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セーラの叔父さま 17話

屋根裏部屋

セーラと叔父さま扮する専属メイドのフランソワーズは屋根裏部屋についた。
天井の傾いている部屋。所々剥げ落ちている壁。さびついた炉ごうし。古い鉄のベッド。色褪せた薄い掛け布団。天窓から見えるロンドンの灰色の空。
まるで絵に描いたような貧しい部屋だった。

「叔父さま、みすぼらしいのは我慢できますけど、寒さはかなり厳しそうですね」
「そうだね、でもまあそれは僕が何とかするから心配しないで。それより、これからは僕のことを<フランソワーズ>と呼んでくれるかい。僕も君をお嬢様って呼ぶから」
「二人だけの時も?」
「そうだよ。いつ誰が聞いているかわからないからね。
ああ、でもここなら大丈夫かな?いや、慣れていなければボロが出てもまずいか・・・。
さて、お次は私の部屋だわ。お嬢様、一緒に見てみます?」

叔父さまは女性のような話し方でこちらを見た。誰がどう見ても美しい女性がそこに立っている。
ちょっぴりオタクのセーラの中の人である私はそんな叔父さまを見るのは実は嬉しくてたまらないのだが、すまし顔でこう答えた。

「そうね、フランソワーズ、私も見てみるわ」

叔父さまの部屋はミンチン先生が言ったとおり物置だった。
古くなったり壊れたりした椅子や机やベッドや家具などが所狭しと積み上げられていた。

「あらあら、これは大変!片付けなくちゃ寝るスペースも無いわ!」

叔父さまは女性言葉で驚いたように小さく叫んだ。そしてもっと小さい声でセーラの耳元で囁いた。
「ここは僕のお土産部屋、通称ゴミ部屋より酷いところだね」
思わず私は吹き出してしまった。確かに叔父さまのあの部屋も足の踏み場が無いくらいごちゃごちゃしている。

「叔父さま、今日寝るまでに寝るスペースを作ることが出来るかしら?」
「大丈夫、僕は世界中を旅して野宿もした経験もあるからね、どんなところでも寝ることが出来るさ。
おっと・・・女性言葉でしゃべらなくちゃいけないのに忘れていた。
お嬢様、わたくし、どんな所でも寝られますわ」

それから二人は寝る場所を確保するためにお互いの部屋を片付けることにした。

夜になってベッキーが屋根裏部屋に戻ってきた。
ベッキーはセーラの顔を見て涙ぐんだ。

「おじょうさま、あの・・・おら、おじょうさまが・・・おじょうさまが・・・」
ベッキーはどう言えばよいのかわからなくてただ泣くだけだった。
「ベッキー、私言ったでしょう、私たちは同じ女の子なんだって。私、もう公女さまなんかじゃないのよ」
「おじょうさまにはどんなことがおこっても・・・どんなになったって・・・おじょうさまはこうじょさまですだ」


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