新しい技術に対してGrant(グラント)として資金を与える仕組みである。2013年には約2000のGrantがあった。Grantはパラダイムシフト的な先端技術やこれまでの製品性能の10倍以上のものにGrantが与えられている。Grantを受けたベンチャーにはベンチャーキャピタルが投資するという仕組みができている。

この支援を受けたものには、Arpanet(インターネットの原型)、GPSシステム、iRobot(ロボット掃除機)。PackBot(マルチミッションロボット)などがある。アメリカの多くの新しい先端技術は、このDARPA(国防高等研究局Defense Advanced Research Project Agency)、SBIR(米国中小企業技術革新研究Small Business Innovation Research)より資金を得て開発されたものである。

しかしDARPAの主要なミッションは「防衛産業」のための先端技術を開発することである。民間産業用の技術開発はメインではない。DARPAが開発した「インターネット技術」や「GPS技術」の主要なアプリケーションは兵器産業である。今はやりのAI(人工知能)の基礎技術もDARPAが開発している。これも当初は兵器を対象にしていた。

アップル社のiPhoneの誕生

スティーブ・ジョッブズはiPhoneという「商品コンセプト」(iPadと携帯電話の新結合というアイディア)を創ったが、このアイディアには、音楽、ビデオコンテンツ、データは第三者がその著作権を持っているので、その所有者にいちいち使用許可をもらわなければならないという法規制があった。しかしそのような法規制があると、iPhoneは商品として成り立たない。そこでスティーブ・ジョブズは法規制を変えてもらうために政府と交渉した。DARPAが実際にこの法規制の改定をサポートしてくれ、これでジョブズのiPhoneのアイディアが生きることになった。

しかしスティーブ・ジョブズが創ったという「iPhoneのコンセプト」は日本のソニーがウオークマンの延長として既に持っていた。しかしソニーは著作権の問題のためにその商品化を諦めたという経緯があった。法規制の改定にはソニーは挑戦しなかった。

ところがスティーブ・ジョブズとアップル社は、「iPhoneのコンセプト」を実現化するための製品技術を持っていなかった。しかし運よくDARPAが長年にわたりiPhoneに必要な先端要素技術を開発していたので、アップル社はそれを使わせてもらった。DARPAが開発していた要素技術には「インターネット技術」、「GPS」(全地球測位システム)、「SIRI(発話解析・認識インターフェース)」、「タッチスクリーンディスプレー」、「スクリーンスクロール」などがあり、それ等の要素技術をアップル社はDARPAから貰い、採用したのである。このDARPAによって開発された「要素技術」がなければ、アップルのiPhoneは生まれていなかった。

そしてアップル社は設立初期段階からアメリカ政府の「米国中小企業技術革新研究」(SBIR)から資金援助を受けていた。
DARPAは、単に先端技術を開発したり、研究資金を提供するだけではなく、学術研究機関へのコンピュータサイエンス学部の創設し、起業したばかりの企業の初期段階をサポートした。

フェアチャイルド社の誕生

1959年ウイリアム・ショックーが立ち上げた会社から8人の技術者が抜け出て、新しい会社フェアチャイルド社を立ち上げ、アメリカ軍が必要としている半導体を開発し供給した。フェアチャイルド社は初めから国が資金の支援を受け、その開発製品の半導体を全部アメリカ政府が買い上げた。つまり国家の膨大な資金がフェアチャイルド社に投入され、フェアチャイルド社の事業が成功したのである。これにもDARPAが絡んでいた。

DARPAとSBIRからGrantを受けた筆者の経験

筆者は、BaySandというスタートアップの会社で、Structured ASIC技術(最下層レイヤーに半導体セルを敷き詰め、2層から5層でそのチップに会った配線を設置するもの、これによりチップの開発コストが大幅に削減され、開発期間が大幅に短縮される)をDARPAに提案した。技術のコンセプトが優れているということでDARPAからGrantを受け、$200,000を授与された。スタート・アップ企業にはそのような金は大きな助けになった。DARPAは、その技術が最終的に成功することをGrantの条件とはしていない。新しい試みは失敗することもあることを前提にしている。つまり失敗しても金を返却する必要はない。

そして筆者の現在のガスセンサーの会社Atmosense Incはガスセンサー用のNano MetalをAIによって合成する新しいプロセス技術を開発した。これによりガスの検出能力が飛躍的に向上する。これまでのガスセンサー技術では検出できないようなガスもこれは精度高く検出できる。この技術をSBIR(米国中小企業技術革新研究)に提案して、GRANTを受け、$450,000をもらった。これはアメリカの進めているNano Technologyプロジェクトと関連している。