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セーラの叔父さま 19話

叔父さまの授業

フランソワーズ(叔父さま)のフランス語の授業は生徒たちに好評らしい。
今日も生徒たちはフランソワーズ先生の噂で持ちきりだ。

「ねえ、ラビニア。フランソワーズ先生って本当に美人で素敵ね」
ジェシーの言葉にラビニアは苦々しそうな顔で答える。
「ふん、まあ確かに顔立ちはちょっと整ってるかもしれないけれど背が高すぎるわ。あんなに背が高すぎると結婚相手も見つからないに違いないわ」
「そりゃ背はちょっと高いかもしれないけど、あのキラキラした金髪の素敵なこと!私、あそこまで綺麗な金髪は初めて見たわ」
「あのね、ジェシー。ちょっと綺麗かもしれないけれど所詮メイドなのよ」
「そうね、セーラの専属メイドなのよね。でもセーラって一文無しになっちゃたんでしょう?どうして専属メイドなんているのかしら?前にいた専属メイドはミンチン先生に首にされたって言ってたわよね」
ラビニアはつまらなさそうな顔でジェシーの問いに答えた。
「セーラの叔父っていう人が雇ってるらしいわよ」
「へ~セーラって身内がいたんだ。でも身内がいるならセーラを引き取れば良いのにね」
「ふん。大人の事情とやらでいろいろとあるんでしょうよ」

その時噂の主が教室にやって来た。
「はい、みなさん、授業を始めますわよ。
みなさんは将来上流階級の奥様になってフランス人など外国の方とお話しする機会があると思います。
ですから文法よりは会話中心の授業にしたいと思ってます。
はい、ラビニアさん、私に何か質問したいことはありませんか?何でもいいですよ」

突然自分に向けられた質問に一瞬ひるんだラビニアだったがすぐにいつもの少しふてぶてしそうな表情に戻ってフランソワーズ先生に答える。
「はい、先生はセーラの専属メイドなのにどうして授業を受け持ったりしているんですか?」
「では、それをフランス語で言ってご覧なさい」

ラビニアはそんな言葉が返ってくるとは思っていなかったので少々あせった。
(油断してたわ。もっと簡単な質問にすれば良かった。やっぱりこの女一癖も二癖もあるんだわ)

「簡単に考えてごらんなさい。『どうしてそれをするの』なら『Pourquoi fais-tu ça』ですね。
ですから、これを元に考えてごらんなさい」
「えーと・・・」

てな具合に叔父さまが授業をしているとき、セーラはコックから言いつけられて料理の材料を買いに出かけるところだった。
窓越しに叔父さまの姿が見える。
「ああ、叔父さまは暖かい教室で授業なさってるのね。私は寒い中買い物に行かなくちゃならない。
せめて、この服がもう少し暖かければ・・・」

セーラの中の人は中年のおばさんなので寒いのは苦手なのだ。ただ、今は若いセーラの身体なので多少は寒さに強いのだが、コートもなしで冬のロンドンを歩くのは厳しいのです。

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