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とあるプロジェクトで起きた事象から「プロジェクト運営」について考えてみた。

  Twitterで気になる投稿がありました。
https://twitter.com/pixel_japan/status/1478369068273266688?s=21 
 とあるゲーム製作プロジェクトの活動資金をクラウドファンディングで調達したものの、リリースが大幅に遅延した上、クラウドファンドの企画側とゲーム制作チームの認識の相違から製作チームが離脱するという事態となっているようです。
 この件に関しては、私も知っている(というか好きだった)かつての家庭向け、業務機でヒットしたゲーム作品に関わっていた著名なクリエイターの名前がある(というか、プロジェクトの主導者?という)ことで、何とも言えない気持ちになりました。
  当該クラウドファンドに支援した/してないといった立場でも見え方は変わると思いますが、同世代の方々は似たような感情を持っているのではないでしょうか?

クラウドファンドの難しさ

 このようなクラウドファンディングで資金を調達したものの、開発が頓挫(資金を溶か)してしまうという事例は、初期のクラウドファンドではハードウェア案件を中心に良く見た光景ではあります。
 実のところ、私もそういったプロジェクトに支援をして頓挫した事例に直面した過去が数件ほどあります。 
 ハードウェアを製作・製造するような案件では、アイデアが先行して前のめりになるあまり、試作時点ではそこそこ順調に進捗するものの、プリプロダクション(PP、量産試作)段階におきがちな製造工程に関する課題・問題の発生、あるいはマスプロダクション(MP、量産)段階で商品に関わる認証などと言った技術的要件という課題・問題が発生し、想定外のスケジュールとコストが大幅に超過し、突然プロジェクトが頓挫するということが過去にはしばしば見られました。
 そういった問題もあってか、近年のハードウェア案件は既存の製品に対して追加機能や機能の先鋭化および特定の用途向けに特化するといったものが目立つようになりました。
 そして、その多くは資金的な支援よりもマーケティング…つまり、ニーズや市場が存在するのか?という調査的側面でクラウドファンディングが利用されているケースが増えているように感じます。
 これにより案件自体が頓挫するケースは減少したように思いますが、野心的(魅力的)なプロジェクトの数が少なくなったような気がするのが私としては少々残念なところではあります。

 ソフトウェア(特にゲーム)制作(製作?)に関しても概ね同様なことが言えるのですが、特に演出面で著名クリエイターが関わっている(というか、主導者になる)ケースも散見されています。
 こういった演出面・サービス面でのアイデアが先行する場合、ソフトウェア制作(実装)側とのイメージの共有などでギャップが大きくなるほど問題が悪化する傾向が多く感じます。
 もっとも、このようなことはクラウドファンディングに関わらず、普段の業務においても「商品性の向上」対「技術的・予算的・調達的な課題」…俗にいう「技術的には可能です」という形でイメージギャップが生じて後工程で問題になる事が往々にして存在します。

当該プロジェクトはどうだったのか?

 今回もそういった類のトラブルが発生したのではないかと推測します。
 上記でも触れましたが、このような演出側からの企画はどうしてもそのクリエーターのファンが期待をして応援している傾向が強いため、かかる期待が大きい分、失望も相当に大きくなり、ネット界隈が荒れがちです。
 そう言ったプロジェクトを目の当たりするたび「どうしたものか?」と思わずにはいられません。
  また、そうでなかったとしても当該プロジェクトでは開発陣が2.5年(×人)という規模が費やされている訳で、そのようなプロジェクトの資金が1000万円と少々というのは、(仮に)現時点でリリースされたとしても、制作陣が相当大きな出血を強いられている状況であることは明らかです。
(もしかすると、クラウドファンド以外の外部スポンサーが関わっている可能性はありますが、全体としてどのくらいの開発費が必要か?というような記載はないため判断ができません)

  数年前であれば、文句あるいは暴言ひとこと吐いて済ませてしまうのでしょうが、人間生きていると色々思うことがあります。
 余計なことなのですが、自分なりに状況を整理して考えをまとめていきたいと思います。

①わかっていること

・着手から2年が経過していること
・ゲームのコア部分の開発を請け負っているチームが開発からいっさい手を引くということ
・開発にかかるコストに関しては全て制作会社の持ち出しだということ
・(従って)成果物の引き継ぎは行われない(だろう)ということ
・ゲーム内容に関して、最初から作り直す必要があること

②気になること

・現在の開発予算状況(何にいくら使ったか、いくら残っているのか?)
・(完成見込みがあるとして)結局いつできるのか?
・ここまで遅延してしまった原因は?
・その遅延が放置されていた原因とリカバリができていない原因は?

 気になることを軸に思ったことを整理して考えをまとめていきます。

どこが気になったか?

