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セーラの叔父さま 37話

この子だ!

セーラが猿を抱いてお隣へ行こうとしている少し前、お隣では弁護士のカーマイケル氏の子供達がやって来ていた。
カリスフォード氏に頼まれて行方不明の女の子を探しに行っていたカーマイケル氏が今日モスクワから帰ってくるのだ。

探していた女の子は残念ながら目的の女の子ではなかった。
カリスフォード氏はがっかりしたがカーマイケル氏の提案でロンドンの学校を探す事になった。
「その学校に、気になる子が一人いる。しかし、その子は生徒ではないのだ。それに、その子は髪の黒い見るからにあわれな子で、クルーの娘には似ても似つかぬ気がする」

どうしてこうもカリスフォード氏は鈍いんだろうって思いません?
似ても似つかぬ・・・って、本物のクルーの娘と一度も会ったことないんでしょうに、どうして気がつかないのか不思議でたまりません。まあ、勿論すぐに気がついたらお話にならないけどね。

この回で、ようやく鈍いカリスフォード氏もセーラの正体に気がつくのよね。
何故ここまで鈍いのか?それは当時の階級制度に他ならないと思う。
金持ちはみすぼらしい下働きの子がかつては金持ちだったなんて夢にも思わないのだ。みすぼらしく見える子は生まれたときから下層階級だと信じ込んでいるのだ。・・・だからみすぼらしい格好をしているセーラを見ても生徒だったかもしれないなんて全く思いもつかないわけだ。
部屋を暖かくして美味しい食事をくださったことに対してのセーラからの手紙を読んだ時にも、こんな上手に手紙が書けるのは普通の下働きの子供ではないかもしれない・・・なんてちっとも思わないのは鈍いなあって思うんだけどね、カリスフォード氏は名探偵ホームズにはなれませんね。(笑)


その時、ラム・ダスが部屋に入ってきて例の隣の女の子が逃げ出した猿を連れてきたことを告げる。
猿を抱えたセーラ(私)はドキドキしていた。
ちゃんと台詞を言えるかしら?ここでちゃんと私がクルーの娘ってことに気がついて貰えるかしら?
ここは「小公女」のお話の世界だから大丈夫だとは思うけれど・・・。

「猿は<ラスカー>に渡しましょうか?」
「どうしてあの者が<ラスカー>だとわかるのかね?」
インドの紳士が少しほほえみながら聞いた。
「あら、わたし、<ラスカー>は知っています。私、インド生まれですから」

インドの紳士は急に背筋を伸ばして座り直し、表情を一変させた。
「インドで生まれた?君は隣に住んでいるのかね?君は生徒ではない・・・?」

「自分がどういう立場なのか、よくわからないのです。初めは生徒でしたが今は屋根裏部屋で寝起きしています。そして料理長に言いつけられたことは何でもします。お使いも・・・」

このセーラの台詞は13歳の女の子がとっさに言えるものなのだろうか?
普通、「君は生徒ではないのだよね」って聞かれたとすると、13歳ぐらいならただ単に「はい」と答えそうなきがするのです。それなのに「自分がどういう立場なのかよくわからない」って・・・セーラはいろいろと本も読んで頭も良いという設定だから言っても不思議ではないかもしれないけれど、とっさの返事で「自分の立場」なんていう台詞が出るなんて、すごいですよ、セーラお嬢様は・・・。

「父が財産を全て失って亡くなり、わたしには何も残されなかったのです」

セーラの言葉に興奮したカリスフォード氏に代わりカーマイケル氏が後を続ける。
「それで君は屋根裏部屋に追いやられて下働きをさせられるようになったのだね」
「養ってくれる人がいないし、お金も身よりもありませんし・・・」

「お父上は、どうして財産を失ったのだ?」
インドの紳士が荒い息づかいで口をはさんだ。

「父の仲の良い友人が、父のお金を取ったのです。父は友人を信用しすぎたのです」

インドの紳士の息づかいがますます荒くなってきた。
セーラ(私)は、ほぼ原作の通りに答えたのだが、やっぱりこの台詞はかなりキツいよなあ・・・と思う。
カリスフォード氏の顔色はどんどん悪くなり、げっそりやつれ顔がくしゃくしゃにゆがんできたではないか。
かなりダメージを受けるのは知っていたが、実際その様子を目の当たりにすると、この人大丈夫なのかと心配してしまう。

「カーマイケル」

病身の紳士が息も絶え絶えに言った。

「この子だ。この子だ!」


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