・ゲーム本体の制作チームが離脱した

 上記でもっとも気になる点は、冒頭のリンクにもあるゲーム開発のコアというか、ほぼ全ての部分を担当するチームの離脱です。
 チームとして関わっている領域は「ゲームデザイン・ディレクション・仕様策定・クリエイター仲介・プログラム・ドット絵・ラフイラスト制作・キャラクター原案・メカデザイン・アニメーション制作・ SE・セリフの実装・UIデザイン・ロゴデザイン・PV制作・その他」とゲームのメインとなる部分をほぼ網羅しているように書かれています。
 要は、ゲーム肝となる本体です。そして報酬は受け取ってないということです。
 これはプロジェクトを離脱したとしてその中間成果物を引き渡す義務がないと言っているものと理解しました。
 つまり、クラウドファンディング企画・運営側はゼロから制作をし直さないといけないことを意味していると理解します。ゲームデザインだけでなくイメージの原案?も制作側が握っているからです。

・(クラウドファンド)企画チームとの連携は?

 一方で、当該クラウドファンディングの進捗報告ではキャラクターデザインイラストや音楽に関しての制作の様子が描かれています。
 つまりキャラクタやキーとなる(おそらく最初のステージの)イメージ画やステージの断片的な情報は掲載されていますが、一方で全体的にどういった構成なのか?というところにはあまり情報がありません。つまり全体を見渡した世界観から落とし込んだゲーム構成どんなものかという部分であるといった部分があまり見えてこないような印象を受けました。
 上記のようなものは世界観からディテールが決まってくるものだと思います。
 剣と魔法のファンタジーの中で宇宙戦争のような音楽やキャラクタが登場しても困る訳ですし、ゲーム中に突然そんなステージが差し込まれてもプレイヤーは困惑すると思います。(もっともそんなことは制作側が直感的に拒否すると思いますが…)

・予算の現状

 一点目でも触れましたが、今までのゲーム本体に関する成果物の一切は離脱したチーム側が握っているものと考えます。(契約もどうなってるのかよくわかりませんが)
 例えば引き渡しが発生したとしても、そこに金銭の授受が発生するのではないかと考えます。そうすると、引き渡しが完了した場合、予算としてどのくらい残っていて、完成までの進捗がどの程度なのかは気になることです。そして、それはクラウドファンドの企画側のイメージに一致しているものなのか?ずれがあったとしてそれは修正が効くものなのか?にもよって、今後の方針にも影響するものだと思います。
 そして、遅れてはいるものの確実に進捗しているのであれば、おそらく3度目のクラウドファンディングが実施されるのではないか?と私は思います。
 ただ、離脱した制作側との係争もあるという話も聞きます。そうなると、いつから再開されるのか?本当に再開する可能性があるのか?そう考えると、私はあまりプロジェクトの再開への期待は薄いように感じます。

・上記の情報から自分なりに感じたこと

 以上の得られる情報や自分の考えを整理すると、当該クラウドファンディングで募集をかけるにあたって、プロジェクト計画がなされていない印象を受けました。理由は以下の3点です。

①制作陣との連携が取れていない
 進捗報告の情報などから、ゲームデザインとディレクション(加えて仕様策定)の担当者と企画(この場合クラウドファンディングの企画を指すと思われる)の間に溝が生まれているのは明らかです。私はこのような状況が好ましいと思えません。
 それは世界観に合わせたシステム、そして個々の実装が制作工程の軸ではないかと考えるからです。
 クラウドファンディングのプレゼンテーションで、ある程度ゲームシステムや構成などが見られても良いのではないかと思うのですが、あまりそういった記述は見られませんでした。
 これはゲーム本体に関わる側の声の反映があまりにも少なすぎるからだと思います。支援者募集の段階では意気込みこそ書かれておられましたが、以降あまり制作側と思われるコメントは見かける事ができませんでした。

②クラウドファンド(企画)の進め方が明確ではなかった
 仮にティーザー広告などのように徐々に情報を明らかにする方法もあるかと思います。仮にそうだった場合、募集期間を長めに設定して、先行購入者のメリットを増やすことや、段階的に募集するようなスケジュールが組まれていてもよさそうですが、あまりそういった印象もありません。
 縦型シューティングゲームとはありますが、私もそこまで詳しくはないのですが、武器(広域型・集中型、あるいは対地型・対空型)の使い分けが必要なゲームなのか、敵を蹴散らす爽快感を重視するのか、大量の敵の攻撃を緻密に掻い潜りながら攻撃していく性質のものなのか?と言ったところは、企画の立ち上げ段階で決定されていそうなイメージですが、あまり記載はなかったようにも思います。
 また、プレーヤーレベルによって難易度を自由に設定できるというような記載もありましたが、どのように実装されて、どう変化していくのかもアピールポイントであると考えますが、そのような記述もありません。
 そして、ゲームシステムと演出の連携です。ここが一番の肝となると考えているのですが、どのようにしたいか?煽り文句だけでもいいのであったほうが良かったように思います。

③予算(期間)設定が適切だったのか?
 そして、大体半年程度を見込んだプロジェクトの予算設定が1000万円弱(立ち上げ当初は500万円)だったことが適切であったのか?という点に関しては私は少し疑問に感じてしまいました。
 例えば大手SIerやソフトハウスのエンジニアに業務を依頼した際、月に100万円(俗に言う人月100万円)くらいは平気でかかるからです。
 特に今回のケースは企画が固まっていないようなものを一括で製造委託することになります。そのような抽象的な要求を具体化して実装へ落とし込むことができるエンジニアと、確定した設計書をベースに実装していくエンジニアを比較すると単価レベルで大きく異なります。
 最低でも半年を見込んでいたとして、エンジニアやクリエイティブスタッフが何人必要で、どのくらいの稼働を見越していくら必要か?と考えた数字としては些か少ない印象です。
 言い方は良くないですが、生活(費)度外視でスタッフの時間を捻出し、売上でカバーするといった感覚でやっていくのであればそれはそれでいいのかもしれません。
 しかし、ゲーム本体の制作陣はメーカーを名乗っているわけで、本当にそんなノリでやり切れるつもりでスタートしたのかは疑問に感じています。
 事実、他のプロジェクトだけでなく、経営にも影響が出てしまっていることが今回の離脱の主たる原因だと明言しているわけです。

改めて見返して、自分ごとに置き換えてみる…

 クラウドファンディングの企画ページを見ると、募集中の期間に演出面の進捗報告というか企画の発表が見られます。しかし、ゲーム本編に関する説明は少ない印象を受けました。
 そして、プロジェクトが始まった後も、演出面に関するアクションの報告はあったものの、真の意味で全体的な進捗報告は少なかったように感じます。
 そもそも、ゲームとしての中核部分を制作会社に一括して委託している都合もあるのでしょうが、その中間成果に関してのチェックはないような印象を受けました。そこに音楽など演出を重ねていく必要があるにも関わらずです。
 このようなプロジェクトではいくつか段階的にフェーズを切って足並みを揃えたり調整などが入るものだと思います。実際に進捗報告には?面が完成して、?面の演出を合わせ込んでいる…とは書かれていますが、数行の記載で果たしてこれでどう判断するのか?と言う点は私には判断できません。
 完成予定から大幅に遅延することが明らかになった(というか期限を過ぎた後に)世間の情勢に影響して大幅な遅延が発生したことが明らかにされました。
 しかし、その状況下でも具体的にどの程度の遅れが発生して、どの程度リリースを待たされるのかについては具体的ではありませんでした。

 ITシステム開発でも、プロジェクト着手後の上流工程と言われる抽象的な要求から具体化する段階では見えていないことが多く、担当者はステークスホルダーであったり、場合によっては調達などだったり、いわゆる外部とのすり合わせや衝突が発生することで想定外に工数が膨らんでしまうことはよくあることです。
 もしかすると「ITプロジェクトの文脈でゲーム開発を語る」ことはあまり適切ではないのかもしれません。
 しかしそうであったとしても、プロジェクト運営という枠でとらえた場合、ゲームデザイン・企画をクラウドファンディング立ち上げ時に主軸に引き込み、開発のスケジュールとクラウドファンディングのスケジュールを固めた上での開発とプロモーションをすべきだったのではないか?と感じずにはいられません。
 どこまで考えていたのか?については、外部者であるわたしには全く知る由もないわけですが…。

企画や発注する側だけの問題か?

 ただ、上記に関して、業務を発注する側に焦点を当てたものではありますが、一方で、請ける側も常に意識する必要があるとも言えます。
 それは、冒頭で紹介した事例やそれに類似するような依頼、発注が時に発生しているからです。
 例えば「制作陣との連携が取れていない」は裏を返せば「企画側とのコミュニケーションが取れていない」ことを意味します。
 進捗が思った通りにいかないことはプロジェクト運営には往々にしてあるわけです。ただ、それを報告せずに後工程で辻褄を合わせようとして、結果的に大怪我をしてしまうと事例は自分ごとではないにしても、どこかで聞いたことがあるよくある話にも思います。
 そして、その連携のためには計画が必要であり、それが「企画の進め方を明確にする」ことと「予算(期間)設定の妥当性」にあたり、それを確認していく必要があるわけです。
 少し前にもパッケージソフトのカスタマイズ業務というプロジェクトが発注後の仕様変更要求が大量に発生しプロジェクトが頓挫し裁判で争ったという事例がありました。( https://biz-journal.jp/2021/12/post_269960.html )
 業務を請ける側もこう言ったことを心に留めてプロジェクトの成功を目指して逐次認識合わせや、場合によっては修正や改善の提案をしていくべきと思っています。

まとめ(?)

 上記のようなことは、プロジェクト固有ではなく、全体的にかつ体系的に議論して知見を構築していく必要があるのではないかな?と考えています。(「それがPMBOKなのでは?」っていうのは確かにそうであるのかもしれません…)
 プロダクトマネージャのような方々の視点や意見や見解を伺いたいという気持ちもありますね…。

  また、話の本筋とはズレてしまいますが、個人的には、最近単なる海外製品の共同購入の場になりつつあるクラウドファンディング界にあって、このような野心がある(のか?…ちょっと判断しか寝ますが)プロジェクトは応援していきたいのですが…。まぁ、残念ですね。 
 今回考えてみたことは以上です。

※他人事のようですが、2、3度海外のKickstarterなどで予算溶かして頓挫したプロジェクトに出資したり、一年以上遅れてやっと届いたものが予想の斜め下いく「これじゃない」モノが送られたりした経験があるので、色々思うことはあります。

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